立川直樹のエンタテインメント探偵
満足すべき仕上がりになった美術館「えき」KYOTO『鋤田正義写真展』、素晴しく魅惑的な国立近代美術館『あやしい絵展』など
毎月連載
第69回
『時間~TIME BOWIE×KYOTO×SUKITA 鋤田正義写真展』
4月3日から5月5日まで京都の美術館「えき」で開催されている展覧会『時間~TIME BOWIE×KYOTO×SUKITA』の仕込みのために京都に6日間滞在し、東京に戻ってすぐに机に向かって原稿を書いている。
鋤田正義が1980年3月のある日にデヴィッド・ボウイの依頼で京都で暮らすような1日をドキュメントした写真と、その時にボウイと訪れた場所を鋤田が40年の時を超えて撮影した写真との組合せにより歴史や文化、伝統、前衛が入り混じった京都の地で、“時間”をテーマに構成してみようと考えトライした展覧会だが、長いこと一緒に仕事をしている建築家、岸健太が見事な会場構成をしてくれたことも手伝い、本当に満足すべき仕上がりになった。
来場してくれた人たちがいい感じで驚きの表情をしてくれるのもうれしく、写真展に合わせて製作したフォト・ブックにも書いたが、「写真は記録であり、記憶である」という言葉を会場の中で強く感じることもできた。
それは、ちょうど京都滞在中だったので観ることができた何必館・京都現代美術館で5月23日まで開催されている『生誕120年・昭和を考える 木村伊兵衛展』でも、恵比寿の小さいながらじつに趣味のいい企画展を連発しているLIBRAIRIE6で観た『細江英公と愛する芸術家たち』展でも感じたことだった。
木村伊兵衛が撮った高峰秀子や泉鏡花、永井荷風……細江英公が撮った土方巽、稲垣足穂に澁澤龍彦……。鋤田正義の撮ったデヴィッド・ボウイ。天国にいる彼等の現世の姿は、最良の形で残っているというわけだが、展覧会については3月25日に忘れ難い体験をしたので、“日記録”をそのまま紹介しておくことにしよう。
「……コロナ禍はいつまで続くのだろう。世界がマスクに覆われているのがもうたまらない感じがする。自由がきかないこともあって毎日が単調な繰り返しになってきている。だから美しく花開いた桜を見ながら向かった東京国立近代美術館の『あやしい絵展』は格別だった。このタイトルは変だぞと思うくらいに美しくデカダンなテイストを感じさせる作品は素晴しく魅惑的で、展示構成も申し分なく、美術館に向かく車の中で流れていたロバート・プラントの『ララバイ・アンド… ザ・シースレス・ロアー』も完璧なはまり具合。そしてその後、桜の美しさにクラクラしながら向かった三井記念美術館の『特別展 小村雪岱スタイル』の展示が『あやしい絵展』と作品構成を含めて見事につながっていたので、自分の勘の良さに小躍りしたくなった。出かける後押しをしてくれた“週刊文春”に連載の酒井順子さんの“私の読書日記”と“ヴォーグ・ジャパン”の記事に感謝だ。……」
京都の思文閣『黒田征太郎 18歳のアトム』、上野の森美術館『VOCA展2021』など
あと展覧会は、これも京都の思文閣で『黒田征太郎 18歳のアトム』も観た。黒田さんが話もしてくれたが、「手塚治虫さんの絵と出会ってなければ、僕は絵を描くことをしなかっただろう。気がつきましたか僕の手が勝手にアトムを追いかけていました。そしてアトム=いのちというような図式が出来ていました。ようするに、いまだ手塚治虫さんにひきずられている僕が居る。ということなのです」というパンフレットに載っている文章通りのピュアな気持ちで描かれた作品群は僕をとても幸福な気持ちにしてくれた。
上野の森美術館で始まってすぐの『VOCA展2021 現代美術の展望-新しい平面の作家たち-』ではVOCA賞に輝いた尾花賢一の《上野山コスモロジー》以下、佳作賞や奨励賞4点の全てが僕もこれを選ぶなと思えて、ニヤッと出来たのが楽しかったし、箱根の岡田美術館で観た『没後220年 画遊人・若冲 ―光琳・応挙・蕭白とともに―』も値打ちがあった。
また、テレビは3月13日の東大寺で1270年受け継がれてきた奇跡の儀式“お水取り”の生中継が見応えと値打ちがあったし、3月22日に放映された『プレイバック日本歌手協会歌謡祭』と27日の歌謡プレミアム 特別版『歌を描く詩人 なかにし礼の世界』が充実した内容だった。
なかにし礼さん関連では翌28日には『なかにし礼×阿久悠 昭和歌謡ライバル物語~名曲はこうして誕生した~』という番組も放映されていたが、プロフェッショナルの人たちの仕事や考え方というのは見ているととても勉強にもなる。本物の歌謡曲恐るべしだ。
データ
『時間~TIME BOWIE×KYOTO×SUKITA 鋤田正義写真展』
会期:2021年4月3日~5月5日
会場:美術館「えき」KYOTO
※会場では、本展出品写真をメインに、展示しきれなかった秘蔵ショットを含めた174点や、プロデューサー・立川直樹氏による回顧録なども収めた『時間~TIME BOWIE×KYOTO×SUKITA ―鋤田正義が撮るデヴィッド・ボウイと京都―』(価格:4,400円/発売:株式会社ワニブックス)を発売中。
『生誕120年・昭和を考える 木村伊兵衛展』
会期:2021年3月13日~5月23日
会場:何必館・京都現代美術館
『細江英公と愛する芸術家たち』
会期:2021年4月6日~21日
会場:LIBRAIRIE6
※オンライン展覧会を開催中
『あやしい絵展』
会期:2021年3月23日~5月16日
会場:東京国立近代美術館
『特別展 小村雪岱スタイルー江戸の粋から東京モダンへ』
会期:2021年2月6日~4月18日
会場:三井記念美術館
『黒田征太郎 18歳のアトム』
会期:2021年3月20日~29日
会場:思文閣 銀座
会期:2021年4月3日~11日
会場:思文閣 京都本社
『VOCA展2021 現代美術の展望-新しい平面の作家たち-』
会期:2021年3月12日〜30日
会場:上野の森美術館
『没後220年 画遊人・若冲 ―光琳・応挙・蕭白とともに―』
会期:2020年10月4日~2021年3月28日
会場:岡田美術館
『プレイバック日本歌手協会歌謡祭』
放送日:2021年3月22日
BSテレ東
歌謡プレミアム 特別版『歌を描く詩人 なかにし礼の世界』
放送日:2021年3月27日
BS日テレ
『なかにし礼×阿久悠 昭和歌謡ライバル物語~名曲はこうして誕生した~』
放送日:2021年3月28日
BSテレ東
プロフィール
立川直樹(たちかわ・なおき)
1949年、東京都生まれ。プロデューサー、ディレクター。フランスの作家ボリス・ヴィアンに憧れた青年時代を経て、60年代後半からメディアの交流をテーマに音楽、映画、アート、ステージなど幅広いジャンルを手がける。近著にSUGIZO、TAKUROとの対談集『CONVERSATION PIECE ロックン・ロールを巡る10の対話』(PARCO出版)、『I Stand Alone』(青幻舎)、『ラプソディ・イン・ジョン・W・レノン』(PARCO出版)。