Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

東京少年倶楽部、『空の作りかた』に込めた自然体の想い “10代の終わり”を詰め込んだドキュメント作品を紐解く

リアルサウンド

20/6/3(水) 12:00

 〈頭の中ウインカーはずっと定まらないまま/退屈が嫌いで人生の夏を見つけに出よう〉(「flipper」)――という一節から始まる、東京少年倶楽部の初全国流通ミニアルバム『空の作りかた』(6月17日発売)。何度聴いてもその瑞々しさと純粋さに心が動く、すばらしい作品である。

(関連:東京少年倶楽部『空の作りかた』に込めた想い

 2017年7月に京都で松本幸太朗(Vo/Gt)、三好空彌(Ba) 、古俣駿斗(Dr)の3人によって結成された東京少年倶楽部(現在はgyary(Gt/Key)が加入し4人組に)。昨年のオーディション『RO JACK for ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2019』で優勝するなど注目を集めるようになるなかで、彼らは10代を終え20歳になった。

 『空の作りかた』に封じ込められているのは、そんな10代の終わりにかけて誰しも感じる、どこにも行けないけどどこかに行きたい、焦燥と不安と希望と情熱、そして怒りがごたまぜになった心だ。松本が書くメロディと歌詞は、まるで呼吸するかのようにその心を言葉と音符に変え、目の前の景色に重ねていく。無邪気で自然体で、だからこそ真実を射抜いているような、そんな音楽だ。

 フジファブリックの「茜色の夕日」に衝撃を受け、「バイト代がちょっと多かった月に、アコギを買ってみた」というきっかけで音楽を志した松本が、たまたま知り合ってウマが合ったメンバーと遊びの延長で組んだバンド(最高のバンド名もノリで決めたそうだ)。そんな何気ない成り行きで、言葉を変えれば「運命的」ともいえる巡り合わせでスタートしたという東京少年倶楽部だが、その根底にはこんな思いがある、と松本はいう(以下、発言はすべて彼へのメールインタビューより)。

「今、何をしたらいいかわからないような……心ここにあらずという感じ。音楽をやる前から、なんなら小さい時からずっとそんな気持ちでいます。『僕には何もないな』という思いが強いです」

 〈いつかきっと旅に出るのさ〉と歌う「ぼくはかいじゅう」、〈体がちぎれてしまうほどの速さをいつも探してる〉と歌う「stand by me」。冒頭に引用した「flipper」の歌い出しもそうだが、松本の書く楽曲の主人公はいつでも「ここではないどこか」を探している。バンドを結成したのも、もしかしたらそれを見つけるためだったのかもしれない。松本はバンドを組んだときの気持ちをこう振り返る。

 「はじめにWOMCADOLEの樋口(侑希)さんに誘われて歌った路上ライブで古俣に出会いました。その後に古俣の紹介で三好に出会ったんですけど、今思い返すと出会った時は、3人とも何もなくて、死ぬまでの暇つぶしに生きてるような感じでした。3人の共通が音楽が好きなことだったから自然な流れでバンドになったのかなと思います」

 〈永遠に続くジグソーパズルに飽きてきた時エンドロールから始まる映画眺めてた/心にグッとくるこんな曲が流れ出したんだ〉――まさに「ぼくはかいじゅう」に歌われているようにして、彼らは音楽と出会い、バンドを始めた。たとえば、ミニアルバムの最後に収録された「1998」で、彼はこう歌っている。〈革命を覚えたのは みんなが嘘をつき投げ散らかした恐怖を/整理する人が殺されかけた時だ 熱にうなされる時は今でも夢に見るんだ〉。ほかの楽曲とは少し毛色が違う「暗さ」と、その感情が合唱によって光に変わっていくようなアレンジは、バンドだからこそ鳴らせたものだろう。その意味では彼らにとって、このバンドを始めたことは間違いなくひとつの「革命」だったのだと思う。

 『空の作りかた』の、オールディーズから日本のロックまでさまざまな影響源を感じさせるサウンドの幅と、とりあえず思ったことをコードに乗せて歌うのが最優先というようなシンプルなメロディは、使い古された言葉でいえば「初期衝動」ーーいや、衝動というよりも「やむにやまれず出てきてしまった」というような手触りに満ちている。曲によってはノスタルジックだったり牧歌的だったりする歌詞でも、どこかに満ち足りない思いとそれに対するフラストレーションが潜んでいる。ポップで耳馴染みのいいメロディでも、その奥底には鋭い棘が埋まっている。そのアンバランスさこそが東京少年倶楽部というバンドに僕が惹かれる理由だ。「何もない」が「これしかない」に逆転する瞬間の眩しさが、このミニアルバムにはみっちり詰め込まれている。

「バンドを組んでからの時間を、僕ら4人も聴いてくれた方も感じるミニアルバムにしたいなという思いが強かったです。それを4人で悩みながらひとつのものにしていくということに重きを置いて作れたことが嬉しかった」

 松本は『空の作りかた』に込めたものについてそう語ってくれたが、まさにここには彼らがバンドを結成してから――いや、それ以前から抱いていた感情を、4人で分かち合い音楽にしていく物語がくっきりと刻まれている。つまりこの作品は「10代」というどうしようもなく不完全燃焼な時期をくぐり抜けた先で歌われるドキュメントなのだ。「死ぬまでの暇つぶしに生きてるよう」だったメンバーが集まり、その思いを音と言葉にして鳴らした、人生で一度きりのドキュメント。これを作ったことで、それまでの過程がすべて正解になる――そういう作品だと思う。

「10代で信じられる友達や尊敬できる人達に出会えたから今の僕がある。何歳になってもいい時代だったなと思えるような10代を過ごせました。20代になって1番感じることは、髭が伸びるのが早くなりました(笑)」

 そんな松本と東京少年倶楽部の「10代」から今までの日々を昇華したミニアルバム。「僕は同世代に何かを言えるほどできた人間でもない。みんなそれぞれ置かれた環境で必死に頑張ってるように見えますし、街を歩いてて同い年くらいの人を見かけると『自分も頑張らないとな』って思わせてもらう機会の方が多いです」という松本だが、きっと彼と同じような気持ちを抱いて日々を生きている同世代はたくさんいる。そんな人々に、この音楽は深く届くはずだ。

 いや、同世代だけではない。この『空の作りかた』は本来であれば4月にリリースされているはずだったが、新型コロナウイルスの影響の中で発売延期を余儀なくされたという経緯がある。彼らがこの作品を引っさげて臨むはずだった6月から7月にかけてのツアー『夢中飛行TOUR 2020』も全公演延期となった。

「ギリギリのところで耐えて不安を募らせながら日々過ごしている人がたくさんいる状況で、僕はお金を持ってるわけでもないし、頭も良くないし、たくさんの人に知られているわけでもないので、力になれない悔しさを感じています。ニュースを見て絶望する日ばかり、この状況を変えようと頑張っている人を見たりすると、なんで家にいる自分が暗くなってるんだよと腹立たしくなったりもするので、せめて明るくいたいなと思ったり。その間を行ったり来たりしています」

 と松本は最近の思いを言葉にしてくれたが、他のすべての音楽がそうであるように、鬱屈した日々の思いを輝かせて「僕らの空」を見せてくれるような彼らの音楽は、それ自体がひとつの「エール」だという気がする。再び彼らの音楽がライブハウスで鳴る日を夢見ながら、今も僕はこのミニアルバムを聴いている。(小川智宏)

新着エッセイ

新着クリエイター人生

水先案内

アプリで読む