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LAMP IN TERREN、歌とバンドがドラマティックに織りなす“生の呼吸” 全20公演『Progress Report』ツアー最終日をレポート

リアルサウンド

20/12/18(金) 12:00

 LAMP IN TERRENの全国ワンマンツアー『Progress Report』が12月13日、東京・LIQUIDROOM  ebisu公演にて終了した。このご時世だ、全20公演のツアーを敢行することは決して簡単ではなかったはず。MCでの「ここまで感無量になるツアーも珍しいよね。ようできたなって」「ホントだよ。20本目だから、ここまで19本やってきてるんだよ」「怪我人も病人も出さずにね」というやりとりからは無事完走できた安堵が、「この時期に止まらなくてよかったと思います」という発言からは確かな手応えが読み取れる。

 本編のセットリストは、最新アルバム『FRAGILE』収録曲を中心に構成。収録曲10曲がすべて演奏されたほか、既存曲に関しても、全体の流れを肉付けするように配置されていた。ステージ上にはブラウン管テレビが数台。コマンドプロンプトのような文字列や、宇宙、窓を伝う雫、街にある風景、ハート形の波形など、曲ごとに異なる映像がそこに投影されている。後のMCによると、これらの映像は松本 大(Vo/Gt)が制作したそうだ。

 現在、有観客ライブは徐々に再開し始めているが、いずれも新型コロナウイルスの感染症対策ガイドラインに則った形であり、フロアが満員になることはないほか、観客の発声を要するシンガロングやコール&レスポンスも控えるしかない状況だ。コロナ禍で制作された『FRAGILE』は、そういったライブ環境の変化も視野に入れた上で制作されたアルバムだったらしく(参照:ぴあ関西版web)、実際この日のライブは、“観客を扇動して一体感を作り上げる”というよりも、“アンサンブルの熱をじわじわ浸透させていく”といった趣だった。分かりやすいところで言うと、松本が曲間で鍵盤を弾き、3曲を一繋ぎにした「おまじない」~「チョコレート」~「ベランダ」もじっくりと“聴かせる”ためのアプローチだ。

 そうなったときに際立つのが、バンドの生の呼吸感だ。メンバー4人のアイデアを盛り込んだ『FRAGILE』収録曲のアレンジは、“エレキギター、エレキベース、ドラムが常に鳴っていなければならない”という4ピースバンドの概念にとらわれないアプローチに帰結しているため、例えば打ち込みを取り入れた曲もある。それを4人で改めて鳴らすからこその面白さ、生の呼吸感が、今回のライブにおけるポイントだった。例えば、鍵盤弾き語りから始まる「Fragile」。1番が明けたタイミングでバンドが合流したときの温かさ、終盤に近づくにつれて深みを増す響き、2サビ前に川口大喜(Dr)が挿し込んだ無作為なリズムなどは、ライブならではの要素だろう。その他にも、「宇宙船六畳間号」のしっとりとしているようで実は躍動的なサウンド、じわじわと膨らんでいく「Enchanté」のダイナミクスなどから、バンドの息遣いが伝わってくる。ちなみに筆者はこの日配信で観ていたのだが、画面を隔てているはずなのに、これまでのどのツアーファイナルよりもバンドの音が生々しく感じられたことにまず驚いた。ツアー20公演の積み重ね然り、ツアー以前には定期公演『SEARCH』をオンラインに切り替えながら続けていたこと然り、コロナ禍でもLAMP IN TERRENはライブを止めなかった。ゆえに、バンドはずっと温まった状態だったのだろう。

 アルバム収録曲以外で印象的だったのが「balloon」と「BABY STEP」。「balloon」はとにかくバンドの音が雄弁で、助走をつけるような1サビ前、旋律同士が絡み合う2サビ前、歌とともに燃えるラスサビなど、胸を打たれる場面が多数。徐々にテンポを落とすアウトロの隅々まで丁寧に演奏されていて、配信では、余韻を噛み締めるような表情をした中原健仁(Ba)がカメラに抜かれていた。「BABY STEP」は音源だとストリングスの音が大きめに入っていて華やかだが、ライブでは、松本によるアカペラ/エレキ弾き語りパートを随所に挟んだアレンジに。ボーカルとギターが掛け合いするサビで、大屋真太郎(Gt)が歌心たっぷりに奏でていた場面からも、ボーカルのロングトーンを引き受けてバンドがたっぷりと鳴らすアウトロからも、歌とバンドが意思疎通している感じが伝わってきた。

 「balloon」は2015年リリースの曲だが、〈空っぽの 風船 みたいに/街を 見下して 浮いていたんだった/それ故 気付けなかった/温もりは ずっとそばにあった〉というフレーズには、自然体で音楽を鳴らすようになった今のバンドのモードに通ずるものがある。先述の通り、今回のライブは『FRAGILE』を中心に構成されたものだったが、だからこそ、それでもあえて演奏された既存曲の存在意義も大きかったように思う。

 まるでコンセプトライブのように本編が固められていた分、アンコールでは、ライブで定番のアッパーチューン「地球儀」や、前アルバム『The Naked Blues』リリース後に発表されたものの、『FRAGILE』のカラーとも違うためアルバムに収録されることがなかった「ほむらの果て」などが演奏された。なお、アンコールで演奏する曲は事前に決めておらず、本編終了後、その日の気分に応じて決定する方針。その試みからは“心の赴くままに”というバンドの姿勢が感じられたし、マイクを通さず歌ったりMCしたりする場面が何度かあったのは、何にも媒介させず、できるだけ素のままの状態で自分たちの“心”を観客に伝えたいという想いがあったからであろう。

 おそらくそれこそが、彼らが会場に観客を入れた上でのライブ、ツアーを強く望んだ理由だ。孤独が嫌いな自分にとって音楽とは、誰かと共に生きるための方法である。だからこそ自分たちが鳴らす音楽は、人を感動させられるもので在り続けたい。そのために死に物狂いで歌いながら生きていくーーと決意を語った松本。本編ラストの「EYE」は、燃え残り一切なしといった熱演。コーラスが厚く重ねられた音源とは違い、音数自体は少ないはずだが、装飾など要らないと思わせられるほど、バンドのサウンドはドラマティックだった。静かに、しかし確かに燃えるこのバンドの熱が、広く波及していく日はきっと遠くない。そう信じたくなるライブだった。

■蜂須賀ちなみ
1992年生まれ。横浜市出身。学生時代に「音楽と人」へ寄稿したことをきっかけに、フリーランスのライターとして活動を開始。「リアルサウンド」「ROCKIN’ON JAPAN」「Skream!」「SPICE」などで執筆中。

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