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『仮面ライダー』トレンド入りにジェームズ・ガンも大喜び 海外での特撮人気とその影響を探る

リアルサウンド

20/8/1(土) 12:00

 先日、ジェームズ・ガン監督のTwitterがちょっとした話題になりました。「I love that #KamenRider is trending. 」(仮面ライダーがトレンド入りして嬉しいという主旨)と語り、さらにこれに対するファンからのコメントを受け「No, I don’t like Kamen Rider. I love Kamen Rider.(仮面ライダーが好きかって? 好きどころじゃない、愛しているんだ)」とまで言ったわけです。

参考:詳細はこちらから

 ことの発端は、TokuSHOUTsuという日本の特撮ヒーローものを英語字幕付きで米国内に配信する動画サービスが立ち上がり、その一環で7月16日に『平成仮面ライダー20作記念 仮面ライダー平成ジェネレーションズ FOREVER』が配信されることが理由。このニュースを聞いたアメリカの仮面ライダーファンが大いに盛り上がり、#KamenRiderがトレンド入り。それにジェームズ・ガン監督が参加したようです。

 ジェームズ・ガン監督と言えば、マーベルの『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』2作、いまDCの『ザ・スーサイド・スクワッド』を手がけているわけで、いまやアメコミ映画ファンにとっても大人気の監督ですが、その彼が“仮面ライダーを愛している”と言ってくれたことで、日本の特撮ファン、仮面ライダー好きも狂喜したわけです。かくいう僕も仮面ライダー好きなのでちょっと誇らしく思いました(笑)。その一方、ちょっとびっくりしたのは、ジェームズ・ガン監督が仮面ライダーを知っていた、好きだったということです。

 日本発の特撮コンテンツでアメリカで人気と言われていたのはまずはゴジラ。ゴジラを含む東宝の特撮怪獣映画はアメリカの劇場で公開され、アメリカでも人気に。この余波を受け『ガメラ』(大映)や『大巨獣ガッパ』(日活)などもアメリカのTV局のコンテンツとして買い上げられ、放送されました。後にゴジラはアメコミ化、アニメ化、ハリウッドリメイクされているし、ガメラもアメコミ化、アクションフィギュア化されています。

 『人造人間キカイダー』がハワイでは“キカイダーの日”が作られるぐらい人気だったというのも有名。このキカイダーの成功を受け、日本の特撮ヒーローもののいくつかがハワイでは放送されていたそうです。ウルトラマンは1966年の『ウルトラマン』がアメリカのローカル局で放送されたことがあり、それが証拠にダスティン・ホフマンが出演した『真夜中のカーボーイ』(1969年)の中には、ホテルの中のTVで『ウルトラマン』のスカイドンが火を吐く場面が映るシーンがあります。その後、アニメの『ウルトラマンUSA』『ウルトラマンパワード』とアメリカ版があって、最近ではマーベルからアメコミ化されることが発表されたのでそれなりに知名度はあると思います。特撮ではなくアニメであれば古くは『鉄腕アトム』(英題:Astroboy)があり、『科学忍者隊ガッチャマン』(英題:Battle Of The Planets)、『超時空要塞マクロス』『超時空騎団サザンクロス』『機甲創世記モスピーダ』3作を再編集した『Robotech(原題)』などがあるのですが、正直“仮面ライダー”がアメリカでブレイクしたとは聞いたことがありませんでした。

 むしろ仮面ライダーと同じ東映特撮ヒーローもので、アメリカで大ヒットになったのは“スーパー戦隊”でした。これについてまず説明すると、日本では1992年に放送されたスーパー戦隊『恐竜戦隊ジュウレンジャー』が、1993年に『Mighty Morphin Power Rangers』として全米で放送され大成功を収めます。日本での番組がそのまま放送されるのではなく、戦闘・特撮シーンは日本のものを流用しドラマ部分をアメリカの俳優で新撮という加工がなされ、日本とは別物の内容でオンエアされました。以後、日本のスーパー戦隊は『パワーレンジャー』シリーズとして毎年毎年、この“加工”をされて順次全米で放送されていきます。

 ここでちょっと面白い話があるのですが、日本を代表するアクション映画の監督の一人で、アメリカでのパワーレンジャーにも関わっていた坂本浩一監督によると、アメリカ人のスタッフは戦隊のヒーローたちが「~~レンジャー!」と名乗るシーンが理解できなかったそうです。「あんなことやっている間に敵が襲いかかってきたらどうするんだ」と(笑)。

