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ReoNa、EXiNA、halca、Tielle、結城萌子……新進気鋭の女性シンガーによる新作5選

リアルサウンド

19/9/8(日) 8:00

 TVアニメで流れるオープニング&エンディングテーマというものは、基本的に番組内で流れる尺が決まっていて、その長さは多くの場合が89秒(ショートアニメの場合は30秒程度といったパターンも)。なのでアニメソングを歌うシンガーは、その限られた時間のなかで、作品の世界観や登場人物の心情、自らの歌手としての個性や魅力、アーティスト性などを表現する必要が出てきます。だからこそ、アニソンシンガーには歌唱力、声質、表現力、パフォーマンス力といった様々な資質が求められるわけで、その結果としてアニソンシーンには、それらを磨き上げた特別な才能を持つ人が集まることになるのです。

 今回は、そういったアニメ音楽の世界を中心に活躍したり、アニメや声優活動をきっかけに歌手としての才能を開花させた人のなかから、新進気鋭の女性シンガーによる新作を紹介。なおかつ、アニメタイアップ曲を含んでおらず、純粋に自身のアーティスト力のみで勝負した作品だけを、あえてセレクトしてみました。今どきは「アニソンシンガー」や「アニメ音楽」を色眼鏡で見る人なんてあまり見かけなくなりましたが、これらの作品はたとえ「アニメ」を知らない人でも共感できるものばかり。その音楽と才能に、曇りなき心で触れてもらえると幸いです。

ReoNa『Null』

 まず最初に紹介するのが、ReoNaのニューシングル『Null』。彼女については本連載でも何度か取り上げているので、詳しくはそれらをチェックいただけるとありがたいですが(神崎エルザ starring ReoNa、halca、XAI……飛躍に期待の若手女性アニソンシンガー新譜5選 ほか)、ざっくり説明すると、2018年に<SACRA MUSIC>よりデビューした“絶望系アニソンシンガー”というキャッチコピーを持つ現在20歳の歌い手。代表曲に「forget-me-not」(『ソードアート・オンライン アリシゼーション』エンディングテーマ)、「SWEET HURT」(『ハッピーシュガーライフ』エンディングテーマ)などがあります。で、今回のシングルは、彼女が自身のアーティスト活動の原点を表現する“ReoNa ZERO”プロジェクトの一環として制作された作品。そのコンセプトに沿って、収録曲はすべて彼女がアニソンシンガーとしてメジャーデビューする前の時代、ひとりの歌手としてライブハウスで歌っていた「アーティストとしての原点」の時代に制作された楽曲を、新たにレコーディングしたものになります。

 なかでも1曲目の「怪物の詩」は、近年のワンマンライブでも必ず歌われている、ReoNaのファンにとっては馴染み深いナンバー。デビュー前の頃、それまでカバー曲を中心に活動していた彼女が初めて歌ったオリジナル曲であり、ライブやスタジオで何度となく歌い込んできたという、まさに原点の一曲です。どこか寂しさを纏ったエモーショナルなギターロックに乗せて歌われるのは、自らの感情の扱い方もわからないまま孤独に沈む者が、まだ見ぬ愛への衝動を叫ぶ悲痛な気持ち。学生時代にいじめを受け、家にも自分の居場所がなく、孤独の淵にいた経験を持つReoNaだからこそ表現できる歌と言えるでしょう。

 そして2曲目「Lotus」は自傷行為の痛みを受け止めながらも希望を描く、優しく感動的なミディアムバラード。3曲目には、これもライブでたびたび歌っているAqua Timez「決意の朝に」のカバーを収録しています。ReoNaはライブで「決意の朝に」を披露する際、MCで歌詞の〈辛い時 辛いと言えたらいいのになぁ〉という言葉をよく引用しますが、それは彼女が言うところの「お歌」を通して聴き手に届けたいメッセージのひとつでもあります。絶望や辛さを感じる人の背中を押すのではなく、その気持ちに寄り添うような「お歌」を歌うこと。それが彼女の目指す表現であり、“絶望系アニソンシンガー”と呼ばれる所以でもあるのです。

EXiNA『XiX』

 続いては、西沢幸奏が新たに始めたソロプロジェクト、EXiNA(イグジーナ)によるデビューミニアルバム『XiX』を紹介します。西沢は当時高校生だった2015年に、TVアニメ『艦隊これくしょん -艦これ-』のエンディングテーマ「吹雪」で歌手デビュー。以降も数多くのアニメタイアップ曲を担当し、ライブでは愛用の黒いフェンダー・テレキャスターを弾きながらパフォーマンスを行うなど、ロックなアーティストとして人気を集めてきました。そんな彼女が今年7月に突如、EXiNAとしての活動を発表。サイバーチックなポンチョ風の衣装を身に纏い、マスクで顔の下半分を隠したミステリアスなビジュアル、そしてダウンチューニングしたギターと派手なシンセが飛び交うエレクトロニコア系のミクスチャーロックという、それまでのイメージを覆すスタイルでファンを驚かせました。

