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“K-POP界のアベンジャーズ”SuperMがデビュー EPからグループに期待される役割を考察

リアルサウンド

19/10/7(月) 7:00

 2019年10月4日にSuperMがデビューEP『SuperM』を世界同時リリースした。米国ユニバーサルミュージックの傘下<キャピトルレコード>のCEO兼チェアマンであるスティーブ・バーネットがSMエンターテインメントに「東洋と西洋のシナジーを引き上げることのできる新しいグループ」の結成を依頼し、代表のイ・スマン自らピックしたテミン(SHINee)、ベクヒョン、カイ(EXO)、NCTよりテヨン、マーク(NCT 127)、ルーカス、テン(WayV)というメンバーで構成されている。デビューステージはLAのハリウッドにあるキャピトル・レコード本社ビルで披露され、全世界へ生配信された。

(関連:WINNERやテミン楽曲から学べる“生きた韓国語” NICE73が教える、K−POP歌詞の読み解き方

 タイトル曲の「Jopping」は「jumping+popping」を意味する通り、飛び跳ねるようなリズムが特徴で、ファンファーレが勇壮なイントロ&サビ部分は映画『アベンジャーズ』シリーズのテーマをサンプリングしている。SuperMは“K-POP界のアべンジャーズ”を標榜しており、実際SMエンターテインメント全体で今後マーベルとコラボレーションを進める予定でもある。「Jopping」はLDN Noiseプロデュースで10人の作曲家による共同制作だが、EXOやNCTの楽曲に参加経験のある顔ぶれも多い。ロックやヒップホップのテイストを加えつつ、グループの体現したいものを凝縮したような曲だ。

 一方、2曲目の「I can’t stand Rain」は朝鮮半島に伝わる打楽器・チャングと弦楽器・へグムの音色を取り入れており、全体のリズムも朝鮮音楽に多い3拍子がベースだ。SM所属の韓国人作曲家・Kenzieのプロデュースで、欧米の作曲家との共同制作ではあるが作曲にもKenzie自身が参加している。9割の英語詞に韓国語を混ぜ込み“西洋と東洋のシナジー”というもう一つのグループのアイデンティティを表現しようとしたのが「Jopping」だとしたら、楽曲そのもので同様のことを試みたのが「I Can’t Stand The Rain」なのではないだろうか。

 シングルのA面とB面のような上記の2曲以外は一部のメンバーが参加したユニット曲だ。LDN Noiseプロデュースの「2Fast」はベクヒョン・テミン・ルーカス・マークが参加したハウス風味のR&Bで、ボーカルがメインのメロディアスな1曲。一方、スウェーデンの作曲ユニット・Moonshineがプロデュースした「Super Car」(テミン・ベクヒョン・テヨン・テン・マーク)は、EDMではあるがよりラップパートが引き立つビートが強めな楽曲だ。テミン・カイ・テヨン・テンによる「No Manners」は、70年代以前の韓国歌謡を混ぜたようなヒップホップテイストのR&Bで、テヨンが作詞に参加している。SuperMのメンバーは7人中5人が本来の所属グループでラップパートを担当しており、タイトル曲の「Jopping」はほぼ2ボーカル5MCに近いパート配分になっている。アメリカでのトレンドを加味すればラップパートの比重が重くなるのは必然かもしれないが、アルバム全体で見ればユニゾン歌唱パートが多い曲もあり、ラップパート担当のメンバーにもボーカルパートが割り振られている。ラップとボーカルで分かれやすい傾向のあるK-POPのグループとしては、パート配分がフレキシブルと言えるだろう。

 韓国では映画版の『アベンジャーズ』の人気が高いこともあり、“最強メンバー”を“アベンジャーズ”と形容することが多い。特に『PRODUCE 101』シリーズ以降、芸能界では頻繁に使われるようになった。そのような文化的背景もありSuperMが“K-POP界のアベンジャーズ ”を標榜するのは自然な流れだが、実際のビジュアルのイメージはカラフルなマーベルヒーローズのイメージとは少し違い、「Jopping」MVでの全身黒レザー姿でのダンスブレイクは、むしろ“ヴィランズ=悪役”のようでもある。アメリカショービズ界の現在を見ると、女性アーティスト界隈では“ヴィランズ”寄りのキャラクターが優勢であり、一方で“K-POP”“ボーイズグループ”、そしてナイーブなメッセージでファンに寄り添う“21世紀的グッドボーイ”の席はすでに埋まっているようだ。

 近年のSMは、カルチャー寄りのファンタジーな設定や非現実的なイメージで多くのファンドムを惹きつけてきた。パフォーマンス面では一貫して“ダンス”という大きな強みを持っているSMが、アメリカという多民族国家でよりマスな足跡を残すためには、アジアでは共通認識として受け入れられやすかった“多層的なわかりにくさをあえて含ませたイメージ”から脱却し、より多様な文化圏の人々に向けてある意味もっと”わかりやすい”、よりシンプルかつ肉体的な表現へと回帰する必要があると考えたのではないだろうか。ナイーブな歌詞の”寄り添いソング”ではなくあえて少し強気の歌詞を選び、ハリウッド映画的な“アメリカンコミックのヒーロー”というフィルターを通すのもそのための手法と言える。同時に、むしろ“ヴィランズ”が主役にもなりうる今日的な“アメリカのヒーロー像”は、単純な善と悪を描くものではなく、多様性を求められるという複雑さも併せ持っている。見る立場や状況によってヒーローあるいはアンチヒーロー、時にはヴィランにもなりうる多面性を持ち、フィクショナルではあるが共感もできる多様性を内包した存在。それが“2019年のアメリカでデビューするK-POPグループ”として、SuperMに期待される役割なのかもしれない。(DJ泡沫)

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