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後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)の INU COMMUNICATION

大五郎でいこう

毎月連載

第21回

マルチーズは柴犬に次いで苦手な犬だ。

藪から棒に苦手になったわけではない。もちろん理由がある。かつてマルチーズの群れに襲われたことがあるからだ。

中学校の通学路の途中に、マルチーズを多頭飼育する家があった。その犬たちが時折、脱走なのか解放なのかは定かではないが、歩道に放し飼いのような状態になることがあった。マルチーズたちは歩道の片側に広がり、通行人に飛びつくのだ。ギャン吠えしながらアキレス腱のあたりを狙う犬もあったように記憶している。

不幸なことに、マルチーズの巣は用水路にかかる橋の袂にあった。タイミングが悪ければ、橋を渡ろうとするだけで襲われる。それならばと別の橋を目指したいところだが、迂回すると学校に間に合わないほど遠回りになってしまう。水路沿いの道に出て別の橋に向かおうとしても、巣に面した角を通る以外に道筋がなかった。ゆえに、マルチーズが歩道に離れ出た瞬間から、そこは恐怖の関所と化すのだった。

マルチーズは一見すると白くて可愛い。それは愛されるための一才の外見的な魅力を兼ね備えているようでもあり、俺が育った昭和の時代にあっては、人気の犬種として一世を風靡したような存在だったと思う。実際に愛らしいマルチーズと接する機会もあった。

しかし、あんなに可愛い見た目の犬が、場合によっては群れて凶暴化する。白くふかふかとした小さな体躯の奥底には、丸出しの野生が潜んでいる。

恐ろしいことだと思った。

さて、今回の飼い主は友人のギタリスト、柳下君だ。ヤギという愛称で親しまれている。「犬の性格は飼い主に似る」という言葉を耳にしたことがある。それが事実だとするならば、柔和で人当たりが良く、誰からも愛される性格の彼が飼う犬について、悩む必要はないだろう。

少し心配なのはヤギが「ものスゴい阿呆」として彼の所属するバンド内で扱われていることで、彼なくしては音楽的に成立しないくらい重要な役割を担っているにも関わらず、彼らと親睦を深めた最初の飲み会では、ヤギの阿呆エピソードが嬉々としてメンバーたちから語られたのだった。馬と鹿の鍋料理が食べられる飲食店で、鹿肉が臍から飛び出すくらい笑ったのを覚えている。

編集スタッフからのメールを読み返す。犬の名前の欄には「大五郎」と書かれていた。
心配のレベルが少し上がった。

待ち合わせのカフェに着くと、ヤギと大五郎は先に到着しており、スタッフたちと談笑していた。

いつも通り、大五郎には話しかけず、ヤギと近況について語り合った。
犬に舐められないために、まずは飼い主と話すという作法が身に付いたのは、この連載の成果だと思う。「舐められたくない」みたいなマウント仕草を人間相手に使ったり、無闇に論戦を仕掛けて論破したりするのは良くないが、犬たちに関わる場合はきっちりマウントしてあげる必要があるのだ。そうすることで、犬たちも一定の秩序を雰囲気から読み取って、人間社会の一員になる。無理矢理に人間よりも下位だと認識させることが目的ではなく、野生を剥き出しにできない社会において、お互いに上手にやっていくための作法のようなものだと現在は理解している。

話がひと段落した後で、ヤギが持ち合わせていた餌をもらった。これも手っ取り早く犬たちと打ち解けるための方法のひとつだ。大五郎は嬉しそうにジャーキー風の鶏肉を食べた。そして、不慣れな俺の「待て」や「お手」にも反応してくれた。これなら噛まれることはないだろう。

しかし、大五郎という名前の由来は何なのだろうか。大五郎と言えば、巨大なペットボトルで売られている甲類の焼酎が脳裏に浮かぶ。縁側で行われる宴会で、おじさんたちが焼酎を酌み交わすコマーシャルが懐かしい。「昔の友は今の友、俺とお前と大五郎」。秀逸な文言と完璧なメロディだと感じる。大五郎を飲むおじさんたちがとても楽しそうで、昭和の子供たちの誰しもが「大人になったら大五郎を友達と飲んでみたい」と一度は思ったことだと思う。なにしろ、画面に映る大人たちの誰しもが満遍の笑みなのだ。笑みというか、ほとんど爆笑している。絶対に美味しい飲み物に決まっていた。

