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『ディア・ペイシェント』にみる医師と患者の信頼関係 過去のNHK医療ドラマから受け継ぐ要素も

リアルサウンド

20/8/21(金) 8:00

 病気に耐えるのが患者なら、患者に耐えるのは医者の役割なのだろうか? 『ディア・ペイシェント~絆のカルテ~』(NHK総合)は、NHKが脈々と培ってきた医療ドラマのDNAを受け継ぐ秀作だ。

 主人公の医師・真野千晶(貫地谷しほり)が働く佐々井記念病院は、首都圏にある民間の総合病院。内科医の千晶は、同僚の浜口陽子(内田有紀)や金田直樹(浅香航大)とともに医師として多忙な日々を送る。「患者第一主義」を掲げる佐々井記念病院で、事務長の高峰修治(升毅)は患者数5割増を目指して「患者様プライオリティー戦略」を打ち出す。ここには、患者を「患者様」と呼ぶホスピタリティーの徹底や、通称「院内裁判」の「患者様プライオリティー委員会」で、問題のある対応をした医師や職員を糾弾することも含まれる。

 大学病院から転籍した千晶の前に現れるのは、個性豊かな患者たち。認知症初期の浅沼知恵子(鷲尾真知子)や脳腫瘍を患う幼い美和(新津ちせ)、トランスジェンダーとして生きる元同僚の朝比奈香織/哲男(戸塚純貴)はそれぞれの事情と思いを胸に千晶と相対する。その中には、いわゆる「モンスター・ペイシェント」も含まれる。座間敦司(田中哲司)はささいなことから千晶を逆恨みし、執拗につきまとう。

 モンスター・ペイシェントは医師の8割以上が遭遇すると言われる。医療費抑制のための診療報酬改定など病院経営をめぐる状況は深刻だ。『ディア・ペイシェント』原作者の南杏子は現役の医師であり、こうした医療の課題を作品で正面から取り上げている。また、超高齢社会の日本で病気や介護は誰にとっても身近な問題だ。千晶の母、佑子(朝加真由美)は認知症を患っており、家族は施設に入所させることを決断。モンスター・ペイシェントの座間も、病気の母親を抱えて不眠症に悩んでいた。治療する側もされる側と同じように問題を抱えており、病気と向き合う様子が描かれる。

 新型コロナウイルス感染症の影響で、医療現場にかかる負担は激増し、経営難に陥る病院も続出。医師たちも危険と隣り合わせで奮闘している。そうした医師の一人である千晶に、高峰は「『ありがとう』を求めるから医者は潰れる」と言い放つ。その理由は「医者は褒められて育っているので、人一倍承認欲求が強い」から。しかし、医療をサービスとして捉える見方は病院間の競争によって拍車がかかっており、医師は病院経営と患者の板挟みになって疲弊しているのが実状だ。「感謝を求めるなんておこがましい。でも、医者は患者からの『ありがとう』の一言を拠りどころに前を向ける」という千晶の言葉は、多くの医療従事者にとって頷けるものだろう。

 座間の暴走は、物語が進むにつれてエスカレートする。ネット上で千晶を「ヘタレ医者」、「魔の千晶」と名指しで個人攻撃し、他の患者も巻き込んで院内裁判で糾弾。座間の主張は一見正論に見えるが、その実、被害者意識で歪んでいる。母の介護で追い詰められる座間の境遇は、映画『ジョーカー』(2019年)の主人公・アーサー(ホアキン・フェニックス)にも通じる。座間の要求に千晶はどのように対峙していくのか? 終盤の展開に注目だ。

 近年、NHKでは『心の傷を癒すということ』や『透明なゆりかご』など、医療現場を取材した良質なドラマが制作されてきた。『ディア・ペイシェント』もその系譜に連なる作品と言える。医師がヒーローとして活躍するのはドラマの定番だが、これらの作品は医療のアナザーサイドを描いており、観る側も気づきを得られる内容。医師と患者の信頼関係を扱った『ディア・ペイシェント』を観た後には、「患者目線」という言葉がこれまでとは違って聞こえるはずだ。

■石河コウヘイ
エンタメライター、「じっちゃんの名にかけて」。東京辺境で音楽やドラマについての文章を書いています。ブログTwitter

■放送情報
『ディア・ペイシェント ~絆のカルテ~』
NHK総合にて、毎週金曜22:00〜放送
BS 4Kにて、毎週水曜23:15〜放送(4K先行放送 )
<連続10回>
出演:貫地谷しほり、内田有紀、田中哲司、浅香航大、高梨臨、浜野謙太、永井大、鷲尾真知子、升毅、竜雷太、石黒賢、朝加真由美、平田満、伊武雅刀
原作:南杏子(『ディア・ペイシェント』) 
脚本:荒井修子
音楽:兼松衆
主題歌:宮本浩次「P.S. I love you」
制作統括:真鍋斎(NHKエンタープライズ)、高橋練(NHK)
演出:西谷真一、福井充広、武田祐輔
画像提供=NHK

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