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EMPiREが6人で果たした“リベンジ” MAYU EMPiREの歌声轟いた念願のZepp DiverCity公演レポ

リアルサウンド

20/1/18(土) 8:00

「此れが最初、Wowーーーー」

 「EMPiRE originals」間奏前のMAYU EMPiREのロングトーン。魂の叫びにも聴こえるこの声を耳にするたびに、いつもより長く、太く響いているように感じてきた。Zepp DiverCity(Tokyo)に響き渡った声は、いつもより真っ直ぐで明朗で鮮明に聴こえた。マイクにしがみつき蹲み込んだMAYUはどんな想いだったのだろうか。己の居場所、存在価値をしっかりと確かめている、その悦びを噛み締めている……客席側からはそんな風にも見えた。

 振り返れば、昨年12月19日のZepp DiverCity。MAYUが居ない5人のEMPiREのステージで、ここのパートを請け負ったのはMAHO EMPiREだった。「今日、ここは私が……」歌い出す前、高らかにあげた右手はそう宣言しているように見えたし、ステージに立つことができなかったMAYUの想いと、フロアを埋め尽くしたエージェント(=EMPiREファンの呼称)の力を受け止めているようにも思えた。そうして、天井を突き抜けるほどに渾身のロングトーンを響かせると、すべての力を出し切ったように項垂れた。

 インフルエンザに伏したMAYU不在の『EMPiRE’S GREAT ESCAPE TOUR』ツアーファイナルは不思議なライブだった。完成型とはいえないライブを、今日にしかできないライブとして、ステージの5人もフロアのエージェントも、皆が足りないところを補い合い、ひとつの幸せな空間を作り上げていく様に興奮を覚えた。そういうライブだった。

 そして迎えた2020年1月5日。ツアーファイナルのリベンジ公演である『EMPiRE’S GREAT REVENGE LiVE』は、翌日から仕事始めの人も多いであろう中、まさに“現実逃避”の夜になった。

 けたたましく打ち鳴らされるデジタルビート。高くそびえ立つ6面のLEDパネル。放たれる無数のレーザー。眼前に広がる光景は昨年12月に見たものとまったく同じ。ただ、ひとつだけ違ったのは、下手から颯爽とステージに現れたシルエットが5人ではなく、6人だった。

〈いつも思うんだ ズルいことばかりで嫌でしょう〉

 優しいエレクトロの調べにのせて、MAYUの滑らかな歌声でライブは幕開ける。「WE ARE THE WORLD」だ。6人が茶目っ気たっぷりにそれぞれの〈えへへ〉をキメると、どこか安堵にも似た歓声が沸きあがる。当たり前にステージに立つ6人の風姿が、いつにも増して愛おしく思えた。

 鮮やかな緑髪をなびかせながら、MiDORiKO EMPiREの切り裂くような「五月雨かませぇぇぇ!!」が咆哮する「Buttocks beat! beat!」から、ワイルドなのにエレガントなEMPiREのグルーヴが炸裂する「RiGHT NOW」。間奏のギターのフィードバックに斬り込んでくるMAHOのサビ入りは、空気諸共に時間を一瞬止めているようで、毎回ゾクゾクする。湧き上がる昂揚、我が身燃ゆる炎さえも「デッドバディ」によって、胸の高鳴りへと変わっていく。

 「ERASER HEAD」「NEVER ENDiNG」の妖美な色彩もEMPiREの大きな魅力。まどろむようなYU-Ki EMPiREの歌声と、クールな表情で惹きつけていくMiKiNA EMPiRE。うわずったように突き抜けていくNOW EMPiREの歌声は心地良く、飄々としながらもしっかりと言葉を刻み込んでいくMiDORiKOが揺さぶりをかけてくる。「FOR EXAMPLE??」のすべてを飲み込むような大きなうねりとダイナミズム、「NEW WORLD」の滑稽さと峻厳さが生み出す複雑な歪み、……EMPiREが容赦なく放つテクスチャの飽和は異常だ。

 ライブの大きなハイライトとなったのは「きっと君と」からのセクションである。

 話が前後するが、12月のツアーファイナルも、同じく「WE ARE THE WORLD」で始まった。出だしのMAYUのパートを担当したNOWだった。しかし、第一声の違和感は誰の耳にも明らかだった。NOWの枯れてしまった歌声は、急遽5人で迎えることになった過密な準備を物語っているようであった。

 MAYUの不参加が決定したのはライブ前日のことだ。その夜、横浜で行われたインストアイベントに足を運んだときは、NOWの不調は見受けられなかった。ライブ当日も開場前の昼から特典会があるスケジュールの中で、おそらくイベント終了後の夜中から当日朝までの限られた間に、歌割りとフォーメーションの変更を行っていたのだろう。しかしながら、NOWは喉の不調をものともせず健気な表情でキレの良いダンスを見せていたし、5人が全身全霊のパフォーマンスで挑んでいたのは間違いない。だが、全体的にどこか余裕がなく不安定なところがあったことは否めなかったし、対するエージェントもいまいち乗り切れずにいたように思えた。演者と観客、お互い探り合いの中、着火点を見失ったままライブが進んでいた。

 そうした、いわば負の緊迫感を打破したのが、「きっと君と」だった。

 〈何にも持ってない この手で掴むよ〉NOWが掠れ声で歌いきると、静まり返る会場にひゅうっと花火が上がった。LEDに映し出されたまばゆい光を背に、宙を見上げながらたっぷりと息を吸い込んだMAHOが歌いだす。

