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吉岡里帆、『時効警察』の“振り回す”役で本領発揮? 視聴者が虜にされる“吉岡マジック”とは

リアルサウンド

19/11/15(金) 6:00

 水を得た魚とは、まさしくこのことか。女優・吉岡里帆が、テレビの中で久しぶりに振り切った芝居を披露している。というか、毎回毎回、そのハキハキとしながらも、どこか素っ頓狂な台詞回しはもちろん、予想外の声の出し方、そしてふとした瞬間に見せるその豪快な表情に、思わず爆笑を禁じ得ないのだ。いやはや、全然よくわからないよ、彩雲くん(笑)。そんな彼女の姿に快哉を叫んでいるのは、恐らく筆者だけではあるまい。

 12年ぶりに、まさかの復活を遂げた人気ドラマ“時効警察”の第3シリーズ『時効警察はじめました』(テレビ朝日系)。オダギリジョー、麻生久美子という主役の2人はもちろん、岩松了、ふせえり、江口のりこといった“時効管理課”の面々、さらには豊原功補、光石研など、お馴染みの面子が勢ぞろいする中、新たなレギュラーキャストとして投入されたのが、同年代の若いふたり――磯村勇斗と吉岡里帆である。

【写真】『時効警察』チームに馴染む吉岡里帆

 彼女が演じるのは、レギュラー放送に先駆けてオンエアされた『時効警察・復活スペシャル』で初登場した彩雲真空(あやくも・まそら)という人物だ。刑事課の新人刑事で、豊原演じる十文字疾風の部下という設定の彼女は、時効管理課が扱う事件に興味津々、上司の目を盗んでは管理課を訪れ、その捜査にも神出鬼没的に顔を出すという、他の登場人物たちに負けず劣らず謎めいたキャラクターなのである。個性派ぞろいである管理課の面々に臆することなくハキハキと発言し、ときには周囲の人々を呆然とさせる彩雲くん。

 その上司である十文字刑事と同じくトレンチコートに身を包んだ彼女は、本シリーズにおいて長らく十文字刑事が担ってきた、ある種の“かき回し”役を、さらに押し進めた存在であるようだ。時折、管理課を訪れては、オダギリジョー演じる同期の霧山修一朗に、あからさまなライバル心をギラつかせながら、一方的に会話を繰り広げ、満足気に去ってゆく十文字刑事というキャラクター。それに対して彩雲刑事は、上司以上に時効管理課に入りびたり、まるでその一員であるかのように馴染みながら、和気あいあいと仲良く世間話をしていたりするのだ。言っていることややっていることはかなりデタラメなのに、満面の笑顔を浮かべながらハキハキと発言するその天真爛漫なキャラクター。そんな彼女の様子を見ながら、つくづく思うのだ。吉岡里帆の真骨頂は、“振り回される”役よりも“振り回す”役にあるのではないかと。よくよく考えると、そこそこウザいのだが、持ち前の愛嬌と勢いで、それをゴリ押してしまう吉岡マジック。

 思えば、彼女の存在を一躍有名にした、NHKの連続テレビ小説『あさが来た』の“丸メガネののぶちゃん”こと田村宜が、そもそもそういう役だった。そして、その“演技力”という面で、多くの人を驚かせた『カルテット』(TBS系)で、彼女が演じた来杉有朱というキャラクター。それは、松たか子、満島ひかり、高橋一生、松田龍平という強固な“カルテット”に、果敢に挑んでゆく、まさしく“トリックスター”的なキャラクターだった。というか、その彼女が満面の笑みを湛えながら、その最後に発した「人生、チョロかった!」という台詞は、多くの視聴者の度肝を抜いたし、いまだに心に刻みつけられている。

 にもかかわらず、それらの好演によって連続ドラマの主演の座を射止めた彼女がその後演じてきたのは、『ごめん、愛してる』、『きみが心に棲みついた』(ともにTBS系)、そして『健康で文化的な最低限度の生活』(カンテレ・フジテレビ系、以下『ケンカツ』)など、どこか朴訥とした真面目で地味な女性ばかりだった。『ケンカツ』の義経えみるには、自ら道を切り開く主体性が時折見られたが、いずれも“受け”の芝居が多いというか、ある人物(その多くは男性)によって“振り回される”女性を演じていたように思うのだ。否、もちろん、それはそれで魅力的ではあるのだけれど、『カルテット』の有朱のような破天荒な彼女は、すっかりそのなりを潜めていた。という中での、『時効警察はじめました』であり、彩雲真空なのである。そこに快哉を叫ばずにはいられようか。しかも、彩雲くんは、周囲の人間を“振り回す”だけではなく、ときには自虐とも思える笑いも醸し出す、“コメディリリーフ”としての役割も担っているのだ。もう長らくチームを組み、完全に気心知れたキャストやスタッフの中に飛び込んで、物怖じすることなくドラマ自体に新鮮な息吹を注ぎ込んでいる彩雲くん。いやはや、こんな役、彼女にしかできないだろう。

 とはいえ、そんなシェイクスピアの『真夏の夜の夢』における“妖精パック”のような“トリックスター”然とした“コメディエンヌ”としての魅力だけが彼女の持ち味ではないことは、すでに重々わかっている。先述の『きみが心に棲みついた』で見せた迫真の芝居はもとより、映画『パラレルワールド・ラブストーリー』では、同じ名前、同じ姿でありながら、2つの世界で別の人格を演じるという難役を、さらには映画『見えない目撃者』では、視覚障がいを持ちながら、殺人事件の犯人を追うという難役を、いずれも好演していた彼女。しかしながら、筆者が最も心動かされたのは、アニメ映画『空の青さを知る人よ』で彼女が声を当てていた相生あかねという人物だった。吉沢亮が高校時代と現在の両方の声を演じ分けた金室慎之介、そしてあかねの妹である相生あおい……その2人が、それぞれに、その幸せを願ってやまない、物語の実質上の中心人物である相生あかね。心に傷を負いながらも、他人に対する優しさと、毅然とした意志を持つこの人物を、吉岡里帆はその“声”によって見事に表現していたのだ。

 周囲の人々を“振り回す”能動的なキャラクターから、周囲の人々に“振り回される”受動的なキャラクターまで。さらには、“コメディエンヌ”としての快活なキャラクターから、おっとりした口調の中に毅然とした意志を持つ“大人の女性”まで、出演作を経るごとに、新たな魅力を振りまいている女優・吉岡里帆。願わくば、これからもこの調子で、どんどん我々を“振り回して”ほしい……もっと言うならば、その演技力によって、我々の心を、もっともっと“かき乱して”ほしい。それが今の正直な気持ちである。

(麦倉正樹)

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