Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

山下達郎、初の“高音質”ライブ映像配信で届けた極上の時間 貴重なパフォーマンスの数々を振り返る

リアルサウンド

20/7/31(金) 20:00

 山下達郎が7月30日、初めてライブ映像配信を行った。1975年のソロデビューから現在に至るまで、ライブ映像を作品化したことがない山下。2012年に映画館で『山下達郎 シアター・ライヴ/PERFORMANCE 1984-2012』を限定公開したが(このときも山下は、自ら映画館に出向き、音響を入念にチェックした)、ライブの映像を観られる機会はきわめて稀だ。『TATSURO YAMASHITA SUPER STREAMING』とタイトルされた今回の配信は、音楽動画配信サービス「MUSIC/SLASH」の“こけら落とし”として行われ、貴重なライブ映像を質の高いサウンドとともに堪能できた。

参考:山下達郎の楽曲は、なぜドラマとの相性がいいのか 『グランメゾン東京』から考える“主題歌の醍醐味”

 今回配信されたのは、京都のライブハウス・拾得で2018年3月16日に開催されたアコースティックライブから6曲。そして、2017年9月17日の『氣志團万博』出演時の約40分のステージがノーカットで届けられた。配信は20時から。ログインは19時から可能で、普段のライブと同じく、山下の選曲によるオールディーズがBGMとして流れていた。見逃し配信やアーカイブ設定がないため、SNS上では開演前から“山下達郎 配信ライブ 待機中”という書き込みが多数見られた。

 拾得のライブ映像は、ライブハウスの外観、観客の姿を映し出した後、「ターナーの汽罐車」からスタート。伊藤広規(Ba)、難波弘之(Key)とともにアコースティックアレンジでヒット曲「あまく危険な香り」、鈴木茂「砂の女」と幅広い楽曲で楽しませる。ギター、ベース、鍵盤のシンプルな構成によって、楽曲のコード構成、アレンジの妙が際立ち、山下のふくよかで濃密なボーカルが広がる。演奏の深み、老舗ライブハウスの雰囲気を含め、絶品としか言いようがない映像だった。

 選曲も絶妙。「希望という名の光」の〈運命に負けないで/たった一度だけの人生を/何度でも起き上がって〉というフレーズは、コロナ禍の社会に向けた力強いメッセージとして響く。さらにレニー・ウェルチの歌唱で知られる「SINCE I FELL FOR YOU」で切ない叙情を描き出した後は、マーヴィン・ゲイの「WHAT’S GOING ON」へ。1971年に発表されたこの曲は、当時の社会情勢に対する問題提起に溢れたメッセージソング。この曲を選んだ山下の意図に思いを馳せたのは、おそらく筆者だけではないだろう。

 特筆すべきは、やはり音の良さ。7月26日放送のラジオ『山下達郎の楽天カード サンデー・ソングブック』(TOKYO FM)でも、ネットというのはかなり不安定なメディアとし、ミックスダウンやリマスターを行うことで、ネットで配信されるクオリティに沿った音質向上を務めたと語っていたが、ミックスダウン、リマスターを山下本人が手がけたサウンドは、配信とは思えないほどのクオリティが実現されていた。リスナーの視聴環境に左右されるのはしょうがないが、ある程度のスピーカーやイヤホンがあれば、(音にうるさい達郎ファンも)十分に満足できたのではないだろうか。

 続いては『氣志團万博』のライブ映像。氣志團主宰のフェスに合わせ(?)、“ツッパリ”をテーマにした「ハイティーン・ブギ」(近藤真彦)を放つと、雨が降り注ぐフィールドの熱気が一気に上がっていく(のが手に取るようにわかる)。さらに山下の十八番、キレキレのギターカッティングに導かれた「SPARKLE」を披露した後、「あいにくの雨ですが、台風がなんぼのもんじゃい(笑)。バラードはやめます。一気に行きます、みなさん温まってください」というMCから、パワフルなファンクディスコチューン「BOMBER」ーー大阪のディスコでこの曲が支持されたことが、山下のブレイクにきっかけになったのは有名だーーさらにKinKi Kidsのデビュー曲「硝子の少年」の“セルフカバー”とアッパーな楽曲を続けた。小笠原拓海(Dr)、伊藤広規(Ba)、佐橋佳幸(Gt)などの凄腕ミュージシャンが揃ったバンドのサウンドも最高潮。

 ここから竹内まりやがコーラス隊に参加。サーフィン&ホットロッド直系のサウンドと未来に対するメッセージが一つになった「アトムの子」、極上のバンドグルーヴが響き渡った「恋のブギ・ウギ・トレイン」とライブアンセムを続け、心地よい高揚感を生み出す。画面越しでも、演奏のクオリティの高さと現場の熱さがはっきりと伝わってくる。凛とした立ち姿で鋭利なギターと、エモーショナルな歌声を響かせる山下のパフォーマンスに圧倒された視聴者も多かったはずだ。

 「さよなら夏の日」をダイナミックに歌い上げ、『氣志團万博』のライブ映像は終了。そして最後は80年代の超貴重なライブシーンへ。公開されたのは“一人アカペラ”による「SO MUCH IN LOVE」 (1986年10月9日郡山市民文化センター)、名ドラマー・青山純(2013年没)をはじめ、80年代の山下を支えたミュージシャンの演奏を体感できた「プラスティック・ラブ」(1986年7月31日中野サンプラザホール)。30代前半のステージの映像が公にされるのも、これが初めてだ。

 「再びリアル・ライブができるようになるまでのあいだ、違う可能性を必死で探さなくてはなりません」「最初は施行錯誤でも、とにかく前に進まねばなりません」という強い決意を持って臨んだ初のライブ映像配信『TATSURO YAMASHITA SUPER STREAMING』(参考:山下達郎、キャリア初のライブ映像配信 貴重なパフォーマンス収めた特別番組を高音質で)。音質、選曲、構成を含め大成功と言っていいし、“初めてヤマタツのライブを見て、その素晴らしさに驚いた”という新たなリスナーに訴求できたことも大きな成果だが、このプロジェクトはまだ始まったばかり。前述したラジオ番組内で「いつもライブのセットでやれるように、これから先、計画していきたいと思います」とコメントしていた通り、この企画は生ライブ配信に発展する可能性を秘めている。山下達郎とネット配信の今後の動きにもぜひ注視していきたい。(森朋之)

新着エッセイ

新着クリエイター人生

水先案内

アプリで読む