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「ヨコハマトリエンナーレ2020」開幕 今こそ現代アートで思考を深めるとき

ぴあ

20/7/17(金) 18:00

ニック・ケイヴ《回転する森》2016年

2001年から3年に1度開催されている現代アートの国際展、ヨコハマトリエンナーレ。7回目となる『ヨコハマトリエンナーレ2020「AFTERGLOW―光の破片をつかまえる」 』が7月17日(金)に開幕し、10月11日(日)まで横浜美術館とプロット48を主会場に開催されている。

横浜美術館入口
横浜美術館より徒歩7分の場所にある プロット48入口

同展を企画するのは、史上初の外国人ディレクターとなるインド出身の3人組アーティスト集団「ラクス・メディア・コレクティヴ」。キュレーションの出発点として、2019年にラスクは5つのキーワードを発表した。

「独学=自ら学ぶ」
「発光=学んで得た光を遠くまで投げかける」
「友情=光の中で友情を育む」
「ケア=互いを慈しむ」
「毒=否応なく存在する毒と共存する」

新型コロナウイルスの感染が拡大する前に発せられたキーワードが、現時点において世界的な重要性を持って立ち現れてきていることに驚かされる。

同展では、ラクスが提示した5つのキーワードをもとに、30以上の国や地域で活動する65人(組)のアーティストたちが制作した作品を、横浜美術館とプロット48の2つの会場で見ることができる。

ニック・ケイヴ《回転する森》2016年

横浜美術館会場を入ってすぐに目の前に現れるのは、アメリカ出身のニック・ケイヴによる巨大なインスタレーション《回転する森》。色とりどりの「ガーデン・ウィンド・スピナー」が天井から吊り下げられ、光を反射しながらくるくると回転する様は、まるで宇宙のビッグバンを見ているよう。しかし、よく見ると銃や弾丸の形の飾りも。幸福感の中に社会の持つ「毒」が見え隠れするという、アメリカ社会の複雑な現実を感じさせる作品だ。

ニック・ケイヴ《回転する森》2016年

竹村京による《修復された・・》シリーズは、こわれてしまったカップや電球、腕時計などが、その傷口を蛍光シルク糸で修復され、暗がりの中で傷口が発光するという作品。お互いを思いやり、傷んだ心を修復するというテーマが、やさしく「発光」する中に浮かび上がってくる。

竹村京《修復されたK.K.の醤油皿》ほか 2015年-2020年
傷口を蛍光糸で縫う竹村京作家本人

また、会場の一角でひときわ存在感を放っているのは、エヴァ・ファブレガスによる《からみあい》。ピンクやベージュのモコモコした細長い巨大な物体が、タイトル通りからみあっている。実はこれ、人間の腸をイメージした作品で、私たちのお腹の中で善玉菌や悪玉菌が共生しながら私たちの健康を「ケア」する世界を表現しているという。

エヴァ・ファブレガス《ポンピング》2019年

また、プロット48の会場内で見られるうちのひとつに、ラヒマ・ガンボというナイジェリア出身アーティストによる《タツニヤ(物語)》がある。一見、無邪気に遊ぶ女子高校生たちの日常が写真で紹介されるのだが、その学校は、西洋教育に反対するグループに何度も襲撃を受けている。「毒」を内包する社会においても「独学」を続け、「友情」を育みながらお互いを「ケア」し、なおかつ彼女たちの自身の明るさが周囲に「光」を放っている。ラクスの掲げる5つのテーマをすべて内包する作品といえる。

ラヒマ・ガンボ《タツニアヤ(物語)》2017年
ラヒマ・ガンボ《タツニアヤ(物語)1》2017年

作品に散りばめられた5つのキーワードは、ディレクターやアーティストがその考えのソースにしただけでなく、展覧会に訪れた来館者も一緒に育てていこうと、ラクスは呼びかけている。

その思いが現れているのが、独自の作品解説パネルだ。そこには、作家・作品に関する説明のほかに、作家自身の言葉や参考資料からの引用、作品に対する詩的な解釈が記されている。

《回転する森》の解説パネル

誰もが分かるような作品の見方は簡単に教えてくれない。しかし、ラクスはこの「わからない」状態を楽しんでほしいという。謎めいた詩のような文章から、作品の言いたいことを想像し、連想を広げていく。来館者にそんな「独学」を楽しんでほしいというのがラスクの狙いのようだ。

横浜美術館館長で、横浜トリエンナーレ組織委員会副委員長を務める蔵屋美香は、次のように言う。「自分で考え、光を発し、ひとをいたわり、共に生き、『毒』とともに共存する。まさにコロナ後の世界を生きる私たちにとって必要な知恵です。同展は、五感を働かせ、ふしぎを楽しみながら、ひとりひとりが新しい世界を生きるすべを見つけるための場所なのです」

もう一つのラクスの独自企画として、同展が「展示」と「エピソード」で構成されていることが挙げられる。

「エピソード」とは、展覧会から始まる前から始まり、終わった後まで続く、パフォーマンスやレクチャーのシリーズのこと。公式HP上で発信する形式をとり、参加アーティストたちが開幕前の準備期間に制作した「エピソードX」がすでに配信中だ。今後もエピソード10まで随時展開していく予定で、ラストにはラクスによる企画が登場するという。

ヨコハマトリエンナーレ2020 公式HPより

コロナ禍を経て、世界的な芸術祭の先陣を切って開催されたヨコハマトリエンナーレ。その取り組みについて、ラクスのメンバーのひとり、モニカ・ナルラはオンラインで参加した記者会見で、「世界に癒しを与え、世界に変革をもたらすアートの力を信じているということを、発信できていると強く自覚しています」語った。

「世界全体で燃え盛る炎がつぶされようとしている最中においても、私たちは異なる光の余韻、つまり残光(afterglow)の中で、さまざまな光を受けているのです。今後さらにもたらされるであろう素晴らし光を予感しながら、私たちは生き生きとした主体に満ちているのです」(モニカ・ナルラ)。

今こそ考えたいテーマがギッシリと詰まっている同展。「わからない」を楽しみつつ、現代アートを通して光の破片をつかみとってみてほしい。

【開催情報】
『ヨコハマトリエンナーレ2020「AFTERGLOW―光の破片をつかまえる」 』
7月17日(金)〜10月11日(日)まで横浜美術館、プロット48にて開催
【関連リンク】ヨコハマトリエンナーレ

横浜美術館会場内
岩間朝子《貝塚》2020年
キム・ユンチョル《クロマ》2020年
インゲラ・イルマン《ジャイアント・ホグウィード》2016年(2020年再制作)
ツェリン・シェルパ《54の智慧と慈悲》2013年
オスカー・サンティラン《宇宙工芸船(金星)》2018年

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