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国民的猫型ロボットが落ちこぼれであることを思い出したい『STAND BY ME ドラえもん2』

リアルサウンド

20/12/8(火) 10:00

 子供の頃、のび太のことを羨んだ人は多いだろう。どんな困難に降りかかられても、彼の隣にはいつだって青くて丸みを帯びたフォルムの相棒がいたからだ。私も欲しかった。決してあの“四次元ポケット”が欲しかったわけではない。私たちはいつも、どんなに自分がダメダメでも隣に居続けてくれる“ドラえもん”が欲しかったのだ。

 『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編」』の凄まじい人気っぷりに初週1位にこそならなかったが、公開3週で2位の座を守り続けている『STAND BY ME ドラえもん 2』。前作直後の出来事として、結婚式当日の騒動を名作エピソード「おばあちゃんのおもいで」や「ぼくの生まれた日」を織り交ぜて描いている。本作では、いつにも増してドラえもんのポンコツっぷりが激しい。しかし、その様子は彼が完全な存在ではないことを改めて我々に思い出させるものだった。コミック連載開始から50周年、徐々に変化を遂げていったドラえもんというキャラクターについて、この機会に改めて振り返ってみたい。

ドラえもんは落ちこぼれロボだった

 まずはドラえもんの原点に立ち返ろう。彼は旧設定(てんとう虫コミックス11巻掲載『ドラえもん百科』)と新設定(映画『2112年 ドラえもん誕生』)で生い立ちに少し違いがあるが、一貫してロボットとして「不良品」なのだ。旧設定では製造後の検査で人間に近いと判断され、ジャンクに。新設定では製造中に落雷を受け、ネジが一本外れて生産ラインから落ちてしまう。この後遺症のせいで彼は周りのロボットに比べて劣り、養成学校でも特別クラスに編入する落ちこぼれ街道を歩んでいく。

 ネズミに片耳をかじられて、病院に行ったら行ったで逆に両耳を失うはめになる。ツルピカのハゲになったことを憂い「元気の素」を飲んで立ち直ろうとするも、うっかり「悲劇の素」を飲んで三日三晩泣いた結果、全身が真っ青になってしまう。そう、のび太に出会う前のドラえもんは、彼自身がのび太と言っても過言ではないほど、不注意や悪運に見舞われるドジなロボットだったのだ。

 そしてひょんなことをきっかけにのび太の孫の孫であるセワシくんに拾われ、彼を幸せにするため、不幸の元凶である最も出来の悪い先祖・のび太のもとへ向かう。漫画第1話ではジャイ子と結婚し、大学入試も就職活動も失敗。自ら起業する(!)も5年で会社が火事で丸焼け。その2年後には会社が潰れ、借金取りに追われる日々を送るのび太の未来が明かされる。ドラえもんは、つきっきりでのび太のこの恐ろしい運命を変えようと言うのだ。しかし、彼は決して出来た人間……いや、ロボットではないということを忘れてはいけない。

ブラックユーモア溢れる存在 道具は出せてもモラルは低い?

 ドラえもんは、その四次元ポケットの中からのび太に必要なひみつ道具を出していく。ほぼ、どんなピンチにも対応できる道具を次から次へと用意するので、まるで高スペックロボットのような印象を受ける。しかし、ひみつ道具が出せるからといってドラえもんが人格者というわけではない。

 ある時、のび太がテスト前日に慌てふためいていたら「学校を吹き飛ばせばテストがなくなる」とか「動物ライトで先生をゴリラにしよう」など、とにかくモラルのかけらもない発想ばかり。最終的に出した「アンキパン」も、のび太に自らテスト勉強をさせる機会を奪う悪質なチート道具だ。他にも、のび太がスネ夫にいじめられた時、彼の弱みを握ってやろうと「スパイセット」を使って恐喝ネタを探るなど、大人気がない。すぐに楽をしようとするのび太に、あえてヤバい道具をつかませる意地悪さもあって、そういうモラル度外視のブラックユーモア溢れる笑いと楽しさがドラえもんの持ち味だった。


 それに、ドラえもんが逆にそんな風にいい加減で頼りないからこそ、のび太が自発的にしっかりしていく空気感もあった。思えば初期の『ドラえもん』は基本的にのび太が学校でいじめられて泣きながら帰ってきたのを見て、ドラえもんの方がそれに怒るという順序だった。のび太はただ悲しくって、どうしたらいいかわからないだけ。そんな彼に「もっと怒るべきだ! なめられんなよ!」と焚きつけるドラえもん。すると、のび太が「確かに! なんだかムカムカしてきたぞ!」と、ひみつ道具を要求しはじめる。これ、本来は怒るのび太をドラえもんが「まあまあ」と嗜める役目のはずなのに……。

 加えてのび太が、ドラえもんが考えなしに渡してくる道具の使用をめぐって、自発的に善悪の判断を学んでいく場面も多かった。例えば宿題を早く終わらせたいと言うのび太に、ドラえもんが渡した「コンピューターペンシル」。これを使えば、一度はテストで百点をとるという夢が叶う! 嬉々としたのび太はドラえもんにペンシルを返さないでいたが、次の日彼は軽蔑されることを恐れて結局道具を使わずに試験に挑んだ。

