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映画『約束のネバーランド』はなぜ観る者の心を捉える作品に? プロデューサー・村瀬健に聞く制作秘話、ずとまよ起用の理由

リアルサウンド

20/12/31(木) 19:00

 強烈なインパクトのストーリーと胸を刺すような作画によって、多くの人々を虜にしている『約束のネバーランド』。浜辺美波主演によって実写化された映画が現在公開中となっており、2020年末の日本で大きな話題を呼んでいる。

「連載数話目まで読んだ時点で『これは絶対に僕の手で実写映画化したい』と思って、速攻で出版社に電話しました」

 そう語ったのは、映画のプロデューサーを務めた村瀬健だ。本コラムでは、村瀬へのメールインタビューを行い、その回答を踏まえながら、映画『約束のネバーランド』や主題歌などの魅力について紐解いていきたい(以下、発言は全て村瀬によるもの)。

 『約束のネバーランド』は、白井カイウ原作・出水ぽすか作画によるファンタジー作品だ。「グレイス=フィールドハウス」という孤児院で、ママと暮らす子供達。そこは何不自由ない、安全で幸福な楽園のはずだった。しかしある日、最年長のエマとノーマンは、里親に引き取られたはずのコニーの死体と、異形の「鬼」を目撃してしまう。孤児院は楽園などではなく、鬼の食料とするための「食用児」を育てる農園であり、優しいママはその「飼育監」だったのだ。生き延びるため、エマたちは楽園からの脱獄計画を企てることとなる。

 物語の見どころは、孤児院内でトップの頭脳を誇るエマ、ノーマン、そしてレイの3人と、10数年以上に渡り子供たちを完璧に管理し続けてきたママ・イザベラとの頭脳バトルだ。策略、裏切り、心理戦。ページをめくる手が止まらなくなるような、裏の裏をかく息もつかせぬ原作の展開が、劇場版ではさらにスピード感を増して、約2時間のなかにぎゅっと詰まっている。

映画「約束のネバーランド」【予告】12月18日(金)公開

「設定がとにかく面白いと感じました。子供たちと管理者であるママたちとの心理戦と攻防、そして脱出劇の展開が常に読者の予想を超えたところに進んでいく。それが読んでて本当に面白かったし、ワクワクしました。面白すぎて睡眠時間を削ってまで見続けてしまう海外ドラマのような感覚で読みました」

 映画で描かれている『約束のネバーランド』は、サスペンスであると同時に「大人と子供」の物語でもある。

 「ネバーランド」とは、『ピーター・パン』に登場する架空の国の名で、そこに暮らす住人は年を取らず、大人になることはない。食用児として一定の年齢で殺されることを運命づけられていたエマ達は、「ネバーランド」から脱出して大人になる未来を目指す。彼らの前に立ちはだかるのが、子供の国に君臨する大人・イザベラだ。「諦めることよ。外にはあなた達が生きられる場所なんてどこにもない」と諭すイザベラに対し、エマは「ないなら作ればいい。私たちが生きられる場所」と答える。この構図は、子供を庇護しようとする親の願いと、自我が芽生えた子供の意思がぶつかりあう、自立の物語とも言えるかもしれない。

「原作を読んで、『これは母子の物語だ』と感じました。母と慕っていたイザベラが自分たちを殺そうとする存在だと知った3人とイザベラとの関係こそ、この作品の一番の面白さであり、物語の芯だと感じていましたので、脚本家の後藤法子さん、平川雄一朗監督と一緒に、そこを軸にした脚本作りをしていきました。そして“母と子”特有の『本当はこう思っているのに、伝えられない』というものが両者ともにあると思っていて、原作はそれをうまくストーリーに落とし込んでいるなぁ、と感じていました。なので、今回実写映画化するにあたり、その部分をしっかり描きたいと思って臨みました」

 そんな想いがこもった劇場版の主題歌となったのが、ずっと真夜中でいいのに。が手がける「正しくなれない」だ。これまでの人生や選択で「正しさを選べなかった」瞬間のことが頭をよぎって、思わずハッとさせられる、非常に刺激的な楽曲タイトル。ずっと真夜中にいいのに。と『約束のネバーランド』は、村瀬のなかでどのように結びついていったのだろうか。

「世界中の“正しくなれない”仲間たちにぜひこの映画を観てもらい、『正しくなれない生き方でも大丈夫だよ』と、そっと背中を押してあげられたら、ACAねさんの曲から力をもらった僕にとって、最高の幸せです」

