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樋口尚文 銀幕の個性派たち

志賀勝、悪相俳優に墓はない(前篇)

毎月連載

第48回

20/4/30(木)

写真提供:ウォークオン

コロナ禍で全国の映画館の灯が消えるという戦時中でもなかった事態のなか、銀幕の虫のような俳優が逝った。志賀勝は1942年1月生まれ、享年78であった。志賀の名前を一躍世に知らしめたのは、1975年の「東映ピラニア軍団」結成であったわけだが、今どきの読者のために注釈を施すならば、これは東映京都撮影所でノンクレジットで脇役、チョイ役をこつこつ引き受けていた志賀や川谷拓三、岩尾正隆といったメンバーがかねて志賀の命名になる「ピラニア会」という寄り合いをやっていて、これをやがて渡瀬恒彦が世話役となって「東映ピラニア軍団」という悪役ユニットとして売り出そうということになった。

最盛期には20名くらいになったという「東映ピラニア軍団」だが、ここに集まったのは志賀や川谷のような大部屋の脇役だけではなく、スタア候補のニューフェイスとして入社したもののくすぶっている感のあった室田日出男、小林稔侍、片桐竜次、成瀬正孝らの顔もあった。渡瀬のみならず千葉真一も彼らを盛り上げ、かねて彼らの踏ん張りを意気に感じていた中島貞夫、山下耕作、深作欣二といった監督たちや脚本の倉本聰まで応援に回った。

これはマスコミにも面白がられるところとなり、東映は『河内のオッサンの唄』『ピラニア軍団 ダボシャツの天』といった「ピラニア軍団」映画まで作ることとなったが、これらで勇躍主役を張ったのは室田日出男とともに人気ドラマ『前略おふくろ様』のレギュラーをつとめたり、カップ麺「どん兵衛」のCMキャラクターに抜擢されたりしていた川谷拓三であった。川谷は殺気じみた演技も得意だったがコミカルな風貌で親しみやすかったが、志賀はとにかく物騒な悪相で売っていたので、あくまで脇役道を突き進み、77年の末には「ピラニア軍団」から脱退した。しかし、志賀の名前と顔が一致したのは「ピラニア軍団」祭りのおかげに違いない。

志賀は、戦前に帝キネにスカウトされて数々の時代劇に出演、戦中は大映の二枚目スタアとして鳴らした俳優・加賀邦男の三男だった。加賀は正統派のりりしい美男だったが、戦後は東映に入社して名脇役となり、内田吐夢監督『大菩薩峠』『宮本武蔵』など善玉から悪玉まで目覚ましい振れ幅を披露した。1975年には、息子の志賀勝や「ピラニア軍団」の面々ともども中島貞夫監督『暴力金脈』に出演していた。同年の高林陽一監督『本陣殺人事件』での好演が、映画出演としては最後に近いかもしれない。

実は加賀には6人の子どもがいたが、長男は東映東京撮影所の製作課の社員となり、次いで三男の勝彦も1960年に京都の高校を出るや東映京都撮影所に入社、「志賀勝」の芸名で大部屋俳優となった。ところが志賀の兄の達彦も、これに刺激されてか翌61年に長兄のいる東映東京に入って大部屋俳優となっている。この次男は本名を活かして「亀山達也」の芸名で多数の映画に出演したが、役柄といえばずっと「愚連隊F」「レストランの荒くれB」「安藤組組員A」という感じで(『新幹線大爆破』に出ていた……と聞いても「救援車の作業員」はなかなか思い出し難い)、一部の脇役マニアには好かれたものの、俳優としてはその域を脱せなかった。

弟の志賀勝とて、5年以上はノンクレジットの通行人のような役ばかりで辛酸をなめていたが、沢島忠監督『新蛇姫様 お島千太郎』以後ようやく脇役扱いとなった。兄の亀山達也は父のような二枚目ではなく、かといって強烈な悪役顔でもなかったが、志賀は一度見たら忘れないくらいの凶悪な人相である(いったいあの父からどうしてこういう子が生まれたものかと不思議になるほど真反対だ)。それゆえ、派手な特徴に欠ける兄に比べると、きわめて個性派ではあった。ただし、時代劇から任侠路線まで、東映も基本的には美男美女のスタアで売ってきたわけなので、いかに特徴的な人相であれ、こんな物騒な面立ちの俳優が張り出せる場所も機会もなかった。

ところが70年代前半、東映が『仁義なき戦い』の大ヒットで実録やくざ映画路線に転じ、数々の癖あるアウトローが描かれるようになって、志賀は期せずして脚光を浴びることになる(つづく)。


プロフィール

樋口 尚文(ひぐち・なおふみ)

1962年生まれ。映画評論家/映画監督。著書に『大島渚のすべて』『黒澤明の映画術』『実相寺昭雄 才気の伽藍』『グッドモーニング、ゴジラ 監督本多猪四郎と撮影所の時代』『「砂の器」と「日本沈没」70年代日本の超大作映画』『ロマンポルノと実録やくざ映画』『「昭和」の子役 もうひとつの日本映画史』『有馬稲子 わが愛と残酷の映画史』『映画のキャッチコピー学』ほか。監督作に『インターミッション』。新作『葬式の名人』がDVD・配信リリース。

『葬式の名人』(C)“The Master of Funerals” Film Partners

『葬式の名人』
2019年9月20日公開 配給:ティ・ジョイ
監督:樋口尚文 原作:川端康成
脚本:大野裕之
出演:前田敦子/高良健吾/白洲迅/尾上寛之/中西美帆/奥野瑛太/佐藤都輝子/樋井明日香/中江有里/大島葉子/佐伯日菜子/阿比留照太/桂雀々/堀内正美/和泉ちぬ/福本清三/中島貞夫/栗塚旭/有馬稲子

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