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東京事変のメンバーが過ごしてきた“再生”までの時間 個々の活動と照らして見える「プロ集団」としての姿

リアルサウンド

20/5/2(土) 12:00

 2020年元旦に8年ぶりの「再生」を表明した東京事変が、4月8日に新作EP『ニュース』を発表した。5人のメンバーそれぞれが作曲した5曲を収録した本作は、ライナーノーツで椎名林檎が「各々が解散から今日までの時間を目一杯生きてきたからこそ、いまこうして再会している5人の関係が密なんだろうなと感じます」と語っているように、それぞれの時間を過ごしてきたメンバーの経験が再び重なり合ったからこその強度を感じさせる。

(関連:東京事変『ニュース』視聴はこちら

 そもそも東京事変には「実力がありながらも陽の目を見ていなかった才能をフックアップするプロジェクト」という側面があり、つまりはもともと「個」を重視したバンドプロジェクトであった。そして、この感覚はむしろ彼女たちが活動を終了した2012年以降本格的に広まり、かつてのバンド幻想が徐々に崩れ、特に海外においてシンガーソングライターやラッパーの時代へと移って行ったというのは、これまで何度となく語られている通り。ソロアーティストの作品にはフックアップの意味合いを含んだ「フィーチャリング」がつきものでもある。

 バンドに関しては、5人なら5人のメンバーが共通のルーツを持つというよりも、それぞれが異なるルーツやキャラクターを持ちながら、その交配が結果的に面白いものを生むというユニット的な色合いの強いバンドが増え、やはり、東京事変は時代の先を行っていたように感じる。そこで、本稿では東京事変が活動を終了した2012年以降、メンバーそれぞれが過ごしてきた「今日までの時間」振り返ることで、改めて5人の現在地を確認してみたい。

 『ニュース』の1曲目「選ばれざる国民」を作曲した浮雲こと長岡亮介は、「フックアップ」という意味で象徴的な存在だと言えるだろう。大橋トリオや野田洋次郎のソロプロジェクト・illionのサポート、オリジナル・ラブの田島貴男との共演、THE BAWDIESのプロデュースなど、多彩な活動を展開してきたが、やはり大きいのが星野源の作品/ライブへの参加。なお、星野の作品に参加するきっかけとなったのは、亀田誠治プロデュースの「ギャグ」である。

 また、自らのバンドであるペトロールズは2015年に結成10周年にして初のフルアルバム『Renaissance』を発表し、近年は積極的なライブ活動も行っていて、昨年には2ndアルバムセカンド『GGKKNRSSSTW』を発表。ジャズやファンクを土台に、音数を絞りつつデジタルと生演奏を組み合わせ、大胆なリズムや展開も盛り込んだフューチャーソウル風の「選ばれざる国民」は、ペトロールズや星野源からのフィードバックも感じさせつつ、やはり東京事変ならではの仕上がりに。「6人目の東京事変」とも言われ、近年はOfficial髭男dismやindigo la Endにも関わっているエンジニア・井上雨迩(うに)の手腕も大きいと言える。

 2曲目の「うるうるうるう」を手掛けた伊澤一葉は、自身のバンド・あっぱでの活動のほか、2013年にはthe HIATUSに正式メンバーとして加入し、aiko、大橋トリオ、片平里菜、吉澤嘉代子などの作品/ライブに参加。なか中でもトピックと言えるのが、米津玄師の大ヒット曲「Lemon」への参加で、伊澤のリリカルなピアノが楽曲の魅力をさらに引き立てている。1月に発表した初のソロ作『5に至り咲きました』でも幅広い音楽性を披露し、国立音楽大学作曲科出身のソングライティング能力にさらに磨きをかけていたが、「うるうるうるう」ではブラジル音楽の要素を組み込みつつ、見事なポップソングに仕上げてみせた。

 3曲目の「現役プレイヤー」を作曲した亀田誠治は東京事変への参加前からすでにプロデューサーとしてのポジションを確立していたわけだが、flumpoolのメンバーとのTHE TURTLES JAPANや、高橋優とのメガネツインズなど、アーティスト活動も行いつつ、2015年にはいきものがかりの「あなた」と大原櫻子の「瞳」で「日本レコード大賞」の編曲賞を受賞。山本彩、ヤバいTシャツ屋さん、BiSHのアイナ・ジ・エンドなど、若手とも積極的に関わりつつ、ドラマ『SUITS/スーツ』の主題歌として知られるB’zの「WOLF」にベーシストとして参加するなど、J-POP/J-ROCKのシーンを精力的に盛り上げてきた。

 2018年に『プライムニュース』(フジテレビ系)の音楽テーマ曲を手掛けたのは、『ニュース』の伏線のようでもあり、2019年には椎名林檎も飛び入りで参加した『日比谷音楽祭』を自ら主催。「現役プレイヤー」は『ニュース』の中でももっともソリッドなロックンロールナンバーであり、まさに現役感バリバリな亀田のエネルギーと貫録を同時に感じさせる。

 4曲目の「猫の手は借りて」を手掛けた刄田綴色は、2013年にscopeに正式メンバーとして復帰したほか、ヒグチアイのライブやtricotのレコーディングに参加するなどしてきたが、やはり印象的なのは2015年からRADWIMPSのサポートを務めていたこと。森瑞希とのツインドラム編成は結果的にバンドをさらに押し上げることとなり、社会現象となった映画『君の名は。』を経て、2016年の『NHK紅白歌合戦』にはRADWIMPSと椎名林檎のサポートで2ステージに登場している。オルタナティブな質感の「猫の手は借りて」は、「人間」を題材とした歌詞も含め、どこかRADWIMPSの「棒人間」にも通じるか。

 5曲目の「永遠の不在証明」が椎名林檎の作曲だが、ギターやキーボードのソロをフィーチャーしつつ、アウトロではメンバー全員でセッションを繰り広げているように、やはり「個の集合体」としての東京事変の姿を印象付けていて、実際に椎名は現在の東京事変を「職人集団、プロ集団」と形容してもいる。一人ひとりが習熟した大人となり、再び会いまみえることで、新たな創造物を作り出すということ。それは『ニュース』を通じて、いかに「自分」を発見するかという作品の命題ともリンクし、一人ひとりの主体的な参加こそがよりよい社会を生んでいくという、そんなメッセージにも繋がっているように感じられる。(金子厚武)

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