Zoom飲みがさらに楽しくなる? パリッコ×スズキナオが提唱する、新しい家飲みアイデア
20/9/14(月) 10:00
若手飲酒シーンのトップランナーであるパリッコと、大阪在住で近刊が5刷りとなったスズキナオ。共に売れっ子のライターであるふたりが、酒の可能性を追求するユニットが「酒の穴」だ。プロフィールによれば、日常的な生活の中にぽっかりと現れる、「今ここで乾杯できたらどんなに幸せだろう」と思うような場を探求するユニットだそう。そのふたりが編著したのが『のみタイム 家飲みを楽しむ100のアイデア』である。
大阪在住で、関西のディープスボットをディグしまくるスズキナオと、実験的なつまみのレシピも開発するパリッコ。本書を作ろうとしていた1年前は、好きな酒場を取り上げようと息巻いていたふたりだが、その矢先にコロナウイルスが蔓延。結果、今しか作れない本にしようと方向転換しようと思ったという。
そこで肝要なのは、「外で飲めないから仕方なく家で飲む」というネガティヴな姿勢をとらないこと。家飲みという行為そのものが尊く、その尊さを極限まで追求しようとしたのがこの本だ。コロナ以降の宅飲みを楽しむための100のアイデアを提示し、著者が実際に試してみる。その中から、自分もいくつかをピックアップしてレビューしてみた。アイデアは長いもので4ページ、短いものだと300文字程度。大雑把ではあるが筆者がジャンル別に並べておいた。なお、数字は著書のアイデアに見出し的に付けられたもの。便宜的なものだろうから、著者も、この書評も、1から100までのうちどの番号から読み始めても問題はないと思う。
組み合わせ/珍レシピ系
・015 アイディアレシピを開発してみる
『アボカドの種をくりぬいた穴に海苔の佃煮を入れて食べるとうまい』というアイデアが以前流行ったが、今回はその応用編。穴に入れると旨いのは、バニラアイス、タバスコマヨネーズ、トムヤムペーストなど。そうやって試行錯誤しながらオリジナルなおつまみを考えるのは楽しい。自分だけのヒット作を発見した時は狂喜乱舞必至だろう。
・051 谷口菜津子さんの考えた『お恥(ち)まみ』を味わいながら飲む
怠惰な人にもできる!というのがこれ。『レトルト以上、ごちそう未満! スキマ飯』という著書もある漫画家の谷口菜津子が提唱する簡単すぎるレシピ。ごま油に塩を振って舐めるだけ、卵黄にチーズを絡めるだけ、コーンスープの粉を舐めるだけ。ミニマムだ……。漫画『花のズボラ飯』にも劣らぬズボラっぷりレシピだが、一応定義はある。〇〇に××を加えるという2工程まではいいのだが、そこに更に3品目を+するとアウト。そう、3工程は「お恥(ち)まみ」精神には反するのだ。
・079 コンビニかけ合わせグルメで飲む
あまみとしょっぱみを臆せず掛け合わせるメソッド。「これとこれが合うなんて!」という愉悦に浸ることもできるし、失敗しても単純に暇つぶしの娯楽になる。結果に拘泥するのは野暮というものだ。ちなみに、掛け合わせには、とにかくポテトサラダが有能だそう。黒豆を混ぜあわせるのが定番だが、佃煮のごま昆布のもいいという。ミニクロワッサンの端をちぎってアイスのピノを詰めて食べるのが生涯ベスト、という人もいるそう。
気の持ちよう/~のつもり型
・022 同じつまみを用意して同時に食べながら飲んでみる
Zoomを使って飲み会をやるのはそれなりに楽しい。ただ残念なのが、酒場でそうするように、同じ食べ物をシェアできないところ。これは寂しい。そこで、同時に同じ料理を食べながら、味の感想を共有してはどうだろう? 事前に食べるものを決めておき、同じつまみを食べることで、料理をシェアしている感覚が蘇ってくるかもしれない。
・06 家だがピクニックする
キャッチーだが実際のプロセスを見ると案外淡々としていて飽きそう。「018 ココナッツの香りの力を借りて、海辺にいると思いながら飲む」は相当なイマジネーションが必要。「ガーネッシュ エアフレッシュナー」というココナッツの香りのスプレーを部屋で吹いてみると、気分は南国……というのは試し甲斐がありそうだが。「28 キッチンで立って飲む」はすぐにできる。料理や洗い物をするでもなく、キッチンを立ち飲み屋に見立てるというものでアイデアは秀逸。
~しながら飲む
「053 VRの焚火を見ながら飲む」「095 赤ちゃんをあやしながら飲む」「094 松ぼっくりを眺めながら飲んでみる」「076 日記を書きながら飲む」――100本ノックはさすがに無理難題だったのが、こういうニッチなテーマのものも結構あるのだが、発想としてはユニークなので、決して飛ばさずに読んで欲しい。
最終形態
・032 自分だけのひとりオンライン飲み会をしてみる
Zoomには自分の顔もPCに映るが、あれが苦手で会議や会話ができない人もいるようだ。そこで、自然な表情を作り、乾杯の仕方をひとりで存分に練習して、ZOOM対話に備えるのがこのアイデア。
・086 水を酒だと思って飲む
そもそも水ってちゃんと味わうと少し甘い気がする、という著者の思い込みが駆動力となっている。おつまみのナッツの小皿とともに手元に並べ、飲む温度は常温がいいらしいそう。
・099 今日はあえて飲まないでみる
のんべえにとっては究極的にストイックなアイデア。酒を飲むのが習慣のようになっている場合、休肝日を設けることで、翌日美味しく飲めるようのが嬉しい。当たり前のことだが、メリハリは大事。
・100 酒の裏技
SNSでアンケートを取った、それぞれの酒の飲み方。よくこんなこと思いつくなあ、というほど多種多様で膨大な飲み方に圧倒される。人間の発明力をなめてはいかない。
これまで挙げたアイデアはどれも独自で自由だが、何も著書に掲載されたものをそのまま真似しなくてもいい。管見だが、自分なりの飲酒の楽しみ方を見付けて欲しいという、著者からのメッセージや裏テーマが込められた本だと思うからだ。制約のある中でいかに楽しめるかというゲームの類い。あるいは大喜利をやっている気分にもなる。コロナに関しては長期間現況が続く可能性が強いが、この状況を逆手にとって思い切り楽しむことを考えている。そんなふたりのスピリットが伝わってくる良書である。
■土佐有明
ライター。『ミュージック・マガジン』、『レコード・コレクターズ』、『CDジャーナル』、『テレビブロス』、『東京新聞』、『CINRA.NET』、『MARQUEE』、『ラティーナ』などに、音楽評、演劇評、書評を執筆中。大森靖子が好き。ツイッターアカウントは@ariaketosa
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