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ビッケブランカ、あいみょん、ヨルシカ……繊細な感情が描かれた今年の“春ソング”に注目

リアルサウンド

21/3/22(月) 19:00

 3月17日にビッケブランカがリリースしたニューシングルの表題曲「ポニーテイル」は、彼が王道のJ-POPに挑んだ新曲であり、この季節にぴったりの春ソングにもなっている。本稿では、「ポニーテイル」をはじめとした桜に象徴される叙情的な風景、繊細な揺れる感情を描いた“春ソング”の魅力を紹介する。

ビッケブランカ「ポニーテイル」

 「まっしろ」(ドラマ『獣になれない私たち』挿入歌)、「Ca Va?」(Spotify TVCM曲)、「Black Catcher」(TVアニメ『ブラッククローバー』第10クールOPテーマ)などが配信、ストリーミングを中心にヒットを記録。その後もドラマ『竜の道 二つの顔の復讐者』オープニング曲「ミラージュ」、岡崎体育とのコラボ曲「化かしHOUR NIGHT」(ビッケブランカ VS 岡崎体育名義)などをリリースし、日本のポップシーンで確固たる存在感を得ているビッケブランカから、ニューシングル『ポニーテイル』が到着。表題曲は、ビッケブランカ史上もっともストレートな春のラブソングに仕上がっている。

 「ポニーテイル」の軸になっているのは、軽やかで華やかなトラック、そして、切なさと愛らしさが滲み出るメロディ。独創的なアイデアを注ぎ込んだ先鋭的なポップチューンで知られるビッケブランカだが、この曲では(おそらく初めて)J-POPの王道とも言えるスタイルに正面から挑んでいる。キャリアのなかでは明らかに新機軸だが、SMAPやモーニング娘。への愛を公言している彼にとっては“原点回帰”という言い方もできそうだ。

ビッケブランカ / 『ポニーテイル』(official music video)

 春の穏やかな風景と“君”に対する思いが交差する歌詞も印象的。特に〈一生散らない花をあげる だからどんな悲しみも 全て君のために〉というロマンティックなフレーズは多くのリスナーの心をしっかりと捉えるはず。「ポニーテイル」によってビッケブランカは、ポップスクリエイターとしての新たな扉を開いたと言っていいだろう。

あいみょん「桜が降る夜は」

 〈桜が降る夜は 貴方に会いたい、と思います〉というサビのフレーズが聴こえてきた瞬間、頭のなかに春の夜の光景が鮮やかに浮かび上がり、かつて経験した(はずの)恋の感情が蘇ってくる。あいみょんの新曲は、“これこそポップの魔法!”と呼びたくなる、可憐にして生々しい恋愛ソングだ。

 恋愛リアリティーショー『オオカミ』シリーズ最新作『恋とオオカミには騙されない』の主題歌に起用された「桜が降る夜は」。あいみょんはこの曲で、〈「4月の夜はまだ少し肌寒いね」〉と語り合う“貴方”と“私”の微妙な関係を描いている。もっと近づきたいという気持ちを抱えながら、一歩踏み出せないでいる“私”。いろいろなことが曖昧だが、体ごと恋していることだけはわかっているーー繊細な叙情性とリアルな肉体性が自然と混ざり合う歌詞は、まさに彼女の真骨頂。打ち込みを軸にしたカラフルなサウンドと、感情の機微とリンクしたボーカルのバランスも素晴らしい。

あいみょん – 桜が降る夜は【OFFICIAL MUSIC VIDEO】

ヨルシカ「春泥棒」

 「音楽を盗作する男」を主人公にしたアルバム『盗作』に続くヨルシカの新作EP『創作』には、春をテーマにした5曲を収録。本作に収められた「春泥棒」は、大成建設のCMソングとしても話題を集めたポップナンバーで、『盗作』と『創作』をつなぐ役割を担っている。

 盗作家の男が妻と桜の花を眺めながら、あれこれと考えを巡らせる様子を描いた「春泥棒」。桜の花を散らす(=盗む)春の風をモチーフにしつつ、限りある妻の命に思いを馳せ、〈あと花二つだけ もう花一つだけ〉というラインに結びつけるこの曲は、“桜=儚さの象徴”という日本の伝統的な美意識と、現代的なポップスとしての魅力を見事に融合させている。叙情的な切なさを滲ませるメロディライン、アコギの響きを活かしたバンドサウンドを軸にしたn-bunaの創造性、そして、楽曲に込められた風景や感情を生き生きと描き出すsuisのボーカルも絶品。二人の化学反応から生まれるヨルシカの音楽は、いまも新たな進化を続けているようだ。

ヨルシカ – 春泥棒(OFFICIAL VIDEO)

Awesome City Club「勿忘」

 現在大ヒット中の映画『花束みたいな恋をした』。有村架純が演じる絹、菅田将暉が演じる麦が、音楽や映画など共通のカルチャーを通して意気投合。切なくも美しい5年間の恋愛模様を描いたこの作品にインスパイアされた楽曲がAwesome City Clubの「勿忘」だ。

 1番の歌詞をatagi、2番をPORINが書いたという「勿忘」は、映画のストーリーに寄り添うように、いまは失われてしまった恋人同士の姿を映し出している。強く結びついていたはずの二人の心はいつの間にか離れ、違う人生を歩み始めるーー〈春の風を待つあの花のように 飾らない心でいられたら〉というサビのフレーズには、この楽曲に込められた後悔と愛しさが端的に表れている。オルタナR&Bのテイストを取り入れたアレンジ、モリシーの感情的なギターソロなど、音楽的な聴きどころも満載。3人体制になったAwesome City Clubにとっても、大きなターニングポイントになる楽曲だと思う。

Awesome City Club / 勿忘 (MUSIC VIDEO)

優里「桜晴」

 「かくれんぼ」「ドライフラワー」がSNS、配信、ストリーミングを中心に大ヒットを記録し、一気にブレイクを果たした優里。新曲「桜晴」は、両親、友達への感謝を胸に、新たな場所に旅立つ姿を描いた卒業ソングだ。

 最初に聴こえてくるのは、ノスタルジックな雰囲気のピアノの音色。生楽器の響きを活かしたオーガニックな音像のなかで優里は、桜の花びらが舞い散る風景のなかで、“母の声”、“父の姿”という言葉を散りばめ、別れと出会いが交差する季節を叙情たっぷりに歌い上げる。その根底にあるのは、どんなにつらいことがあっても、しっかり一歩を踏み出そうとする意思だ。

優里 『桜晴』Lyric Music Video(1コーラスver.)

 曲の中心にあるのはもちろん、優里の歌声。曲が進むにつれて力強さを増し、〈今日は うまく笑えない そのままでいいよ〉というサビのフレーズとともに濃密な感情を解き放つボーカルからは、シンガーとしてのさらなる成長が伝わってくる。

■森朋之
音楽ライター。J-POPを中心に幅広いジャンルでインタビュー、執筆を行っている。主な寄稿先に『Real Sound』『音楽ナタリー』『オリコン』『Mikiki』など。

ビッケブランカ  HP

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