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和楽器バンド、暗い時代を切り開く姿 素晴らしい一年の幕開け飾った『大新年会2021』

リアルサウンド

21/1/11(月) 6:00

 「天岩戸神話」をご存じだろうか。太陽神が岩戸に隠れ、突如真っ暗な闇夜に包まれてしまった世界。困った他の神々は、岩戸の前で歌や踊りを楽しみ、大いに盛り上がる。その騒ぎを聞いた太陽神は何事かと思わず大岩を開き、再び世界は光を取り戻す。そんな伝説をライブのタイトルに掲げ、“この暗い時代を切り開けるように”と希望を託したのが、和楽器バンドだ。

 今年でデビュー8周年を迎える和楽器バンドが、1月3日、4日の2日間にわたり、『大新年会2021 日本武道館2Days ~アマノイワト~』を開催。マスク着用や検温・消毒の実施、収容人数の50%以下に観客動員を制限、発声の禁止など、厳戒な感染防止策を講じつつも、集まったファンたちがライブを楽しめるような様々な工夫を凝らしたライブだった。本記事では、生配信も行なわれた2日目となる4日の模様をレポートする。

 定刻に暗転すると、客席には薄紫のペンライトが幾つも灯る。まるで宇宙の中に放り込まれたかのような幻想的なオープニング映像が始まり、メンバー一人一人の顔が映し出されると、歓声の代わりに割れんばかりの拍手が武道館に鳴り響く。集まった観客たちの静かな胸の高まりを早くも感じた瞬間だ。白い幕が落ちると、そこには天井まで高くそびえ立つ建造物のような巨大なセットの前で、客席を見つめる笑顔の8人が揃っていた。

 今年の大新年会は、代表曲「千本桜」からスタート。ピンク色の桜吹雪が客席に向かって勢いよく噴き出し、鮮やかなレーザーの光が幾つも飛び交うという和と電子の世界が交差する美しい演出で、初っ端から和楽器バンドの魅力を目いっぱい見せつける。鈴華ゆう子(Vo)が「さぁみんな、アマノイワトの幕開けだ! 行くぞ!」と勇ましく叫ぶと、町屋(Gt/Vo)のうねりを巻き起こすようなギター、亜沙(Ba)の激しいベースソロ、そして蜷川べに(津軽三味線)の華麗なプレイに心奪われる和ロックチューン「reload dead」へ。続く「反撃の刃」では、町屋と神永大輔(尺八)が向かい合わせになりながら、互いのソロパートを披露。巨大なスクリーンに幾つもの花火が打ちあがり、束の間の夏を感じさせる「華火」では、山葵(Dr)の激しいドラムのリズムに合わせてペンライトを力強く降る観客たちの姿が印象的だった。

 長い拍手が鳴りやまない中、MCでは直前までライブへの不安と迷いを抱えていたという鈴華が、「皆さんそれぞれの選択に心から感謝します。本当にありがとうございます」と会場へ集まった観客たちと、配信でライブを見る人々への感謝の気持ちを丁寧に伝える。次の「オキノタユウ」では、観客たちがスマートフォンのライトを揺らし、暖かな光を灯す。穏やかな水流のようないぶくろ聖志(箏)の美しい箏の音色が、鈴華の伸びやかな歌声と絶妙なハーモニーを作り上げていた。三本締めの手拍子で始まった「起死回生」では、飛び出してきたダンサーがステージをエネルギッシュに盛り上げていく。緻密に並んだ音と早いテンポがクセになる「日輪」で、会場のボルテージはさらにアップ。黒流(和太鼓)の繰り出す身体の奥底まで響くような激しい打音が気持ちいい。神永は拳を天に突き上げて会場を煽り倒し、蜷川も激しく身体を折りたたみながら津軽三味線をかき鳴らす。

