近づくのを一瞬ためらってしまうほど整った顔立ち。だけど、カメラマンがカメラを向けると、すぐに変顔をしたがる遊び心も。
大人の色気と、やんちゃな少年心が同居しているところが、俳優・木村達成さんの魅力です。
近年は、福田雄一演出のミュージカル『プロデューサーズ』や、白井晃演出のミュージカル『ジャック・ザ・リッパー』など話題作に続々出演。最新作『SLAPSTICKS』では、奇才として名高いケラリーノ・サンドロヴィッチの戯曲に挑みます。
充実した1年を終え、さらなる飛躍のステージへ。成長著しい28歳の素顔に迫りました。
作品づくりへの情熱は、僕たちと変わらない
── 今回主演するKERA CROSS 第四弾『SLAPSTICKS』は、あのケラリーノ・サンドロヴィッチの戯曲です。KERAさんの作品はご覧になったことはありますか。
実はないんです。だから、特に何の先入観もなくて。周りのみなさんのお話を聞いていると、この『SLAPSTICKS』はあんまりKERAさんっぽくない話らしくて。だけど、僕はもともとKERAさんに対するイメージがないから、フラットに作品の中に入っていけているのかな、とは思っています。
── では、戯曲を読んだ感想を聞かせてください。
舞台は、サイレント映画からトーキー(発声映画)に移り変わろうとしている時代。ただ、僕はサイレント映画もよく知らないので、サイレント映画が人気だった時代にこうしたスラップスティックコメディというものがあったんだということも、この戯曲を読んで知ったし、それに熱を注ぐ人たちの気持ちも最初は理解しがたいところがあったんです。
だけど、この戯曲で描かれているのは、自分が死んでも人が笑ってくれるならいいんだという気持ちで映画に熱を注ぎ込んでいた人たち。国民に夢を与える、かけがえのない娯楽芸術となった映画に誰もが誇りを持っている。
そこは、今こうして役者を続けている僕の作品に対する熱意と大差ないのかなと。確かに作品のために死ねるかと言ったら死ねないけど、やれと言われたらやってやるよと言い返すくらいの気概はある。時代は違えど、作品づくりへの情熱という意味では、今の僕たちと変わらないのかなと思いながら演じています。
── その中で、木村さんは助監督のビリーを演じます。
あまりやったことがない役なので、ちょっと難しいなと思いながら稽古をしている段階ですね。
── あまりやったことがないというのは、どういうところがですか。
ビリーはお話の中で夢を見るんですけど、今見ているのは夢なのか、夢じゃないのか、その境目がわからなくなる瞬間の表現が難しくて。自分の中ではわかっていても、それを観ているお客さんに理解してもらうためには、またちょっと工夫が必要なのかなと。わかりやすく提示しなきゃいけない瞬間もありつつ、でも深く考えすぎずにやりたいという気持ちもありつつ。そのちょうどいいところを掴むには、もっとホン(脚本)を読み尽くして自分の理解を深めなきゃなと思っています。
ストレートプレイは、無音に押し潰される恐怖との闘いです
── お話の中には、伝説のコメディアンであるロスコー・アーバックルが巻き込まれた死亡事件が登場します。不勉強なのですが、実在の事件だったとは知らず、驚きました。
事実に基づいた話の中にフィクションの部分が折り重なっていて。とは言え、いくらフィクションであっても、当時そういう事件があったことや、ロスコー・アーバックルに殺人容疑がかけられた事実は変えられない。そこは、演じる僕たちもセンシティブにトライしているところではあります。
── 演出の三浦直之さんとの稽古はいかがですか。
三浦さんは、僕のアイデアに対して、そっちバージョンもやってみようかって何パターンでも見てくださるんですね。おかけで、僕の方からも空間の使い方とか、意見を言いやすいし、思いついたことをどんどんトライしていける。いろんなパターンを試す中で、三浦さんがこの作品に合っていると思ったものをチョイスしてもらえたらという気持ちで稽古をやっています。
── 『The Last 5 Years』、『ジャック・ザ・リッパー』とミュージカルが続いた中、今回はストレートプレイです。
楽しいですよ、ストレートは。ただ、無音に押し潰れそうになるときはありますけど。
── 無音に押し潰される?
音楽が鳴ってるだけで空間って埋まるじゃないですか。ストレートは、曲がかかっているシーンはありますけど、基本的に掛け合いで埋めなきゃいけない。それにまだ慣れていないから、無音に耐えられなくなって、あとコンマ1秒待てたら笑いが起きたのにとか、あとコンマ1秒耐えたらもっと面白い瞬間に繋がったのにとか、恐れを抱いて先走ってしまうことが結構あるので、そこをなんとかしなきゃなという感じです。
自分のキャパを超えるくらい、どうってことない
── では、ここからは2021年の振り返りをうかがえればと思います。
いろんな作品に出会わせていただいて、濃密すぎた1年でした。まあ、僕は適当に生きてないんで、常に1年が濃いんですけど。それにしてもこの1年は濃密すぎたというか、ちょっと自分のキャパシティを超えちゃったところがあったかなと。
でも、そうやって1日1日濃い毎日が送れたことで、より器さの広さというか、土台を大きくできた実感もあるので、自分のキャパを超えるくらい、どうってことないかなとも思っています。
── 今年は舞台『魔界転生』から始まり、ミュージカル『ジャック・ザ・リッパー』では日生劇場で主演を務めました。
『魔界転生』は再演ではあったものの、役まわりが初演とはちょっと変わっていて。だからこそ、初演のときの自分がどれだけ幼かったのかを自分で思い返しながら進められたところが良かったかなと思います。
『ジャック・ザ・リッパー』に関しては、もうやっているときは本当に気が狂うような思いでした(笑)。
── 狂気の木村達成、とても良かったですよ。
本当ですか。ありがとうございます。
やっぱり未知の自分に会うと疲れますね。『ジャック・ザ・リッパー』に関しては、完全に今の自分の実力以上の表現だったので、公演中は本番が終わったあともずっと役が残り続けていて。この間、配信期間が終了したんですけど、そこでやっと終わったというか、肩の荷が降りた感じがしました。もう解放感がすごかったです。
── それもキャパ以上だった分、自分の器さを広げられた?
