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平辻哲也 発信する!映画館 ~シネコン・SNSの時代に~

『人生フルーツ』に続くか、正月公開の問題作『さよならテレビ』

隔週連載

第27回

19/12/29(日)

ドキュメンタリーをいつも上映しているミニシアターが「ポレポレ東中野」だ。この数年は興行の常識にはない1月2日から新作を公開することでも知られている。驚異のヒットとなった東海テレビ製作の『人生フルーツ』(2017年)も正月から1館でスタートし、全国120館以上に広がった。その仕掛け人は「下北沢トリウッド」(第20回に登場)の代表でもあるという異色の映画人。2020年も1月2日からテレビ報道の内幕を赤裸々に明らかにした東海テレビの問題作『さよならテレビ』を封切る。

JR総武線、大江戸線「東中野駅」から徒歩1分。複合ビル「ポレポレ坐」を地下深く降りたところに、ポレポレ東中野はある。座席数96。中野区唯一の映画館であり、ドキュメンタリーや新人作家の作品を中心に上映してきた。

前身は「BOX東中野」(1994年開館)。運営会社とビル所有者の契約の関係で2003年4月25日に閉館し、ビル所有者が新たに支配人を公募したところ、「下北沢トリウッド」代表の大槻貴宏さんが決まり、同年9月6日に「ポレポレ東中野」としてリニューアルオープンした。大槻さんは現在、「株式会社ポレポレ東中野」社長も兼務し、午前にポレポレ東中野、夕方に下北沢トリウッドに顔を出す。

地下への階段にはチラシがいっぱい

「ポレポレ東中野」の歴代ベスト5(ファーストランのみ)には珠玉のドキュメンタリーが並ぶ。

1位『人生フルーツ』(伏原健之監督、2017年)
2位『ヤクザと憲法』(圡方宏史監督、2016年)
3位『ある精肉店のはなし』(纐纈あや監督、2012年)
4位『ひめゆり』(柴田昌平監督、2007年)
5位『ぼけますから、よろしくお願いします。』(信友直子監督、2018年)

「『人生フルーツ』はケタ違いのヒットでしたね。うちだけで5万人(全国動員約22万5000人)を動員しました。“東海テレビドキュメンタリー劇場”の第10弾ですが、これまで9本をやってきた東海テレビさんへのご褒美のようなものだと思っています」と大槻さん。しかし、テレビ版が2017年年末に日本放送文化大賞を受賞し、2018年1月28日のフジテレビ放送が決まった時はちょっとした騒ぎになった。

「東海テレビも配給会社も受賞を喜びつつも、『これでは映画館にお客さんが入らなくなる』と心配してくれたんですけども、僕自身はどんどんやったらいいと思っていました。宣伝になるわけだし、テレビ版を観た人は劇場版を観たいと思うでしょうから。実際、放送直後の日曜日は毎回立ち見になって、動員記録を出しました」。愛知県春日井市のニュータウンの片隅で暮らす老建築家夫婦の静かな生活を描いた同作は6週間、1日4回上映を行い、その後は臨機応変にスケジュールを組み替えて、9月まで35週上映するロングランに。しかも、1回当たりの平均動員数はほとんど落ちなかった。

そのヒットの原体験とも言えるのが、開館まもない上映となった『赤目四十八瀧心中未遂』(荒戸源次郎監督、2003年)だった。「荒戸さん(2016年死去)が『この映画をかけろ。初日は10月25日だ』というわけです。お願いではなく、脅しでした(笑)。しかも、『絶対に賞を取るから、1、2月までやれ』と。実際にたくさんの映画賞を取りましたから、さすがと思いました。荒戸さんは『公開日は映画の誕生日のようなものだ。生まれたばかりの赤ちゃんに何もしないってことはないだろ。最初の2、3か月に手をかけてやるもんだ』と話してくれたんです。これは面白い考え方だなと思って、いろんなイベントをやりました。最初に、興行の面白さを再認識できたのはよかった」と振り返る。

ロビー

ドキュメンタリー映画の興行の転機となったのは太平洋戦争末期、従軍看護活動にあたった「ひめゆり学徒隊」の生存者達の証言を基にした『ひめゆり』。1万人を動員し、ドキュメンタリーでも1日4回観客を集められるという手応えを掴んだ。「モーニングがあって、メインが3〜4回あって、レイトショーというのを定番にしてきましたが、中には全然お客さんが入らない『死に回』があるんです。ここをなんとかすれば、よくなってくると思いました。これまではチラシで上映時間をお知らせしてきましたが、スマホが普及してからは、フレキシブルに番組が組めるようになった。これは劇的な変化だと思います」

さらに、テレビ局のドキュメンタリーが観客の裾野を広げる。「2004年にはフジテレビが製作した在日朝鮮人問題をテーマにした『HARUKO』がヒットしましたが、その後が続かなかった。やはり、東海テレビドキュメンタリー劇場の存在は大きかったです。最初にお話を頂いた時は『最低3本は必ず続けてやりましょうよ』と言ったんです」。第1弾は戸塚ヨットスクール事件で時代のヒーローから一転、希代の悪役となった戸塚宏校長の今を描いた『平成ジレンマ』(齊藤潤一監督、2010年)。さらに、ヤクザと人権問題に切り込み、暴力団事務所に潜入した第8弾『ヤクザと憲法』が大ヒット。「『ヤクザ映画と言ったら、お正月映画でしょう』と言って、1月2日を初日にしたんですよ(笑)。『人生フルーツ』も『さよならテレビ』も1月2日が初日です」。正月興行はどうも縁起がいいらしい。

全席自由席、入れ替え制
後方上部に見える映写室はガラス張り

大槻さんが「『人生フルーツ』以上のヒットを」と期待を込める『さよならテレビ』は、『ホームレス理事長』『ヤクザと憲法』の圡方監督がテレビ報道の内幕を赤裸々に明らかにしたもの。2018年2月に東海テレビ開局60周年記念番組として放送され、全国のテレビ関係者を中心に大きな話題に。その録画DVDは「密造酒」のように出回った。映画版はテレビ番組に32分を追加したロングバージョンだ。

「ウチの窓口で50枚売れれば、大ヒットの前売り券が、(12月24日現在)220枚以上売れています。相当いくんじゃないかと思っています。ただ、『人生フルーツ』は誰が観てもとても気持ちの良いになる映画でしたが、『さよならテレビ』は誰が観ても、モヤモヤするんですよね(笑)。ホントにいろいろな感情が巻き起こって、他人の感想を聞きたくなる映画です。でも、内容はテレビ局だけではなく、どこの会社でも、どの社会でもありうる話。この映画が観客にどう受け止められるのか、楽しみです」と話す。テレビ業界騒然の問題作は、映画界でも旋風を起こすことができるか。

映画館データ

ポレポレ東中野

住所:東京都中野区東中野4-4-1 ポレポレ坐ビル地下
電話番号:03-3371-0088
公式サイト: ポレポレ東中野

プロフィール

平辻哲也(ひらつじ・てつや)

1968年、東京生まれ、千葉育ち。映画ジャーナリスト。法政大学卒業後、報知新聞社に入社。映画記者として活躍、10年以上芸能デスクをつとめ、2015年に退社。以降はフリーで活動。趣味はサッカー観戦と自転車。

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