大学生になってから、実際に大五郎を飲む機会に恵まれた。これをオンザロックで飲みながら談笑できるおじさんたちは、人生の何らかを極めていると思わざるを得ないと感じる、酒の最果てのような味で大変に驚いた。当時の俺は、まだまだ修行が足りなかったのだろう。
率直に、ヤギに命名の理由を尋ねてみた。

「タルトと大五郎で迷って、大五郎にしたんだよね」とヤギ。マルチーズは愛らしい姿をしている。しかし、お前には男らしい犬になってほしい。そういう理由から、大五郎を選択したとのことだった。そして、「両方食べ物なんだよね」と優しい顔で笑った。大五郎は飲み物だろう。

大五郎に目をやる。
マルチーズという犬種にとっては、タルトのほうが馴染みがいいのではないかと思う。しかし、大五郎からは名前がタルトである感じ、言い換えるとタルト感があまり感じられない。しかし仮にタルトという名前が選ばれていたら、何もかもが変わったんだろうなと思った。今よりも確実にタルト感が高かっただろう。

名前をつける行為というのは不思議だ。
俺がはじめて飼った犬の名前はリリーだった。どういう理由でリリーにしたのかはまったく覚えていない。しかし、リリーはどうしようもなくリリーで、俺にとってリリーという犬はお前だけだというような強いイメージとして、今でもしっかりと捕まえたままでいる。名前が、その存在を何度も記憶に呼び戻してくれる。

大五郎もまた、特に意味もなく大五郎になったのだろうとヤギの口ぶりから感じたが、今ではとても大きな意味を持って、大五郎は大五郎としてヤギの傍らにいる。

理由もなく、漠然と、素敵なことだと思った。

残念なことだが、ヤギや俺がこの世を去る前に、大五郎があの世に旅立つことになる。ヤギとその家族の生活のみならず、この世界に、大五郎の分だけぽっかりと穴が開く。大五郎を知る人たちは、大五郎という名前を足がかりに、その存在をいつまでも抱えて生きて行く。
別れの日には大五郎の巨大なペットボトルと大量の氷を持参しようと思う。次の日はまともに起きられないかもしれない。

リリーが死んでしまった日のことを思い出す。そんな日がまた来ることを想像すると、悲しくて簡単に犬は飼えないなと思う。

犬と仲良くなるための道は険しい。

大五郎

・年齢:9歳
・犬種:マルチーズ
・性別:オス
・飼い主:柳下“DAYO”武史(SPECIAL OTHERS)

昭和を代表する小型犬御三家と言えば、マルチーズ、ヨークシャテリア、ポメラニアン、座敷犬という響きが今では懐かしいです。

そして当時、例に漏れず我が家にもデカくて我儘なマルチーズ、その名もデッテちゃんが居ました(笑)。
シルキータッチのふわふわな被毛とクリックリの瞳がとても魅力的で外見は可愛いぬいぐるみでしたが、中身はボッシーで縄張り意識の強い893、気に食わなければ吠えまくり、スタンダードは2~3kgなようですが我が家のデッテは10kg近くあったのでとにかく喧嘩が強かったという記憶しかありません。

そんなマルチーズが群れとなって襲い掛かってくるとは…(涙)。

甲高い大きな声で良く吠え、我が強い、当時ホントに人気があった犬ですが、その後ひっそりと影を潜めてしまった理由はやはりそこにあるようです、その愛らしい見た目と相反して実に気が強く時に攻撃的になりやすい、ザ・こんなはずじゃなかった犬種なのです、汗。

真っ白い犬なだけに、その白さをキープするためのお手入れはそんな気性を持つ犬にとってはちょっとした災難。
頻繁なシャンプーや涙焼けの除去等、そんな性格が故お手入れも容易にはさせてくれません。

一応マルチーズの名誉の為に書きますが、リーダーシップを取れる飼い主さんと出会えば機敏で賢く愛情深い最高のパートナーとなる事は間違いなしなのです!

