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「菅原伝授手習鑑」仁左衛門が“親の情”で涙を誘い、玉三郎が壮絶な仇討ち魅せる

ナタリー

20/2/7(金) 10:20

「二月大歌舞伎」昼の部「菅原伝授手習鑑」から「道明寺」より、片岡仁左衛門扮する菅丞相(菅原道真)。

「二月大歌舞伎」が去る2月2日に東京・歌舞伎座で開幕した。ステージナタリーでは、昨日2月6日昼の部の様子をレポートする。

昼の部では、十三世片岡仁左衛門追善狂言として、太宰府流罪の刑に処された菅丞相(菅原道真)と、菅丞相に忠義を誓う三つ子・梅王丸、松王丸、桜丸の運命を描く「菅原伝授手習鑑」から「加茂堤」「筆法伝授」「道明寺」が上演される。

「加茂堤」では、菅丞相の養女である苅屋姫(片岡千之助)と醍醐天皇の弟・斎世親王(中村米吉)が密会し、駆け落ちするまでの物語が展開。菅丞相の身に降りかかる悲劇の発端ともなる本幕だが、身分違いの2人の逢い引きを手伝う桜丸役の中村勘九郎と、その妻・八重役の片岡孝太郎とのコミカルな演技により、舞台上には終始朗らかな雰囲気が漂う。

勘九郎は、苅屋姫と斎世親王の初々しいやり取りに当てられ、「たまらぬ!」と思わず八重に抱きついてしまうシーンでは、桜丸の茶目っ気あふれる一面を垣間見せ、逢瀬を妨害しようと現れた嵐橘三郎演じる三善清行らを退治する場面では、優男ふうの出で立ちでありながら腕っぷしの強い桜丸のキャラクターを、軽妙な身のこなしで表現した。孝太郎は、桜模様があしらわれた振袖姿の八重を快活に演じ、桜丸に頼まれ牛車を引こうとするも、なかなか言うことを聞かない牛に愛らしく憤慨し、客席を笑いで包んだ。

続く「筆法伝授」は、片岡仁左衛門勤める菅丞相の、神々しい存在感が見どころ。菅丞相の旧臣・武部源蔵役の中村梅玉は、坂東秀調演じる水無瀬に連れられ、菅丞相が待ち構える学問所の間まで歩みを進める中、徐々に表情を強張らせ、久々に主人と面会する緊張感を強調。御簾が上がり、仁左衛門演じる菅丞相が登場すると、待ってましたとばかりに客席から盛大な拍手が送られる。仁左衛門は、自身の父・十三世片岡仁左衛門の当たり役であった菅丞相を、一言一言に重みを持たせた荘厳な語り口や、気品あふれる佇まいで勤め上げた。

片岡秀太郎は、一度勘当した武部源蔵夫婦に厳しく接するも、見放しきれない菅丞相の妻・園生の前の無骨な優しさを際立たせる。さらに市村橘太郎は、源蔵に対し嫉妬の炎を燃やす左中弁希世を、子供じみたコミカルな演技で演じ、悪役ながら憎めない人物像を立ち上げた。

昼の部のラストを飾る「道明寺」では、菅丞相と苅屋姫、そして坂東玉三郎演じる覚寿と孝太郎演じる立田の前の親子愛が涙を誘う、悲壮感に満ちたストーリーが描かれる。白髪の老婆・覚寿が、娘の仇である宿禰太郎を討つシーンでは、玉三郎が大男相手に見事な立ち廻りで魅せ、恨みを込めた壮絶な気迫で観客を圧倒。また菅丞相の暗殺を企む、中村歌六演じる土師兵衛と、坂東彌十郎演じるその息子・太郎の、どこか噛み合わないやり取りにも注目だ。

菅丞相が太宰府に発つクライマックスの場面では、千之助が自責の念に苦しむ苅屋姫の痛ましさを際立たせ、菅丞相に何度もすがりついて観客の心を打つ。また仁左衛門は、生き別れる前に苅屋姫の姿を目に焼き付けたいという気持ちを抑えながら、苅屋姫の悲痛な叫びを耳にして思わず振り返りそうになる芝居に、親としての情をにじませる。実の祖父と孫である2人ならではの一幕に、場内にはすすり泣きが響いた。

なお夜の部では、片岡我當が佐藤正清を勤める「八陣守護城 湖水御座船の場」、玉三郎が天女、勘九郎が伯竜を勤める舞踊「羽衣」、尾上菊五郎が左官長兵衛を演じる「人情噺文七元結」、梅玉が忠兵衛として舞う「道行故郷の初雪」が上演される。「二月大歌舞伎」は2月26日まで。

※初出時、本文に誤りがありました。訂正してお詫びいたします。

「二月大歌舞伎」

2020年2月2日(日)~26日(水)
東京都 歌舞伎座

昼の部

「菅原伝授手習鑑」
「加茂堤」
桜丸:中村勘九郎
斎世親王:中村米吉
三善清行:嵐橘三郎
苅屋姫:片岡千之助
八重:片岡孝太郎

「筆法伝授」
菅丞相:片岡仁左衛門
園生の前:片岡秀太郎
梅王丸:中村橋之助
腰元勝野:中村莟玉
左中弁希世:市村橘太郎
荒島主税:中村吉之丞
三善清行:嵐橘三郎
水無瀬:坂東秀調
戸浪:中村時蔵
武部源蔵:中村梅玉

「道明寺」
菅丞相:片岡仁左衛門
判官代輝国:中村芝翫
立田の前:片岡孝太郎
奴宅内:中村勘九郎
苅屋姫:片岡千之助
贋迎い弥藤次:片岡亀蔵
宿禰太郎:坂東彌十郎
土師兵衛:中村歌六
覚寿:坂東玉三郎

夜の部

「八陣守護城 湖水御座船の場」
佐藤正清:片岡我當
斑鳩平次:片岡進之介
正木大介:中村萬太郎
鞠川玄蕃:片岡松之助
轟軍次:片岡亀蔵
雛衣:中村魁春

「羽衣」
天女:坂東玉三郎
伯竜:中村勘九郎

「人情噺文七元結」
左官長兵衛:尾上菊五郎
和泉屋清兵衛:市川左團次
女房お兼:中村雀右衛門
和泉屋手代文七:中村梅枝
娘お久:中村莟玉
小じょくお豆:寺嶋眞秀
家主甚八:片岡亀蔵
角海老手代藤助:市川團蔵
角海老女房お駒:中村時蔵
鳶頭伊兵衛:中村梅玉

「道行故郷の初雪」
忠兵衛:中村梅玉
万才:尾上松緑
梅川:片岡秀太郎

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