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立川直樹のエンタテインメント探偵

人々の心に寄り添うSUGIZOのニューアルバム『愛と調和』は残っていくべき作品

隔週水曜

第66回

21/1/15(金)

SUGIZO

元旦の夜10時からNHK BS1で放映された『欲望の資本主義2021』は予想通り、深い示唆に富んだ番組だった。エマニュエル・トッド、ジャック・アタリ……といった世界の知性が考える世界の在り方と行方。110分の番組の中で誰かが言っていた「2020年は過去35年を1年につめたような年」という言葉は思わずメモしてしまったが、年が明けても混迷の度は政治からエンタテインメントに至るまで増すばかりだ。

そこで思うのは価値基準の完全な崩壊。水先案内でも紹介したブルーノート東京でのSUGIZOの即興演奏プロジェクト、SUGIZO’S SHAGのスリリングなジャム(12月7日)と世界規模の快進撃を続けるジャズ作曲家、挾間美帆が13人編成の自身のユニットで聴かせてくれた極上のアンサンブル(12月20日)のような純粋に音楽に向かいあっているものと、国民的行事と言われ、今年は視聴率が上がったとNHKが喜んでいる“紅白歌合戦”に象徴される音楽に視覚的要素や親しみやすさをいかに取り入れるかを腐心しているような俗のエンタテインメントとの間にある抗い難い差異。

SUGIZOは12月23日に世界的パンデミックにより疲弊した人々の心にそっと寄り添い、水のように染み渡っていくアンビエント・ミュージックをコンセプトにした楽曲を収録した3年ぶりの新作『愛と調和』をリリースしたが、晩秋にリリースされたメロディ・ガルドーの5年ぶりの新作『サンセット・イン・ザ・ブルー』とともに、音楽は絶対に“情報”や“商品”ではなく、“作品”として流通し、残っていくべきものだということを改めて思わせてくれた。

SUGIZO『愛と調和』Premium Edition

ジョニー・キャッシュのアルバム、“本物”を観ることができたワタリウム美術館『生きている東京展』など

CDではもう1枚、“アメリカ音楽のとてつもない深さを思い知らされるアーティストのひとり”と言われる大物ジョニー・キャッシュの代表作品12曲を、新たに編曲されたシンフォニック・パートとともに現代によみがえらせた(こういうテクノロジーの進歩と使い方は大歓迎だ)『ジョニー・キャッシュ&ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団』(11月25日リリース)が素晴しい。12月7日にユニバーサル・ミュージック・グループがデビューから最新曲まで活動60年に渡る600以上の全楽曲の所有権を買い取ったと発表し、一般新聞でも取り上げられ、話題になったボブ・ディランとのデュエット『北国の少女』の味わい深さは筆舌に尽くし難い。

ジョニー・キャッシュ(写真:CAMERA PRESS/アフロ)

そして、ステージで黒い衣裳に身を包むことが多かったことから“マン・イン・ブラック”の異名をとっていたジョニー・キャッシュのジャケットのノーマン・シーフの写真が富士フイルム・スクエアの写真歴史博物館で観た企画写真展『音楽を奏でる写真たち 木之下 晃「世界の音楽家」』へとつながっていった。

60年代から半世紀にわたり、音楽の世界を写真で表現し続け、“音楽写真”という未開拓のジャンルを切り拓き、第一人者として国内外で活躍した木之下は、カラヤン、マリア・カラス、ユーディ・メニューインなど世界の名だたる巨匠たちを撮影し、その作品は「音楽が聴こえる」と絶賛され、写真界と音楽界の両面から高い評価を得てきたが、作家本人の手によるオリジナル・プリントを中心に厳選して展示されたゼラチン・シルバー・プリントの圧倒的な美しさに僕は思わず息をのんだ。

あと写真展では東京都写真美術館で観た『日本初期写真史 関東編 幕末明治を撮る』(1月24日まで開催中)と、絶対に外れのない何必館・京都現代美術館で観た『ドアノー、生きる喜び ROBERT DOISNEAU展』が“本物”の凄さと魅力を心から感じることができるものだった。

ワタリウム美術館『生きている東京展』展示風景
ワタリウム美術館『生きている東京展』展示風景

その“本物”ということでは昨年の9月に開館30周年を迎えたワタリウム美術館で1月31日まで開催されている『生きている東京展』で、その超越したアーティスト性に改めて唸らされる寺山修司とナムジュン・パイクはまぎれなき“本物”。僕はそういうものを観る時、物を観たり聞いたりする喜びを感じるが、12月25日にロードショー公開されたテレンス・マリック監督の最新作『ソング・トゥ・ソング』もそこに加えておきたい。映画祭を席巻し、世界を魅了し続ける天才とマイケル・ファスベンター、ライアン・ゴズリング、ナタリー・ポートマン、ルーニー・マーラという豪華俳優陣が集結して出来上がった思いっきり“アート”な映画。エマニュエル・ルベツキの画期的な手法の撮影の凄味と美しさを考えると、これは絶対に映画館で観るしかないと断言できる。

(C)2017 Buckeye Pictures, LLC

データ

『BS1スペシャル 欲望の資本主義2021 格差拡大 社会の深部に亀裂が走る時』
放送日:2021年1月1日
NHK BS1

SUGIZO『愛と調和』Premium Edition
発売日:2020年12月23日
価格:11,000円(税込)
詳細はこちら

メロディ・ガルドー『サンセット・イン・ザ・ブルー』
発売日:2020年10月23日
価格:2,860円(税込)
ユニバーサル ミュージック合同会社
詳細はこちら

『ジョニー・キャッシュ&ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団』
発売日:2020年11月25日
価格:2,400円+税
ソニー・ミュージック
詳細はこちら

FUJIFILM SQUARE 写真歴史博物館 企画写真展『音楽を奏でる写真たち 木之下 晃「世界の音楽家」』
会期:2020年10月1日~12月28日
会場:FUJIFILM SQUARE(フジフイルム スクエア) 写真歴史博物館

『日本初期写真史 関東編 幕末明治を撮る』
会期:2020年12月1日~2021年1月24日
会場:東京都写真美術館

『ドアノー、生きる喜び ROBERT DOISNEAU展』
会期:2020年9月12日~11月29日
会場:何必館・京都現代美術館

『生きている東京展』
会期:2020年9月5日~2021年1月31日
会場:ワタリウム美術館

『ソング・トゥ・ソング』(2017年・米)
2020年12月25日公開
配給:AMGエンタテインメント
監督・脚本:テレンス・マリック
出演:ルーニー・マーラ/ライアン・ゴズリング/マイケル・ファスベンダー/ナタリー・ポートマン/ケイト・ブランシェット

プロフィール

立川直樹(たちかわ・なおき)

1949年、東京都生まれ。プロデューサー、ディレクター。フランスの作家ボリス・ヴィアンに憧れた青年時代を経て、60年代後半からメディアの交流をテーマに音楽、映画、アート、ステージなど幅広いジャンルを手がける。近著にSUGIZO、TAKUROとの対談集『CONVERSATION PIECE ロックン・ロールを巡る10の対話』(PARCO出版)、『I Stand Alone』(青幻舎)、『ラプソディ・イン・ジョン・W・レノン』(PARCO出版)。

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