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欅坂46、作品性とリンクした衣装の数々ーー制服から脱却していく“変遷”と一貫した”不自由さ”

リアルサウンド

19/12/11(水) 7:00

 年末に差し掛かり連日放送される音楽特番により、各アーティストのパフォーマンスを見る機会がおのずと増えてきた。それに連れて出演者たちの着ている衣装にも注目が集まっているようだ。AKB48の歴代の衣装を写真付きで紹介している『AKB48 衣装図鑑 放課後のクローゼット~あの頃、彼女がいたら~』(宝島社)の冒頭において、プロデューサーの秋元康はアイドルの衣装について以下のように語っている。

(関連:欅坂46「サイレントマジョリティー」MV

「アイドルにとって、”衣装”は、これから始まる何かを期待させなければいけない。言わば、楽曲のイントロのようなものだ」

 視聴者にとってみれば、衣装は、まず最初に目に入る情報であり、これから繰り広げられるパフォーマンスをなんとなくでも想像できるものだと言えるだろう。AKB48の衣装で面白いのは、一見すると全員同じものを着ているようだが、細かく注意して見てみると一人ひとり別々のものを着ている点である。同書を見ると、どの曲も大枠のコンセプトは統一されていつつも一部のデザインやアクセサリーなどに違いが見られ、たとえば「ギンガムチェック」(2012年発売、総選挙1位の大島優子センター曲)の衣装はブルーのチェック柄が全体の共通するモチーフとなっているが、チェック柄ひとつとっても1位から16位まで全員微妙に異なる組み合わせであることに驚く。

 同書に「学校で決められた制服を、校則ギリギリの範囲で、自分らしく着崩す女子中学生、女子高生をイメージにしたかった」とあるように、”個性の発露としての衣装”という考え方がAKB48グループにはあるようだ。そもそも制服というもの自体が集団の均一化・平均化を目的とするものであり、規律や統率といった意図がその奥には隠れている。「”制服”と”衣装”という、一見、相反するコンセプトを具現化」したと言うように、みんな一緒のようでみんな違う、そうしたテーマをAKB48の衣装からは感じ取れる。

 その意味で、坂道グループは”制服的”。坂道グループの衣装は年少組と年長組で分かれているのみで、基本的には統一されたデザインである(スカートの丈の長さが微妙に異なったりセンターだけ違ったりなどの細かい仕掛けはある)。それは、彼女たちに個性がないと言ってるのではない。いや、むしろ、個性というテーマを突き詰めた結果、衣装は統一させることで、グループに埋没するアイデンティティに迷う少女の心の揺らぎであったり、自分の居場所を模索しながら生きる若者の葛藤といった”内面性”がコンセプトになっているとも言える。実際、「サヨナラの意味」や「シンクロニシティ」など乃木坂46の代表曲に登場する主人公はどこか孤独を感じていたり、欅坂46の「二人セゾン」や「不協和音」では社会や集団に距離を感じている主人公が登場する。坂道グループの作品はそうした、自分を探しながら生きる主人公の繊細な心もようが描かれることが多い。曲の世界観をより強調するために”制服的”な衣装があるのだろう。

 加えて欅坂46の衣装は、時期によって変遷していく部分と、常に持っている特徴とがある。1stシングル『サイレントマジョリティー』から4thシングル『不協和音』までのデビュー初期の作品はいわゆる制服をモチーフとした衣装で、担当する尾内貴美香氏によれば「本物の制服感を出すために、過度な装飾はつけず、いかにシンプルに仕上げられるかがポイント」(『Quick Japanvol.135』衣装解説「サイレントマジョリティー」頁より)だったという。2ndシングル『世界には愛しかない』の白い衣装もセーラー服がモチーフで、「不協和音」は『攻殻機動隊』をもとに「非現実感のある制服」にしたのだとか。それが5枚目以降になると急にバリエーションを増していく。5thシングル『風に吹かれても』はスタイリッシュな黒スーツ、6thシングル『ガラスを割れ!』は力強いMA-1、7thシングル『アンビバレント』はゆるっとした白い服……と、まるで学生だった少女が社会へ飛び出していったかのように移り変わっていった。

 一方で、一貫して共通している特徴は、彼女たちを”縛り付ける”ものの存在だ。たとえば「エキセントリック」(『不協和音』収録)の制服には”黒いリボン”が付いているが、MVでは彼女たちがそのリボンを投げ捨てた後に豪雨の中で自由に踊っている。つまり、リボンが彼女たちを”縛り付ける”ものの象徴として用いられているのだ。ヘアゴムや靴も同様の意味合いを持っていて、実際のパフォーマンスでも中盤に靴を放り投げる振りが存在する。2017年の夏フェスで初披露された緑の衣装には頑丈そうな”黒のハーネスベルト”、2018年の夏フェスの真っ赤な衣装には分厚い”黒ベルト”……といったように、真夏のステージに登場する彼女たちから感じ取れるのは、爽やかさといったよりはむしろ”不自由さ”。「避雷針」(『風に吹かれても』収録)の顔面を覆い隠す大きなフードも”個性”の考え方からしたら真逆だが、そうしたアイテムを投げ捨てたり剥いだりすることで、あるいはベルトできつく縛られながらも必死に踊るその姿こそが、見る者を刺激するのである。

 そして、彼女たちの衣装で度々キーワードとなるのが”重厚感”だ。2017年の年末に『NHK紅白歌合戦』(NHK総合)に初出場した際の覇王感のある衣装について、尾内氏は「どこからどう見ても欅坂の衣装でもあり、特別な重厚感もあるもの」、同年の『FNS歌謡祭』での欅の葉の刺繍が施された衣装には「重厚感はありながらきらびやか」というコメントを残している(同上)。そもそもの「サイレントマジョリティー」も「重厚なイメージも面白いかもしれない」という発想からスタートしているという。

 このように欅坂46の衣装は、初期の”制服”から徐々に形を変えて多様化していった流れと、常に何かに”縛られている”ようなモチーフや”重厚感”といった特徴が並行して存在する。特に後者に関しては、どことなく”外部からの力”を感じるような、彼女たちを苦しめるものが視覚的に表現されているようで、作品性とよくリンクしているだろう。なんとなく重苦しさがあり、もちろん露出も少ない。けれども、そうした”縛り付ける”何かを纏いながら、時にそれを振り払い、時にそれを跳ね返すパワーに変えて、力強く踊る彼女たちの姿が魅力になっている。(荻原梓)

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