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藤原さくら、DAOKO、角銅真実……2020年、新たなサポートで生まれ変わる女性アーティスト

リアルサウンド

20/2/9(日) 8:00

 東京オリンピックイヤーの2020年は、東京事変の「再生」とともにスタートした。椎名林檎を中心とする、言わずと知れたスーパーバンドの始まりは2003年。PE’Zのメンバーとして活動していたH是都M(現H ZETT M)や、ペトロールズを結成したばかりの浮雲こと長岡亮介らをフックアップし、単なる「ソロアーティストとバックバンド」という関係性ではない、個性の集合体としてのバンド像を打ち出したことは、今振り返ってもやはり画期的であった。そして、それはメジャー/インディ、ジャンル、世代のボーダーを超えて、才能ある音楽家が結びついた2010年代の先駆けだったとも言える。本稿ではそんな東京事変の「再生」と時を同じくして、才能ある女性アーティストが新たなサポートメンバーとともに、新しく生まれ変わるような活動を展開していることに注目したい。

藤原さくら「Twilight」

 椎名が学生時代の一時期を過ごした福岡出身で、トリビュートアルバム『アダムとイヴの林檎』で「茜さす帰路照らされど・・」をカバーしたこともある藤原さくらは、昨年9月から12月にかけて行われた1年ぶりの全国ツアーにして初のライブハウスツアー『Twilight Tour 2019』を、須田洋次郎(ドラム/ミツメ)、猪爪東風(ギター/ayU tokiO)、渡辺将人(ベース/COMEBACK MY DAUGHTERS)とともに回っている。

 これまでOvallやSPECIAL OTHERSのメンバーとともにライブを行ってきた藤原だが、須田や猪爪といった2010年代の東京インディシーンを盛り上げてきた音楽家たちとの融合は非常に新鮮。特に、インディペンデントな独自の姿勢を貫いてきたミツメとの接近は興味深く、須田はバンマスを務め、ツアーにはベースのnakayaanも一部参加し、ファイナルでは共演を果たすなど、ここから何かが生まれそうな気配がある。

 2月12日には配信シングルを2曲同時リリース。ツアーメンバーが参加した「Ami」と、昨年の夏フェスでサポートを務めたYasei Collectiveらが参加した「Twilight」という異なる編成による楽曲で、新たなアーティスト像がより明確に示されるはずだ。

 こちらもかねてより椎名林檎をフェイバリットに挙げるDAOKOは、2月3日からスタートしたツアー『二〇二〇 御伽の三都市 tour』を、永井聖一(ギター/相対性理論)、鈴木正人(ベース/LITTLE CREATURES)、大井一彌(ドラム/DATS、yahyel)、網守将平(キーボード)というメンバーとともに回っている。DAOKOのボーカルに大きな影響を与えた相対性理論の永井、ベテランの鈴木、ふたつのバンドで生演奏とデジタルの融合を体現する大井、そして、一昨年に発表されたソロ作『パタミュージック』で現代音楽を通過した異才ぶりを発揮していた網守という意外性のある顔触れは、「東京事変的」だと言うことができる。

 1月に発表された小袋成彬プロデュースの新曲「御伽の街」では、クラブミュージック寄りの作風に回帰しつつも、メジャーでの経験を経た、あくまで現在のDAOKOならではの表現を見せていて、新たなバンドメンバーとのさらなる化学反応に期待したい。

DAOKO「御伽の街」

 yahyelは元旦にリリースされた香取慎吾のアルバム『20200101』への参加でも話題を呼んだが、2010年代後半にオルタナティブな活動で道を切り開いたミツメやyahyelのメンバーが、メジャーで活動するアーティストを支える構図は時代の変化を感じさせる。そんな中、もう一人、新たな物語のを綴り始めたのが、1月22日にメジャーデビューアルバム『oar』を発表した角銅真実だ。彼女にとって初めて「うた」にフォーカスした作品で、フィッシュマンズ「いかれたBaby」のカバーなどでも話題だが、これまで活動をともにしてきた音楽家が多数参加しているのも大きな特徴である。

角銅真実『oar』

 12月に行われたアルバムのプレリリースライブには、ともにceroのサポートメンバーであるドラマーの光永渉、東京藝大器楽科打楽器専攻の先輩後輩という関係で、ソロプロジェクト「SONGBOOK PROJECT」で共演しているドラマーの石若駿、同じく「SONGBOOK PROJECT」のメンバーで、近年は中村佳穂バンドのメンバーとしても知られるギターの西田修大らが参加。先日公開されたショートムービーにはこのときの映像が使われている。

 また、DAOKOのサポートを務める網守も『oar』にストリングスのアレンジで参加していて、角銅は網守のライブメンバーでもある。やはり「アーティストとバックバンド」ではなく、個々にクリエイティブを発揮するアーティスト同士が、垣根を超えてお互いの活動をサポートし合い、ダイナミズムを生んでいるのが「今」なのだ。そんな時代感を先取りしていたKIRINJIが、先日バンド形態の「発展的解消」を発表したのも記憶に新しいが、その一方で、東京事変が「再生」を果たした2020年は、まだまだ予想もしなかったような出来事が起こるに違いない。

■金子厚武
1979年生まれ。埼玉県熊谷市出身。インディーズのバンド活動、音楽出版社への勤務を経て、現在はフリーランスのライター。音楽を中心に、インタヴューやライティングを手がける。主な執筆媒体は『CINRA』『ナタリー』『Real Sound』『MUSICA』『ミュージック・マガジン』『bounce』など。『ポストロック・ディスク・ガイド』(シンコーミュージック)監修。

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