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『わたナギ』特別編が示したそれぞれの結婚のかたち 心のライフワークバランスを考える後日談に

リアルサウンド

20/9/9(水) 13:30

 “私の家政夫”から、“私の夫”へ。メイ(多部未華子)とナギサさん(大森南朋)の結婚で幕を下ろした火曜ドラマ『私の家政夫ナギサさん』(TBS系)。その1カ月後の様子が、2時間スペシャルの特別編で描かれた。

 「メイさんが好きです」「私も好きです」と想いを伝え合い、ジャンピングハグで結ばれた2人。さぞかしラブラブな新婚生活を送っているのではと思いきや、聞こえてきたのは、マンションの廊下にまで響く夫婦喧嘩の声。どうやらメイが寝坊をしてしまったようなのだ。

 スマホの爆音アラームで起きているメイ。そんなメイに、一緒に暮らし始めたナギサさんは“音量を少し抑えてほしい”と頼む。その理由は、心臓になるべく負担をかけないため。最終回でも明かされたように、ナギサさんは人間ドッグで心電図の再検査が必要になっていた身。さらにメイとの22歳という年の差を考えて、1日でも長く健康でいるために気にしているのだろう。しかし、メイは音量を下げたアラームで起きることができなかった……ということらしい。

 自分の生活ペースを乱されたという苛立ちから、メイは「ナギサさんのせいです」と声を荒げる。これは完全な八つ当たり。一方で、ナギサさんの返答も、まさに売り言葉に買い言葉で、どんどんヒートアップしていく。いつもメイの靴下が裏返っていることやら、お風呂上がりに換気扇を回さないことやら、ペットボトルをすすいでラベルを剥がさないことやら。次々と出てくるナギサさんの改善要求。それに対して、メイも「ナギサさんのいびきがうるさい」と反論し、心の中で「やさしくなくなった」と不満を漏らすのだった。

 生活を共にしたことで、こうした喧嘩が生まれるのはよく聞く話。だが、2人の場合は初めてお互いの生活ぶりを見せ合う夫婦とは状況が違う。ナギサさんが家政夫としてメイの家に出入りしたころから、きっとメイの靴下はずっと裏返っていただろうし、仕事が忙しい時期には寝食を忘れて没頭するのも見てきた。それにも関わらず、2人のうっぷんは溜まってしまった。

 「ナギサさんがやさしかったのはビジネスモードだったの?」とメイは頭を抱えるが、全くその通りだ。仕事だから靴下がどんな状態であっても、ナギサさんは何の文句も言わなかった。もちろん家庭が仕事のようにできたらいいのだが、人間そんなに器用にはいかない。家族となれば「より効率的になるように協力してほしい」という気持ちが出てくる。「気持ちをわかってほしい」という甘えも。そして「ここが変われば、もっと愛しいのに」というエゴも出てくる。

 だが、モードが変わったのは、ナギサさんだけではない。メイだって、ナギサさんを“雇っている”モードだったはずだ。そして、仕事はバリバリとこなすのに、家事は一切ダメなメイこそ、ビジネスとプライベートでモードが異なることに、理解があって然るべきはずなのに、ナギサさんのそれは許すことができない。“夫”に“家政夫”のモードを求めるのは、実にナンセンス。それは、性別が逆転しても同じ話だ。

 また、メイが反省すべき部分がもう一つ。言葉に出した不満と本音がねじれてしまっていることだ。ナギサさんが靴下や換気扇について不満を言うのは、それを「直してほしい」というストレートな本音。だが、メイはナギサさんへの反論に「いびき」を持ち出したのは、「いびきを今すぐどうにかしてほしい」という思いに加えて、「私だって我慢しているのをわかって」という別の欲求が入り混じっていた。

 ナギサさんはもう少しメイの成長を気長に待ったほうがよかったし、メイはそのストレスを溜め込まずにまっすぐ伝えたほうがよかった。でも、それも今回初めてぶつかってみてわかった話。メイとナギサさんは、その日のうちに感情的になってしまったことに対して、お互いに謝罪。そして、これからも話し合って、それぞれの得意なところでカバーしながら、2人だけの結婚のかたちを模索していこうと歩み寄る結末に。

 興味深かったのは、その“得意なところ”には、やはりそれぞれの職業柄がチラ見えしたこと。ナギサさんは、乱れた部屋を整理整頓するかのように、メイができそうなところを一つずつ提示。そしてメイもMRの人脈を駆使して、いい耳鼻科の先生を紹介するという建設的な提案をする。

 仕事のできるメイとナギサさんは、「結婚=プライベートモード」と振り切るのではなく、「自分の得意を発揮する場=ビジネスモード」も取り入れたほうがうまくいくのではないだろうか。オムライスにケチャップをかけるときは、思い切りプライベートモードに。そして今後の話し合いをするときは、冷静なビジネスモードに……。

 日本では、年々共働き夫婦が増え続けているという。外で一生懸命働く人ほど「家の中ではプライベートモード全開で甘えたい」という気持ちになりやすいかもしれない。でも、それは夫婦お互い様だ。求め合うばかりでは、ぶつかるのは目に見えている。

 「わかってほしい」「察してほしい」と感情的になりそうなときこそ、家族を仕事相手と想定してみる。ビジネスモードで目の前の問題を見つめれば、もう少し冷静に対応できるかもしれない。例えるなら、家族間における心のライフワークバランス。どちらかがずっとビジネスモードを強いられないベストなバランスを築き続けること。そう思うと、つくづく結婚はゴールなんかじゃない。生涯続くライフワークシナジーだ。

■配信・リリース情報
『私の家政夫ナギサさん』
Paraviにて全話配信中
2021年1月13日(水)Blu-ray&DVD-BOX発売
出演:多部未華子、瀬戸康史、眞栄田郷敦、高橋メアリージュン、宮尾俊太郎、平山祐介、水澤紳吾、岡部大(ハナコ)、若月佑美、飯尾和樹(ずん)、夏子、富田靖子、草刈民代、趣里、大森南朋
原作:『家政夫のナギサさん』(四ツ原フリコ著/ソルマーレ編集部)
脚本:徳尾浩司
演出:坪井敏雄、山本剛義
プロデューサー:岩崎愛奈(TBSスパークル)
製作:TBSスパークル、TBS
(c)TBS

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