 そしてここで、デビュー8周年になぞらえ “八奏新報”と題した8大ニュースの第1弾が発表され、4月放送のTVアニメ『MARS RED』のオープニングテーマを和楽器バンドが手掛けることが明らかになった。会場中が大きな拍手とマスクの下の笑顔で祝福する中、そのテーマ曲であり彼らの新曲でもある「生命のアリア」を撮影OKで初披露。切ないメロディと力強い歌声、そして全ての楽器の音が引き立つ美しいバラードで観客たちを圧倒した。続く「月下美人」では、天井から光がいくつも鈴華の上に降り注ぎ、それに導かれるように鈴華の立つステージのみが高く上がっていく。まるで生き物のように動きながら輪を描く光と、その中心で堂々たる歌声を披露する鈴華という、この世のものとは思えぬ幻想的な光景に、会場中が酔いしれた。

 後半戦は、バラエティに富んだ魅せ方で和楽器バンドの楽曲と各メンバーのプレイを大いに楽しめるセッションパートからスタート。まずは、哀愁を感じさせる切ないバラード「Episode.0」で町屋がアコースティックギターとボーカル、亜沙がコーラスを披露し、そこに黒流の繊細な和太鼓の音が彩りを添える。蜷川、いぶくろ、神永、黒流、鈴華による「Wagakki & EDM Session -春の海 Remix-」では、お正月ムード満点のわびさびのメロディに重低音と電子音がミックスされ、さらに鈴華が剣舞を披露するという斬新なステージを魅せた。「スペシャルメドレー2021」と題したこの日限りのメドレーパートでは、「チルドレンレコード」「World domination」「花一匁」「Ignite」「月・影・舞・華」「虹色蝶々」など、和楽器バンドらしさを詰め込んだ楽曲たちで、休む暇もなく観客たちを夢中にさせた。

 そして恒例の「ドラム和太鼓バトル~登攀猛打~」がスタートするが、なんと今回の対決場所は天井ギリギリまで高くそびえたつ大きな柱の頂上。昨年末に放送された『SASUKE 2020』(TBS系)に出場した山葵は柱の側面を軽々と登り会場を大いに沸かせ、高い所が苦手らしい黒流は嫌々ながらもフライングで強制的に頂上へ。観客たちは、声の代わりに入場時に配られたハリセンでリズムを鳴らし、彼らのバトルを盛り上げた。そんな楽しいやり取りの後は、幸福感溢れる「あっぱれが正義。」で会場は新年会らしいお目出度ムード全開に。ここで、鈴華がライブタイトルである“アマノイワト”について、「(伝説の中で)重い扉が開かれたように、私たちの想いが、今の時代を切り開けるようにと名づけました」と、和楽器バンドを代表して語る。そして、キラキラと天井から雪が舞い落ちる演出で世界観へ没入させた「細雪」、まるで武道館が無限に広がっていくような壮大なスケールを感じさせる「IZANA」で本編は幕を下ろした。

 手拍子によるアンコールに応えて再び登場した彼らは、ファンから事前に募集した歌唱動画をスクリーンに映し、会場へ足を運べなかったファンとも心を一つにして「暁ノ糸」を披露。本編を終えても彼らのパフォーマンスの熱量は全く衰えることはない。そして、この日のラストはコロナ禍で制作したという「Singin’ for…」。コーラスに合わせて拳を突き上げ、ペンライトを力強く振る観客たちの想いは、ステージで輝く8人に間違いなく伝わっていただろう。「みんな大好き! ありがとう!」と叫んだ晴れやかな鈴華の笑顔で、和楽器バンドによる大新年会は幕を下ろした。

 日本から世界へ向けて、唯一無二のエンターテインメントを発信し続ける和楽器バンド。素晴らしい一年の幕開けを自らの手で掴み取った彼らなら、きっとこの時代を切り開いてくれるはずだ。

(メイン写真=KEIKO TANABE)

■南 明歩
ヴィジュアル系を聴いて育った平成生まれのライター。埼玉県出身。

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