 といくつかのカルチャーギャップはあったものの、“スーパー戦隊→パワーレンジャー”の変換は大成功。それに続けと、今度は仮面ライダーの全米への輸出が始まります。日本では1988年に放送された『仮面ライダーBLACK RX』がパワーレンジャーと同様の手法で“加工”され『マスクド・ライダー』のタイトルで1995年に放送されます。この7年のブランクはなぜかというと毎年作られるスーパー戦隊と違って、仮面ライダーは1988年の『仮面ライダーBLACK RX』を最後に10年ほど新しいTVドラマシリーズが作られていなかったからなんですね。

 『マスクド・ライダー』は当初はそれなりに人気が出たものの、『パワーレンジャー』ほどのヒット作にならず1年ほどで撤退したそうです。それから10年して2009年、日本では2002年に放送された『仮面ライダー竜騎』を『KAMEN RIDER DRAGON KNIGHT』として同じように放送しましたが、こちらも1年で放送終了となり継続化されませんでした。

 というわけで『仮面ライダー』は2度ほどアメリカのTV番組として放送されています。だからここでそれなりの知名度を全米で得たのかもしれませんが、少なくとも『ゴジラ』や『パワーレンジャー』ほどブレイクしたとは言い難いのです。一方、ジェームズ・ガン監督について言えば1966年生まれですから、年齢的に1995年と2009年の放送を観て仮面ライダーを知った&好きになったとも考えづらいんです。もっと前から仮面ライダーを知ってたんじゃないかと。彼はもともとウルトラマンやゴジラ映画が好きだと公言しているから、当然日本のこの手のカルチャーは知っていただろうし、また香港やアジアのアクション映画のファンでもあるのでこうした作品を輸入ビデオとかで観ていて、その中に日本の仮面ライダーとかが混じっていた可能性もありますね。

 ジェームズ・ガン監督がどういう経緯で『仮面ライダー』を知ったかも興味がありますが、なぜ『仮面ライダー』に魅かれたのか? 恐らくアクションと造形ではないかと思います。『仮面ライダー』というのは基本的に肉体アクションです。銃や刀や光線技とかは使いません。ライダーキックという蹴りが決め技というのも象徴的です。

 そして『仮面ライダー』の放送が始まったのは1971年。この年は香港でブルース・リーの『ドラゴン危機一髪』が公開され大ヒットしています。そして1973年に『燃えよ!ドラゴン』、1974年に千葉真一さんの『激突!殺人拳』(クエンティン・タランティーノやキアヌ・リーブスなどファンが多い)とアジアを起点に格闘技系アクションものが注目され始めた時代でもあるのですね。それは銃や殴り合いをベースとするアメリカ映画のアクションとは異なるものでした。

 『仮面ライダー』の流れを汲む特撮ヒーローものは以後、このアクロバチックな格闘技アクションを引き継いでいきます。東映スパイダーマンが、スタン・リーをはじめマーベルで絶賛されたのは、スパイダーマンの殺陣、アクションの素晴らしさでした。先にも述べたようにジェームズ・ガン監督は香港のアクション映画とかも好きなので、仮面ライダーの戦いっぷりを気に入っているのかもしれません。

 もう一つはヒーロー、怪人のデザインです。とにかく毎週毎週新たなデザインの敵が出てくる。毎週違った怪人=モンスターを用意できるって結構すごいことだと思うのです。しかもその造形はユニークかつインパクトがあります。実際、東映の特撮ヒーローのデザインはハリウッド映画にも影響を与えており、プレデターがスーパー戦隊の悪役から、そしてロボコップが日本の宇宙刑事ものからインスパイアされたデザインというのは有名な話ですから。

 日本のアニメに影響を受けたというクリエーターは世界中にいっぱいいますし、今回のジェームズ・ガン監督のように日本の特撮ヒーローが好きだという人も実際には多いのかもしれません。仮面ライダーやウルトラマンで育ったクリエーターが、マーベルやDCの映画を手がけるというのも素敵な話です。故・スタン・リー氏は「人々をワクワクさせる冒険ものやファンタジーに国境はない」と言っていました。ジェームズ・ガン監督の今回のTwitterで、その言葉を思い出しました。 (文=杉山すぴ豊)

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