広げられたし、同時に弱さを知りました。
── 弱さ?
自分自身を知ったという感じです。僕はテクニックなんか何もないので、何かを表現しようとしたら、まずそれを自分が一度経験してみないとできない。『ジャック・ザ・リッパー』をやっているときは、演じるダニエルにとことん近づいていって。自分がいかに弱い人間かを知ることができたから、ダニエルという役を演じられた。そういう意味で弱さを知ったし、それはつまり新しい自分を知ったと言い換えてもいいかもしれません。
2022年は、新しい友達をつくりたいです
── 今年は『青天を衝け』、『きれいのくに』など映像作品への出演もありましたね。
面白かったです。本当にちょっとしか出番はなかったんですけど、もっと出てみたいなと思ったので、今後はもっと映像も力を入れていきたいですね。
── NHKに出ると親御さんとか喜びませんか。
全国で見られますからね。喜んだんじゃないでしょうか。
── 特に反応は聞いていない?
僕、普段からあんまり告知みたいなことをしないんですよ。
── しましょうよ(笑)。
しないんですよ(笑)。主演で舞台があります、みんな観に来てねみたいなことを一切やらない。親にもこれに出るからとか、そういう話をあんまり言わないので、後になって向こうから「あんた、これに出るらしいじゃん。先に言いなさいよ」と言われることが結構ある(笑)。
それはもう小学校から変わらないです。先生から親御さんに渡してくださいって手紙をもらったりするじゃないですか。そういうのは常にバックの中に入りっぱで。結局、先生から親に電話がかかってくるみたいなことがよくあった人間でした(笑)。
── そういうところは変わらないなと。
変わらないですね。ただ一つ言えることは、親や友達に心から自慢できる作品に出続けたいです。
── それは今できていますか。
できています!
── 素晴らしいです。では、2022年の展望を聞かせてください。
仕事に関してはこれまでと変わらず。とにかく目の前の仕事を死ぬ気でやる。手を抜くことは一切ない。これはたぶんずっと変わらないと思います。
── では、プライベートは?
いろんな娯楽を見つけたいですね。世の中が落ち着いたら海外にも行きたいし、あとは新しい友達をつくりたい。今も友達は少なからず多からずなんですけど、どうしても友達って同級生とか、何かしらつながりがある人が多いじゃないですか。
そういうのじゃなくて、まったく別の世界にいる、初めましてから始められる友達をつくりたいですね。
── 確かに新鮮ですし、また新しい自分にも出会えますもんね。
そうそう。初めましての相手に、僕は猫をかぶるんだろうかとか、そういう自分の知らない自分を見つけたいですね。
子どもの頃ってピュアだから、すぐ友達になるじゃないですか。でも、今は大人になって、いろんな殻ができて、なかなかすぐに友達になれる人っていないから。新しい友達をつくって、自分の世界を広げてみたいです。
Q.最近ハマっていることは?
何にもない! 台本を読んで寝るだけの毎日です(笑)。
Q.家に帰っての楽しみは?
寝ること。
Q.平均睡眠時間は?
最近は3〜4時間。夜になると目が覚醒しちゃうんですよね。
Q.寝る前、何をしてる?
0時ぐらいまで台本読んで、やばい寝なきゃって1時ぐらいから布団に入るんですけど。普段、夜ご飯を食べるのが夕方の6時とか7時ぐらいだから、ちょうどお腹が空いてきちゃって。でもこの時間に食べたら絶対マズいってなるから、代わりに携帯で大食いやASMRの動画を観てやり過ごしてます。
Q.それで寝られるんですか?
寝られない! 明日これ食べようとか、これつくろうとか考えていると、どんどん目が冴えてきちゃって。気づいたら3時とか4時になっています。
Q.カラオケの十八番は?
日によって変わります。今から行くなら大滝詠一さんの『幸せの結末』。
Q.男女の友情は成立すると思いますか?
する! え? しないんですか?
Q.愛したいですか? 愛されたいですか?
愛されたい! 常に一歩下がってついてきてほしいです。
『SLAPSTICKS』チケットの購入はこちら
撮影/岩田えり、取材・文/横川良明、ヘアメイク/齊藤 沙織、スタイリング/部坂尚吾(江東衣裳)、衣装協力/ジャケット¥36,300(HACKETT LONDON / VULCANIZE LONDON 03-5464-5255)、トラウザーズ¥41,800 (HEUGN / IDEAS 03-6869-4279)