 『XiX』には先行公開された「EQ」「KATANA」といった楽曲を含む全7曲を収録。作詞は西沢本人、作曲・編曲は藍井エイルなどへの楽曲提供でも知られるクリエイターの篤志が全曲を手がけており、最初から最後までアグレッシブ極まりないデジタルロックサウンドで貫かれています。本人の歌唱も以前よりワイルドに振り切っていて、「BERSERK」での叩きつけるような唸り声などはこれまでに聴くことができなかったもの。また、英語と日本語をミックスした歌詞を違和感なく聴かせる歌い方も堂に入っています。西沢と言えば即興ソング作りを得意とし、メロディやサウンドに対してリズムよく歌詞をハメる才能に長けていることは、西沢幸奏名義の楽曲「LOVE MEN HOLIC」(2018年)などでも顕著に感じることができましたが、EXiNAではそれがさらに進化した印象。劇的な変化を遂げた彼女の活動に、これからも目が離せません。

halca『white disc +++』

 3組目は、スウィートかつ伸びやかな歌声と愛らしいキャラクターで注目を集めるhalca。2018年にTVアニメ『ヲタクに恋は難しい』のエンディングテーマ「キミの隣」でメジャーデビューした彼女ですが、実はそれ以前から同じ事務所のミュージックレインに所属するCHiCO with HoneyWorksのライブのオープニングアクトを務めるなど、シンガーとしての経験を積んできたことで知られます。その時代にライブ会場で販売していたインディーズ盤『white disc』(現在は入手困難)に新曲を4曲加えてリパッケージしたのが、ここで紹介するミニアルバム『white disc +++』。彼女のルーツと新たな挑戦をまとめてコンパイルした、入門編にもピッタリの作品になっています。

 切々とした歌を聴かせる名バラード「キミの空」、kz(livetune)が提供したポップなエレクトロハウス「Hail to the world!!」といった『white disc』収録曲が気軽に聴けるようになったのもうれしいですが、やはり注目したいのは彼女の新しい一面を知ることができる新曲群。「Distortionary」「朽葉色の音」といったアップテンポなロックチューンでは、かつてなくクールで情熱的な歌い口を披露。halca自身がファンだというシンガーソングライターのコレサワが書き下ろした「君だけ」では、“めんどくさい女子”のワガママなかわいらしさをキュートに表現しています。さらに松隈ケンタがプロデュース/作曲を担当、その松隈とJxSxK(渡辺淳之介)が作詞したロックバラード「GOING CRAZY NIGHT」が絶品と言える出来栄え。ゆったりじわじわとエモさを増していくその歌声には、デビューからの成長の度合いがしっかりと刻まれています。

Tielle『BETWEEN』

 そして配信シングル『BETWEEN』でソロアーティストとしての活動をスタートさせたのが、劇伴作家の澤野弘之によるボーカルプロジェクト=SawanoHiroyuki[nZk]のゲストボーカリストとして知られるTielle(チエル)。澤野が2015年に行ったオーディションで彼の目に留まり、2016年に『機動戦士ガンダムユニコーン RE:0096』のオープニングテーマ「Into the Sky」で世に出た彼女は、その後もGemieと一緒に「gravityWall」や「sh0ut」(『Re:CREATORS』オープニングテーマ)を歌ったほか、「VV-ALK」「CRYst-Alise」「Cage」などの楽曲で歌唱を担当。SawanoHiroyuki[nZk]の壮大な世界観を表現する歌い手のひとりとして、ライブなどを含め活躍してきました。

 そんなTielleの初ソロ作品となる『BETWEEN』には、彼女と同じくSawanoHiroyuki[nZk]で歌っているYosh(Survive Said The Prophet)とトラックメイカーのDAIKIが楽曲制作で参加。繊細かつエモーショナルな美しさを湛えたバラード「good girl」と、現行のアフロポップに通じるリズミカルでスケール感のあるトラックが切なさを引き立てる「trying」の2曲を収録しています。かつてニューヨークで生活していた経験を持つ彼女だけに、どちらの楽曲も歌詞は英語が中心。ドラマティックに歌い上げる前者、ハーモニーを重ねたスムースな聴き心地の後者と、それぞれの曲調に合った歌唱アプローチでシンガーとしての表現の幅をアピールしています。彼女は自身のYouTube公式チャンネルにビヨンセ「Halo」やアデル「All I Ask」のカバー動画をアップしているのですが、そういった洋楽のポップスを好んで聴く人にこそ、ぜひ届いてほしい作品です。

結城萌子『innocent moon』

 最後にピックアップするのは、声優の結城萌子によるメジャーデビューEP『innocent moon』。子供の頃からアニメ好きで、今年1月に劇場アニメ『あした世界が終わるとしても』で本格的に声優デビューしたばかりという彼女。その一方で幼少期から様々な楽器に触れて育ち、音楽学校ではフルートを専攻するなど、音楽的にも豊かな素養を持っているようです。実はかつて綿めぐみという名義でアーティスト活動を行っていたことがあり(参照:音楽ナタリー)、そのときは小袋成彬(OBKR)らが運営するインディーレーベルの<Tokyo Recordings>に所属。2014年にフリー配信された楽曲「災難だわ」などで注目を集めました。

 そんな彼女の新たなデビュー作には錚々たる作家陣が参加しています。まず、4曲の収録曲全ての作詞・作曲を手がけたのは川谷絵音(ゲスの極み乙女。、indigo la Endなど)。アレンジャーには菅野よう子、ミト(クラムボン)、Tom-H@ck、ちゃんMARI(ゲスの極み乙女。)という豪華な顔ぶれが揃い、それぞれのやり方で結城の歌手としての魅力に新たな光を当てています。オープニングを飾る「さよなら私の青春」は、熱の入ったバンドアンサンブルと優雅なストリングスが景色を広げる、菅野らしいアレンジが冴える一曲。他にも、柏倉隆史(the HIATUS、toe)の奔放極まりないドラムプレイが牽引する「幸福雨」など、サウンド面の主張の強い楽曲が並びますが、それが結城のふんわり可憐なボーカルと合わさることで、エッジーだけど絶妙にポップな塩梅に着地しています。今後、声優として、歌手として、その声を求められる機会が増えていくことは間違いないでしょう。

■北野 創
音楽ライター。『bounce』編集部を経て、現在はフリーで活動しています。『bounce』『リスアニ!』『音楽ナタリー』などに寄稿。

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