神経質な飼い主さんよりはちょっと緩い飼い主さん位が相性良いのではと思います。
大五郎君、ヤギさんと良い関係を築いていらっしゃる!

犬との挨拶の仕方が体に染み込んで来たら、既に犬の世界では上級者です!
仕事柄、犬と飼い主さんの関係を何千何万と見てきておりますが、
これを実行されている方は残念ながら今でも本当に一握り。
犬と関わる仕事をされている方を含めてもです。

このたった一瞬の動作が世間一般に広まれば咬傷事故も間違いなく減ります。

犬達との暮らしは人にとってとても有益な事が確実に理解され、実際に社会的に認知度も上がり犬は家族というのが今では常識になってきました。
どうやら犬猫の可愛い写真を見るだけでもオキシトシンとかっていう愛情ホルモンが出るらしいじゃないですか!

お利口さんな犬を撫でたりして機嫌よくなるじゃないですか?
でもってその乗りで周りに優しく出来ちゃったりするじゃないですか?
その輪が広がるじゃないですか!
結果的に世界平和に繫がるじゃないですか!?(笑)。

TOMARCTUS(トマークス)
野村さんが経営するドッグ雑貨店。店舗は中目黒と那須の2店。
犬の訓練、問題行動の解決方法の相談にも乗ってくれます。

トマークス
http://www.tomarctus.net/index.html
那須blog
https://nasu2014.exblog.jp//

PHOTO:かくたみほ

プロフィール

柳下“DAYO”武史

SPECIAL OTHERSのギタリスト。1995年、高校の同級生でバンド結成。2006年メジャー・デビュー。2011年11月にリリースしたコラボ作品集『SPECIAL OTHERS』の収録曲「DANCE IN TSURUMI」に後藤正文がボーカリストとして参加している。2020年5月、SPECIAL OTHERSとしては5年ぶり7枚目となるオリジナルアルバム『WAVE』を発表。2021年6月7日にデビュー15周年イヤーを迎えた。同年、デビュー15周年を記念しデビュー曲をリテイクした第1弾デジタルシングル「THE IDOL」を6月に、第2弾デジタルシングル「Spark joy」を11月にリリースした。11月から12月にかけて15周年記念ツアー(QUTIMA Ver.30)を開催。

デジタルシングル「Spark joy」

後藤正文

ASIAN KUNG-FU GENERATIONのボーカル&ギターであり、ほとんどの楽曲の作詞・作曲を手がける。これまでにキューンミュージック(ソニー)から9枚のオリジナル・アルバムを発表。

2010年には自身主宰のレーベル「only in dreams」を発足。
また、エッセイや小説の執筆といった文筆業や、新しい時代やこれからの社会など私たちの未来を考える新聞『THE FUTURE TIMES』を編集長として発行し続け、2018年からは新進気鋭のミュージシャンが発表したアルバムに贈られる作品賞『APPLE VINEGAR -Music Award-』を立ち上げた。

2020年12月2日、約4年半ぶりとなるGotch名義のソロアルバム『Lives By The Sea』をデジタル先行リリース。3月にはCDとLPが、7月にはカセットテープがSPM STORE他、一部店舗にて発売開始となった。
著書に『何度でもオールライトと歌え』『YOROZU~妄想の民俗史~』『凍った脳みそ』他。

ASIAN KUNG-FU GENERATIONとしては『僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ワールド ヒーローズ ミッション』の主題歌になったシングル『エンパシー』をリリース。
昨年バンド結成25周年を迎え、11月に全国6都市をめぐるZeppツアーを開催。
今年3月には、パシフィコ横浜 国立大ホールにて 「25th Anniversary Tour 2021 Special Concert “More Than a Quarter-Century”」と題した結成25周年を締め括るスペシャルコンサートを開催する。

シングル情報

エンパシー【初回生産限定盤】
発売中
¥1,650(税込)
KSCL-3306 ~ KSCL-3307

エンパシー【通常盤】
発売中
¥1,100(税込)
KSCL-3308

アルバム情報

ALBUM
Gotch『Lives By The Sea』

デジタル配信
※配信一覧はこちら

LP:¥4,182+税 / CD:¥2,273+税 / Cassette Tape:¥2,182+税
発売中


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