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DAOKOの“未知のダンスホール”へと誘われた不思議な体験 『enlightening trip 2019』東京公演

リアルサウンド

19/9/27(金) 12:00

 9月13日、DAOKOのライブツアー『enlightening trip 2019』の東京公演が開催された。前ツアーから約1年7カ月ぶりのワンマンライブで、今回のバンドメンバーでのライブは初。既存の楽曲にバンドアレンジを施し、音源とは一味違った演奏が見どころのひとつとなっていた。

(関連:DAOKO、ポップアイコンとしての魅力と武器 神山羊と共作「はじめましての気持ちを」から考察

 ギターを担当するのは、吉田ヨウヘイgroupや最近では中村佳穂BANDのメンバーとして名を馳せているギタリストの西田修大。ドラムはDATSやyahyelといった新進気鋭のバンドで頭角を表している大井一彌。キーボードは網守将平。ベースはLITTLE CREATURESの鈴木正人。若い才能とシーンのキーマンが集った鉄壁の布陣である。

 また、会場選びも面白い。鶯谷は東京の下町の昔懐かしい香りの残っている地域で、会場に行き着くまでもその雰囲気に浸れる。そんな中で、ライブ会場としては馴染み深い東京キネマ倶楽部ではなく、その同じビルの2F~3Fにあるダンスホール新世紀が今回の公演会場だ。映画『Shall we ダンス?』の舞台モデルとなった雰囲気ある施設で、ホール状の会場の隅には2階(ビルとしては3F)へ繋がる螺旋階段があったり、バーカウンターが近くに設置されていたりと、まさに映画の世界に“トリップ”したかのような感覚を味わえる。

 開演すると真っ暗に消灯し、宇宙へワープしたかのような効果音が流される。1曲目は「NICE TRIP」から幕開け。ディレイやリバーブがふんだんに用いられた音響により会場は一瞬で異空間に。そして曲の途中でDAOKOは、こうつぶやいた。

「だれでもいい このなかに 同じ気持ちの人はいませんか」

 一瞬の静寂があり、何事もなかったかのように曲が再開。曲を終えると「みなさんで一緒に楽しみましょうね」と話す。この時点で、すでに我々は“DAOKOワールド”へと誘われていた。

 間髪入れずに次の曲「さみしいかみさま」「ぼく」へ。バンド演奏のためか、サウンドにはグルーヴがあり、体が自然と揺らされる。「涙は雨粒」「BOY」「高い壁には幾千のドア」ではDAOKOの軽快なラップを含んだボーカルと迫力ある演奏が融合していく。

 特筆すべきは、7曲目「7日間創造」以降の展開だ。激しい演奏で会場を盛り上げていき、テンションが頂点へ達したところで、急激に会場の温度を下げるように曲を終えると、笙のような音色による神秘的なアンビエントサウンドを展開。鳥のさえずりも聞こえてきた。他にもさまざまな楽器を用いて観客を幽玄世界へ誘っていく。実験的、かつ、幻想的。それはまさに“トリップ”そのもの。寂しげなギターのアルペジオが鳴り始めると、やがて「蝶々になって」を歌い始めた。

 その後のMCでは、「最初の曲で明るくなってみなさんの顔が見えた時、ちょっと泣きそうでした」と告白。それに対し観客も大歓声で応える。続けて、「なかなかお会い出来る場所がライブくらいしかないので。みなさんと一緒に楽しむということを今回のツアーでは大切にしたいと思っていたので」とDAOKOは話す。

 その後、「それでは少し懐かしい曲をやりたいと思います」と言って「UTUTU」「真夏のサイダー」を披露した。まだ彼女がデビューする前の2013年の楽曲である。これには古くからのファンも驚いたことだろう。曲のアウトロでギターのコードが徐々に変化していき、「水星」のイントロへとシームレスに移り変わると会場からは歓声が。

 ミラーボールが点灯し、会場はダンスホールと化した。これこそ、DAOKOの「一緒に楽しみたい」という思いが具現化されたような空間なのだろう。会場全体が揺れているのを感じた。本編ラストの「Fog」では、DAOKOが最後の力を振り絞るようにして歌い叫び、それをバンドメンバーたちが激しい演奏でサポート。ギターの轟音、ドラムの連打に会場は包まれ、閉幕した。

 アンコールでは、ドット柄の鮮やかなターコイズブルーの衣装に着替えて登場し、「流星都市」「Cinderella step」を披露した。バンドの生のグルーヴに、時に身を委ね、時に激しく呼応し合いながら、DAOKOの必死にもがく、いや、助けを求めるような姿が印象的であった。

 ライブが終わり会場の明かりがつくと、なぜだか夢から醒めたような感覚に陥った。都会の喧騒から少し離れて、未知の空間へと誘われた不思議な体験、まさに“私的旅行”な一夜であった。(荻原 梓)

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