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『スカーレット』ヒロインの波乱万丈ぶりが強烈 女性P×女性脚本家が“シビアな目線”で作る朝ドラ

リアルサウンド

20/2/4(火) 6:00

 日々、生きることが楽でないことを強烈に、シビアに突き付けてくる戸田恵梨香主演の朝ドラ『スカーレット』(NHK総合)。

 家が貧乏であるために、中学卒業後に大阪に働きに出たり、安い給料を補うために1足12円でストッキングを繕い、美術学校に通うために頑張って貯めたお金を、家の借金返済のために使ったり。火鉢の絵付師として歩み始めてからも、結婚して自分の陶芸作品が売れてからも、夫の作品が金賞を受賞し、冷蔵庫が買えたり、夜食におにぎりが登場するようになったりしてからも、暮らし向きがさほど良くなる気配はないまま。

 おまけに、夫の作品に良い刺激になればと受け入れた弟子が、夫に恋心を抱いてしまったり、ずっと頼りなく見えた母親が一生懸命貯めてきてくれたお金に支えられ、高額を投じて作った穴窯がようやく完成するも、思うような色が出ずに作品は何度も失敗したり。挙句、穴窯での創作をいったん休むことを提案する夫と意見が衝突し、夫は家を出てしまい、穴窯を諦められない喜美子は借金までして……という展開に。

 あまりの世知辛さに、「大阪・荒木荘での楽しかった日々を返してほしい」と思ったり、柔道絵付けの師匠・フカ先生(イッセー尾形)の再登場を願ったり、幼少期や創作活動において多大な影響を与えた「草間流柔道さん」(佐藤隆太)やジョージ富士川(西川貴教)、幼なじみの癒しキャラ・信作(林遣都)&照子(大島優子)の登場シーンをもっと増やしてほしいと思ったりしている視聴者も少なくないのではないだろうか。

【写真】朝ドラでブレイク中の松下洸平

 しかし、イージーに進まない、ときには努力も報われない、生々しくシビアで残酷な展開こそが、女性CP(チーフプロデューサー)×女性脚本家という「女性作り手タッグの朝ドラ」の大きな特徴ではないかと思う。

 かつては男性ばかりだったテレビの世界。それは、様々な家族の姿を通して「女性の半生もしくは一代記」を描いてきた朝ドラにおいても同様であり、自分が拙著『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)を刊行した2012年時点では、女性初プロデューサーだった『おしん』『はね駒』の小林由紀子さん(当時・岡本由紀子さん)をはじめ、朝ドラの女性プロデューサーは『あぐり』(浅野加寿子さん)、『おひさま』(小松昌代さん)、『梅ちゃん先生』(岩谷可奈子さん)の4人だけだった。

 以降、現在の『スカーレット』に至るまで、女性のCPは『ごちそうさん』(岡本幸江さん)、『半分、青い。』(勝田夏子さん)、そして『スカーレット』のみ。

 これまでの歴史を考えると、2010年代以降は女性CPが確実に増えている。とはいえ、まだまだ少ない中で、さらに女性脚本家×女性CPのタッグとなると、先述の『おしん』、『はね駒』のほか、『ごちそうさん』、『半分、青い。』、そしてこの『スカーレット』だけなのだ。

 メインの作り手に男性目線が入ると、「みんなに愛される、明るく元気で健気なヒロイン」になったり、「誰かが救ってくれる優しい物語」になったりすることが多い。しかし、女性CP×女性脚本家の場合は、現実から決して目を逸らさず、突き付けてくる厳しさ・残酷さがある。

 『おしん』の波乱万丈の人生はもはや説明不要だが、おしんが意外にも一般的にイメージされてきた「ひたすら耐える女性」ではなく、かなり気丈であったことも、近年の再放送などを通じて初めて知った、あるいは思い出したという人は多いのではないか。

 そして、女性新聞記者の草分けと言われた磯村春子をモデルにしたと思われる『はね駒』は、ちょうど男女雇用機会均等法元年だったために、「女生と仕事」を非常にシビアに描いた作品であった。ヒロイン・りん(斉藤由貴)が仕事と結婚生活とのバランスを欠いた試練として描かれたのは、流産、そして、仕事にかまけて愛情を十分にかけられなかった長男の登校拒否などのエピソードである。

 しかも、終盤には、女性新聞記者として忙しく働くりんが、家事や子育てをしてくれる実母(樹木希林)に対して、「お母さんが大変なら、女中を雇えばいい。私はそれだけ稼いでいる」と言うシーンもあった。そこで、これまで黙って協力してくれていた母が本気で娘に怒り、こう言う。

「お前はいつから女房や母親の代わりをお金にさせるような、薄汚れた根性の女になったんだ」

 時は男女雇用機会均等法元年、まさに女性の社会進出を高らかに謳うとき。第一線で仕事をし、女性ならではの様々な苦労を知る女性CPと女性脚本家が働くヒロインにこのセリフを語らせたのは、今思い返しても、かなりのシビアさである。

 また、『半分、青い。』では、「人生・怒涛編」において、バブル崩壊後に経済が低迷している世の中で、「100円ショップのアルバイト」話を妙に軽く描いたり、女の価値は「若さしかない」と断じたりという展開があった。これは苦悩を正面からウェットに描くよりも、むしろ世知辛く、残酷で、鬱な展開である。

 また、『半分、青い。』と放送時期は前後するが、女性CP×女性脚本家のシビアな目線が際立っていたのは、『ごちそうさん』だ。

 同作では、ちょうど1月、今くらいの時期から、長期間にわたる重苦しいうつ展開が続いていた。一つは、今話題の東出昌大演じる夫・悠太郎の浮気疑惑。ヒロイン・め以子(杏)が銃後を守る模範的な愛国婦人になっていくこと。幼なじみの源太(和田正人)が戦場から戻るも、精神を患っていたこと。さらに悠太郎が逮捕され、釈放された後には満州へ旅立つこと。3月には息子の活男(西畑大吾)が戦死すること……最終週の直前まで、終わらないのではないかと思うほど長く暗いトンネルが続いたのは、朝ドラ史上でも稀ではないかと思う。

 そして、この『ごちそうさん』でプロデューサーを務めていたのが、『スカーレット』CPの内田ゆきさんである。だからこそ、参考にしたと思われる女性陶芸家・神山清子さんの夫が、弟子の女性と不倫、泥沼の離婚劇の末に去って行ったというエピソードから、三津(黒島結菜)が登場してからというもの、喜美子×八郎夫婦の仲を案じる視聴者は多かった。

 結果、ドラマでは不倫は描かず、三津が自ら去っていったわけだが、創作における本当の大変さはむしろそこから始まったようにも見える。女性作り手タッグが描く朝ドラの残酷さは、令和の時代に突入してなお、その厳しさを増している。

(田幸和歌子)

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