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立川直樹のエンタテインメント探偵

数奇な歴史が興味深かった国立西洋美術館『松方コレクション展』。ある種のパワーが凝縮されていた『篠山紀信展 写真力』、長濱治『Capsule・時空回帰』

隔週水曜

第34回

19/10/2(水)

『篠山紀信展 写真力 THE PEOPLE by KISHIN The Last Show』ジョン・レノン オノ・ヨーコ 1980年

それにしても凄まじい量の展示作品だった。単に作品数だけだったらもっと数の多いものはあったが、神戸の川崎造船所(現・川崎重工業株式会社)を率いて、第一次世界大戦による船舶需要を背景に事業を拡大しつつ、1916年から1927年頃のロンドンやパリで美術品を買い集めた松方幸次郎(1866‐1950)の流転の運命をたどったコレクションを、その数奇な歴史と一緒に観ることができる『松方コレクション展』は、絶対に会場に行かなければ、その凄味がわからない展覧会だった。

10年ほどで松方幸次郎が収集した西洋美術は、モネ、ゴーガン、ゴッホの絵画、ロダンの彫刻から中世の板絵やタペストリーまで、浮世絵約8千点も加えれば1万点に及ぶ。欧米でも話題になるほどの急速な収集は、日本の人々のために美術館を作りたいとの思いに突き動かされてのことだったというが、その収集を巡る物語や人間関係は、いい脚本家と監督が組んだらとんでもなくおもしろい映画ができると断言できる。(もっとも相当な製作費が必要にはなるが……)

火災や接収などでなくなってしまった作品。手紙や写真などの資料は本当に興味深く、時の経つのを忘れてしまったが、戦後、フランスから日本への寄贈返還された375点とともに、1959年に上野に国立西洋美術館が誕生した時、安住の地を見出したといわれる松方コレクションにつきまとっている“謎”が、ゴッホの《アルルの寝室》やモネの《睡蓮、柳の反映》などの人気作品よりもこの展覧会の見どころと言えるのではないだろうか。

クロード・モネ《睡蓮》1916年 油彩、カンヴァス 国立西洋美術館 松方コレクション

国立西洋美術館
所在地:〒110-0007 東京都台東区上野公園7-7
休館日:月曜日(祝日の場合は翌日)、年末年始
開館時間:9:30~17:30(金・土曜日9:30~20:00)
※入館は閉館の30分前まで。
※その他、時間延長期間あり。詳細は公式HPへ。
※クロード・モネ《睡蓮》 は、現在常設展(新館)でご覧いただけます。ただし、10月3日まで新館は閉室しています。

だから、期待して出かけたもののBunkamuraザ・ミュージアムで開催されていた『みんなのミュシャ ミュシャからマンガへ―線の魔術』は密度が薄く感じられた。ミュシャの没後80年という節目の年の開催で、ミュシャの着想の源であった工芸品や蔵書も作品と一緒に展示されていたり、ミュシャから影響を受けた後世の国内外のグラフィック・アーティストのポスター作品(60年代半ば過ぎのサイケデリック時代のピンク・フロイドやジミ・ヘンドリックスのコンサート・ポスターなどは中々見もの)がずらりと並んでいたりするところまではよかったのだが、日本の少女漫画系の作品展示は、僕には別物のように思え、ミュシャの世界観とは似て非なるものと思えてしまったのである。

そう、展示会には大小に関係なく、ある種のパワーがそこに凝縮されているべきだと僕は思う。9月5日に幕が開き、10月27日まで東京ドームシティのGallery AaMoで開催されている『篠山紀信展 写真力』の観る者を圧倒するパワー。全国32ヶ所で開催され、今回がファイナルとなる『篠山紀信展 写真力』は総入場者数100万人を突破するという前代未聞の写真展でプリントの大きさや展示の仕方まで含めて型破りものだが、50年間に撮ったものをセレクトした写真には間違いなく時代が映し出されている。

『篠山紀信展 写真力 THE PEOPLE by KISHIN The Last Show』
広瀬すず 2017年

あと、期間こそ短かったが(8月30日~9月8日)白金台の東京妙案ギャラリーで開催されていた長濱治の写真展『Capsule・時空回帰』も写真と50年闘い続けている長濱治ならではの熱がプリントに封じ込められていた魅力的なものだった。アクリルケースの中に抽出された長濱治の時間と空間。世界で唯一の芸術となった貴重な銀塩プリントの風合には思わず溜息が出た。

『Capsule・時空回帰』(C)NAGAHAMA Osamu + ONIMARU Toshihiro

そして、溜息が出たと言えば、9月9日にブルーノート東京でみたカミラ・メサ&ザ・ネクター・オーケストラのステージでカミラがソロで歌った『ク・ク・ル・ク・ク・パロマ』の素晴しさは忘れ難いものだった。カミラ・メサはジャズ滋養とシンガー・ソングライター的持ち味がボーダーレスに交錯するチリ出身のヴォーカリスト兼ギタリストだが、ピアノとベース、ドラムス、弦楽四重奏というユニークな編成のザ・ネクター・オーケストラを従えたステージは予想以上に魅惑的なものだった。ブルーノートはこの手のアーティストを聴く、見つけるのには最良の場所である。

カミラ・メサ(撮影 : 佐藤 拓央)

作品紹介

『国立西洋美術館開館60周年記念 松方コレクション展』

会期:2019年6月11日~9月23日
会場:国立西洋美術館

『みんなのミュシャ ミュシャからマンガへ―線の魔術』

会期:2019年7月13日~9月29日
会場:Bunkamuraザ・ミュージアム

『篠山紀信展 写真力 THE PEOPLE by KISHIN The Last Show』

会期:2019年9月5日~10月27日
会場:Gallery AaMo(ギャラリー アーモ)

『長濱治 写真展「Capsule・時空回帰」』

会期:2019年8月30日〜9月8日
会場:東京妙案ギャラリー

『カミラ・メサ&ザ・ネクター・オーケストラ』

日程:2019年9月9日、10日
会場:ブルーノート東京

プロフィール

立川直樹(たちかわ・なおき)

1949年、東京都生まれ。プロデューサー、ディレクター。フランスの作家ボリス・ヴィアンに憧れた青年時代を経て、60年代後半からメディアの交流をテーマに音楽、映画、アート、ステージなど幅広いジャンルを手がける。近著に石坂敬一との共著『すべてはスリーコードから始まった』(サンクチュアリ出版刊)、『ザ・ライナーノーツ』(HMV record shop刊)。

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