 そもそも、ずっと真夜中でいいのに。が世の中に出始めたとき、村瀬は次のような印象を抱いていたのだという。

「ずっと真夜中でいいのに。が登場した時、『なんて面白いアーティストが出てきたんだ!』と思いました。ACAねさんは、とにかく聴いてて気持ちよくって、いい意味で予想の斜め上をいく展開のメロディを書く人。しかもそこに、ACAねさんにしか書けない独特の言葉使いが載ってくるのが、これまたとてつもなく面白いんですよね」

 さらに、単純に「ずとまよ」ファンだったという村瀬が、『約ネバ』の主題歌のオファーをしたのには、こんな理由がある。

「常に絶望を描きながら、そこに差し込む一筋の光というか、その向こうにある“希望”みたいなものを描いているアーティストだなと思っていたんですよね。その感じって、『約束のネバーランド』に通じるものがあるなと」

 陽光のさす朝ではなく、暗い夜が続くことを願う「ずっと真夜中でいいのに。」というアーティスト名を持つ彼らの楽曲には、暗闇の中でひっそりとうずくまるような静謐さがある。そして、それと同時に、同じく暗闇で息をひそめる人々にそっと差し出すような、かすかな光が灯っていて、それが多くの共感を呼んでいるのだろう。

「もう一つ、僕の中での決め手になったのは歌声です。ACAねさんの歌声には、愛らしくて、でもどこか危うい感じのする“少年性”と“少女性”を感じました。『約束のネバーランド』は子供たちの物語なので、主題歌も“子供たちの声”にしたいと思っていました。だからどうしても彼女の声で歌ってほしいと思いましたし、彼女ならそれが間違いなくできると思っていました」

 そうして出来上がったのが、「正しくなれない」だ。絶望から始まる物語を反映した張りつめたフレーズを、〈僕らは何一つも/奪われてないから〉という歌詞がゆるぎない光のように貫いて、閉ざされた世界を切りひらいていくサビでの展開が見事だ。

「夜、歩いていた道の真ん中で届いたデモをすぐに聴いたのですが、涙が出そうになったことをよく覚えています。『いける』と思いました」

 「正しくなれない」のMVは、悪事に手を染めて生きる少女が、かつての友人を思わせる人物と出会うストーリー仕立てになっている。『約ネバ』とは全く別のオリジナルストーリーだが、自分の人生を改めて自分の手で選び取ろうとする主人公の姿がエマと重なり合う。

「『正しくなれない』のMVには、特に注目していただきたいです。安田現象さんによるアニメも素晴らしい。何と言っても、何回か途中に出てくる過去を回想するシーン。『この服装、この庭の感じ、どこかで見たことあるな……?」と思ってもらえるはずです。そしてMV全体を見直してみると、おそらく泣けてしまうと思います」

ずっと真夜中でいいのに。『正しくなれない』MV(ZUTOMAYO – Can’t Be Right)

 エマの作戦はもちろん、常にうまくいくわけではない。何度も失敗し、阻まれ、時には犠牲を強いられ、そのたびに自分の選択が本当に正しかったのかを問い直されることになる。それでも、間違えたかもしれない現在地をスタート地点に、エマは新たなベストを模索しはじめる。〈考え続けたい〉という歌詞は、立ち止まらないエマの姿勢そのものだ。

「『正しくなれない』というのは、この映画の主題歌としてこれ以上ない最高のタイトルだと思っています。このまま農園で幸せに生きて、温かい気持ちで死んでいくことが“正しい”のかもしれない。それでも、たとえ正解ではなかったとしても、脱獄して生きる道を行く。エマたちの生き方はまさしく『正しくなれない』だと思うんですよね。それはきっと、今この世界で生きているすべての人たちが心のどこかで感じていることだと思います。この世界で生きるにあたって、息苦しい想いをしている人、居場所がないと感じながら生きているすべての人に、『正しくなれない生き方だって正しいんだよ』と教えてくれる最高のメッセージだと僕は思っています」

 鬼、農園、食用児、脱獄……現実離れした目まぐるしいストーリーに没入した後、エンドロールで「正しくなれない」が流れ出した時に気づくことは、これは自分自身の物語だ、ということなのかもしれない。

■満島エリオ
ライター。 音楽を中心に漫画、アニメ、小説等のエンタメ系記事を執筆。rockinon.comなどに寄稿。満島エリオ Twitter(@erio0129

■作品概要
『約束のネバーランド』
原作:『約束のネバーランド』白井カイウ・出水ぽすか(集英社ジャンプコミックス刊)
公開日:2020年12月18日(金)
監督:平川雄一朗
脚本:後藤法子
出演:浜辺美波、城桧吏、板垣李光人 渡辺直美 北川景子 ほか
配給:東宝(株)
©白井カイウ・出水ぽすか/集英社
©2020 映画「約束のネバーランド」製作委員会

映画『約束のネバーランド』公式HP

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