大山ドラと水田ドラで異なるドラえもん像

 こんなふうに、ドラえもんはどちらかというとのび太と一緒に慌てふためくことが多いしブラックユーモア満載で、例えるなら何の責任も負わない親戚の調子のいい叔父さんみたいなところがある。しかし、大山のぶ代によるアニメ版ではこれが少しずつ変化していく。最終的には落ち着いた様子でのび太を温かく見守り、時には諭す指導者、つまり母親のような存在になった。これは大山のぶ代のしわがれた声そのものが大きく影響している。

 ところが、2006年に声優の大幅な編成替えや作画を一新したリニューアルが起きる。そこで生まれた新ドラえもんは、まるで大山のぶ代時代のものと似ても似つかぬものだった。新たに声優に抜擢された水田わさびの声は、よりハイトーンなアニメボイス。テンションも高く、大山ドラにあった落ち着きは皆無。悪ノリも増え、すっかりドタバタした雰囲気になっている。そう、製作陣は一新する際にドラえもんをより漫画に近いイメージに軌道修正したのだ。しかし、アニメの作風自体は大人向けから子供向け路線に変更。ブラックな部分はあまり出さず、教育やポリティカル・コレクトネスを意識した内容になっていきました。

「ダメなやつ同士でいい」不完全さに肯定的なメッセージ

 多少ドラえもんの雰囲気が変わったとはいえ、実は彼における大事な要素はそこまで変わっていない。つまり、相変わらず落ちこぼれ。『STAND BY ME ドラえもん 2』では、それが顕著に描かれている。この八木竜一監督×山崎貴脚本・共同監督によるフルCG版『ドラえもん』映画は、1作目の冒頭で「のび太を恐ろしい未来から救う」のではなく「幸せにするためにきた」ことになっているなど、プロットの都合に合わせて従来のドラえもんとは多少の違いがある。とはいえ、声は水田わさびが当てているので、水田ドラと考えていいだろう。

 『STAND BY ME ドラえもん 2』ではドラえもんがとにかくヘマをする。タイムマシンに乗るなら何が起きても大丈夫なように、点検をしていた道具を回収するべきだし、大人のび太の魂が入った子供のび太を探すのも、かなり非効率的な方法をとっている。いざ「どこでもドア」を使っても考えなし過ぎて、すぐに見つけられない。本作で暴走する大人のび太もあんまりだけど、ドラえもんも普段よりポンコツで見ていられない! 一番やっちゃいけなかったのは、身を持って素晴らしい学びを得たのび太に「忘れん棒」を誤って使い、記憶をなくしてしまったこと。せっかく2人で大事なことを学びながら大人のび太が結婚式当日に逃げ出す運命を変えたのに、子供のび太がそれを忘れてしまったら、やはり大人のび太は式から逃げ出してしまうのではないだろうか。

 とはいえ、ドラえもんを責めてはいけないなと思う。のび太のことも。彼らが落ちこぼれでなくなってしまったら、もうそれは『ドラえもん』じゃないからだ。『ドラえもん』とは、何をやっても人が当たり前にできることができないのび太と、ロボットという完璧な存在のはずなのに落ちこぼれなドラえもんの2人が「そんな君でもいい」と、お互いの不完全さを肯定し合っている図が優しいのではないだろうか。


 「特定意志薄弱児童監視指導」という肩書きのドラえもんが、そんなのび太を更生しにやってきた。しかし、長い時間をかけて共に過ごした彼がのび太に見たもの、それは不器用なりに人一倍誰かの喜びや悲しみに共感できる彼の優しさや正義感だった。そして、そんな彼をドラえもんは変えたいなんてもう思わない。指導者としてではなく、友達という立場になった2人は誰よりもお互いの悩みを理解しあえるだろうし、ダメなやつでもお互いのことを見捨てたりしない。

 『STAND BY ME ドラえもん 2』は身内の死の記憶や結婚と、大人向けの内容だった。のび太が得たもの、それが単なるひみつ道具を出してくれるロボットではなく、一生涯の友達だったということも逆に子供の頃より大人になった今の方が羨ましい。

■アナイス(ANAIS)
映画ライター。幼少期はQueenを聞きながら化石掘りをして過ごした、恐竜とポップカルチャーをこよなく愛するナードハーフ。レビューやコラム、インタビュー記事を執筆。InstagramTwitter

■公開情報
『STAND BY ME ドラえもん 2』
全国公開中
原作:藤子・F・不二雄
監督:八木竜一
脚本・共同監督:山崎貴
声の出演:水田わさび(ドラえもん)、大原めぐみ(のび太)、かかずゆみ(しずか)、木村昴(ジャイアン)、関智一(スネ夫)、宮本信子(のび太のおばあちゃん)、妻夫木聡(大人のび太)
主題歌:菅田将暉「虹」(Sony Music Labels Inc.)
配給:東宝
制作:シンエイ動画、白組、ROBOT
制作協力:藤子プロ・阿部秀司事務所
製作: シンエイ動画、藤子プロ、小学館、テレビ朝日、ADKエモーションズ、小学館集英社プロダクション、東宝、電通、阿部秀司事務所、白組、ROBOT、朝日放送テレビ、名古屋テレビ、北海道テレビ、九州朝日放送、広島ホームテレビ、静岡朝日テレビ、東日本放送、新潟テレビ21
(c)Fujiko Pro/2020 STAND BY ME Doraemon 2 Film Partners
公式サイト:doraemon-3d.com

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