〈もう止められないの戻りはしないの 涙堪えて歩き出す今日は〉

 和情緒溢れる旋律を、情感たっぷりに麗かに歌い上げると、先ほどまでの空気が一気に変わった。MAHOの歌に皆がハッとさせられた瞬間だった。そこからの「Black to the dreamlight」、「ピアス」、先述の「EMPiRE originals」と、続けて彼女の歌に引き寄せられるように、会場にいる全員が同じ方向へ、最高のライブへと向かって行ったのだ。

 そんな場面を思い出しながら、再び「きっと君と」を目の前にする。NOWが素直な澄んだ声で歌いきると、あの日と同じ花火が上がった。すると、あのときよりもおおらかにしなやかで美しく、舞うようにMAHOが歌った。そのままの優雅な趣をMiDORiKOが、YU-Kiが、次々と受け取っていき、最後の節はMAYUがしめやかに歌い閉じた。雅やかな後奏の中、YU-KiがMAHOのことを愛おしそうに後ろから覆いかぶさるように身体を寄せたのは、どこまでが決められた振りなのか正直わからなかった。

 その得も言われぬ情景は「Black to the dreamlight」へと引き継がれていった。無機質なグリッチサウンドの中でもがいていく6人は、青く染められたステージの中で強くしっかりと地を足につけて歌う。続く「ピアス」。オリジナルメンバー、YUKA EMPiREの脱退発表に始まった2019年、EMPiREの激動の1年を象徴するような曲だ。Zeppに轟いたのは、さまざまな想いが昇華され、グループとともにまたひとつ大きくなった歌、ドラマチックでエネルギッシュな「ピアス」だった。

 MAYU不在というアクシデントが、さらにEMPiREを強くした。それを感じたセクションだった。そう思わせてくれたきっかけは、紛れもなくMAHOの歌だ。

 「EMPiREを引っ張っていく存在になりたい」――自分でも手応えを感じたかのように、この日の最後の挨拶でMAHOは語っていた。利発的な性格から自然と姉的ポジションにいた彼女だが、我先立つ意欲的な想いをはっきりと口にしたのは、これが初めてだと思う。その言葉がなんとも頼もしかった。

 「SO i YA」からの怒涛のラストスパート。2019年3月の24時間イベント『EMPiRE presents TWENTY FOUR HOUR PARTY PEOPLE』の最後に披露された「SELFiSH PEOPLE」へ。あれからまだ1年経ってないことに驚きを隠せないが、最初は半ばヤケにも聴こえた辛辣な言葉の絶叫も、今となってはライブの起爆剤となるキラーチューンと化している。デジタルに塗れた狂気の中、歌いきってぶっ倒れた6人が、脈打つ鼓動のリズムで再び立ち上がり、ギターの小気味良いカッティングが鳴った途端、会場全体がハッピーなオーラに包まれた「S.O.S」。今やEMPiREの愛溢れるアンセムとなった「MAD LOVE」、そして本編ラストは勇敢に明日へ向かっていく「A journey」。会場全体が拳を突き上げ、迸る感情のすべてを出しきった。

 12月のツアーファイナル後、今度はMAHOがインフルエンザに見舞われるというアクシデントがあったものの、モチベーションともにベストな状態でリベンジに臨むことができたと思っている。12月30日に出演した佐々木彩夏(ももいろクローバーZ)の主催するライブイベント『AYAKARNIVAL 2019』では、完全にアウェイと言ってよい場ながらも、EMPiREらしい孤高のステージで多くの観客の心を掌握した。年が明けて1月3日は、所属事務所WACKのグループが一堂に介する『WACKなりの甲子園』。“BiSHの妹分”と呼ばれ、先輩についていくことに必死だった彼女たちが、いつのまにか多くの後輩グループを引っ張っていく存在になっていることをあらためて感じた、貫禄あるステージだった。こうした大きな舞台が、今回のリベンジ公演への大きな弾みになったことは言うまでもあるまい。

 ツアーファイナルで最後の最後に踊り狂った「Have it my way」は、メンバー5人とエージェントが作り上げた最高のダンスフロアだった。この日のラストももちろん、「Have it my way」である。あの日と同じクラウンダンサーが入り乱れ、皆が我を忘れて“現実逃避”したダンスフロア。どっちが良かったかなんて聞くのは野暮だ。どっちも最高だったのだから。

 5人で臨むことになったツアーファイナル、そこから6人で挑んだリベンジ。同じ会場で、同じセットリストで、同じ演出で、同じエージェントとともに迎えた2日間は、短期間ながらもEMPiREが強くなっていく様と、新たな可能性をまじまじと感じられたライブだった。

 前夜に雹を降らせた(?)ものの、“雨女”から“晴れ女(自称)”を宣言したこの日のYU-Kiの言葉を借りれば、Zeppでのワンマンライブは結成当初からオリジナルメンバーのYUiNA EMPiRE(現・CARRY LOOSE)とYUKAとともに決めた目標のひとつ。メンバーは変わってしまったけど、この6人でステージに立てたことが本当に嬉しかったという。だが、これはまだ目標のひとつに過ぎないのだろう。4月からは次の全国ツアー『SUPER FEELiNG GOOD TOUR』が始まる。“さらなる高みを目指して”、EMPiREは走り続けていく。

■冬将軍
音楽専門学校での新人開発、音楽事務所で制作ディレクター、A&R、マネジメント、レーベル運営などを経る。ブログTwitter

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