Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

BTSの音楽の魅力は“オーセンティシティ”にあり 『BTSを読む』著者キム・ヨンデ、インタビュー

リアルサウンド

20/6/20(土) 8:00

 「ビルボード200」でアジア人初の1位獲得にはじまり、国連でのスピーチ、つい先日は「Black Lives Matter」への寄付とARMYの連帯など、様々な現象を巻き起こしているBTS。そんな彼らを現象としてではなく、アーティストとして音楽面で分析したのが韓国の音楽評論家であるキム・ヨンデ氏が上梓した『BTSを読む なぜ世界を夢中にさせるか』(柏書房刊)だ。今回はそのキム・ヨンデ氏にZoomでのインタビューを行い、BTSの魅力について存分に語ってもらった。

関連:【写真】キム・ヨンデ氏近影

■BTSとARMYの幸福な関係

ーー『BTSを読む』を執筆するに至った経緯を教えてください。

 私がBTSに興味を持ったきっかけは2014年、LAで開催されたKCONです。当時はまだBTSは韓国でそれほど人気があったわけではなかったにも関わらず、アメリカではすでにファンがいて、自分たちのことをARMY(BTSのファンの総称)と呼称していました。そんなアメリカのファンの熱気に驚いて、それ以来、私もBTSに注目するようになりました。

 2018年にはBBMA(ビルボード・ミュージック・アワード)でBTSを取材する機会に恵まれました。BBMA会場でのファンたちの熱狂的な反応をリアルに体感し、またBTSに直接インタビューしたことで、彼らが音楽についてどんな考えを持っているのかを知ることができ、音楽評論家として彼らを論じてみたい、と考えるようになりました。その頃、BTSに関する分析といえば、ただ「韓流の一種」だとか「韓国で流行りのK-POP」といったことばかりで、BTSが持っている魅力、他のグループと異なる点について言及する人がほとんどいなかったんです。そこで私はBTSの魅力の核心について、音楽評論家である私だからこそ書けるものを書きたいと思いました。彼らの音楽を、音楽の専門家として書いてみたかったんです。それがこの本を書こうと決意した経緯です。

ーーARMYと呼ばれるBTSのファンの熱さは世界的にも有名ですが、キム氏が考えるARMYの特徴とは?

 大きく分けて2つあります。1つは、音楽に対してとても真摯な点。ARMYはただBTSの音楽を聴いて、ただ受け入れるのではなく、歌詞を分析し、MVの世界観を考察し、BTSを知らしめることに情熱を注ぎます。自分たちがBTSを支えているんだという自負がある。それはBTSが大きな事務所から誕生したグループではなく、ある意味、ファンが発見し、スーパースターに育てたという意識があるからではないかと考えています。

 そしてもう1つは、SNSなどのリアルタイムでのやりとりに長けている点。SNSを活用しているグループやファンダムはBTSとARMY以外にもたくさんいますが、特にARMYはSNSを利用した連帯が強く、どの国と地域のARMYでも、「私はARMYだ」という言葉だけでファミリーのようにつながれるんです。歌詞や記事を翻訳するアカウントはもちろん他のグループのファンダムにもありますが、ARMYはそのアカウント数が飛び抜けて多いのも特徴です。BTSのすべての曲の歌詞を翻訳し、彼らのインタビュー記事を各言語に即時翻訳するだけでなく、本の中でも触れていますが、彼らに何か問題が起きた時にはファンたちが立ち上がり、歴史を勉強し弁護する。こういったネットワークの活用に関してはARMYがとりわけ強いです。

■BTSは「自分たちの物語」を表現している

ーー本の中でも書かれているとおり、BTSの魅力といってもひとことでは表現できないとは思いますが、キム氏が考えるBTSの魅力は何だと思いますか?

 端的に言うと「衝撃」ですね。何とは具体的に言えないけれど、今まで自分が触れてきたものとは明らかに違う、という本能的な感覚。それが何なのかは私も本を執筆しながらとても悩んだ部分なのですが、ひとつだけはっきり言えるのは、BTSはK-POPの歴史の中でもっとも進化したグループであるということです。K-POPが今まで培ってきたいいところ、歌やダンスが優れている、キャラクターに魅力がある、世界のトレンドを捉えた楽曲、そして見た目にも華やか、そういったことをすべて兼ね備えています。さらに、それらに加えてK-POPに不足していたところも備えている。私が考えるに、それはBTSの音楽が持つ“真正性(オーセンティシティ)”だと思います。簡単に言ってしまえば、BTSは自分自身に正直なんです。

 アーティストが曲を作る時、普通は誰もが共感できる一般的な話に終始することがほとんどなのですが、BTSは自分たちの物語、現代を生きる人間としての物語を、とても具体的に描いています。Big HitのパンPDも、もともとヒップホップグループを作ろうと思って彼らを集めた。そのため、BTSが持っている特性がヒップホップでありラップであり、真正性のある曲を作るという性質を備えていた。さらに、自分の物語を正直にメッセージとして伝えるということが、実は、今のグローバルな社会に生きる人たちがそれとは知らずに望んでいたことだったのではないか、と私は考えています。

 アメリカにもK-POPファンは数多く存在しますが、一方ではネガティブな感情を持っている人もいます。会社の命じるままに歌って、踊って、笑い方までもが会社に指導され、音楽もトレンドに合わせて作られる。まるで工場製品のようだと“ファクトリー・アイドル”と揶揄したアメリカ人記者もいました。しかしBTSは、自分たちで歌詞を書き、曲を作っています。もちろんプロデューサーや作曲家たちのサポートの上ではありますが、自分たちの物語を表現するBTSの音楽は、けっして人にやらされて作られたものではない。彼らの曲を聴けば、これはSUGAの物語であり、RMの物語であり……ということがわかります。

 そしてBTSの音楽には普遍的な青春の痛みが込められていることも、特筆すべき点だと思います。今、まさに青春時代を送っている人間にとっては非常に共感できる物語として、そして彼らよりも年上の人間にとっては青春時代を懐かしく思い出せる物語として、どの世代の人間にも心に響くものがあるんです。

 映画『パラサイト』は韓国の家族を描いた物語ですが、韓国的なディティールを除けば、映画の内容は全世界の人間が共感できるものでした。BTSも同様に、メンバー自身の物語かもしれないけれど、聴く人にとってはそれが自分の物語のように感じられる。彼らの物語が普遍性を持つメッセージとして、曲を聴く人に届きます。その上で、世界的なトレンドに則ったK-POPの曲作りの土台があるというのが、彼らの強みだと思います。

 周囲の人からよく聞くのは、今までヒップホップをよく知らない、好きじゃないと思っていた人たちが、BTSのおかげでヒップホップを聴くようになったという言葉です。ヒップホップの本質はディスではなく、自分のことを語ることだったんだ、ということに気づいたというのです。そういう意味でも、彼らはあらゆる層にポジティブな影響を与えていると思います。

ーーこの本を出版したことで、周囲の反響はいかがでしたか?

 今回は『2 COOL 4 SKOOL』からRMの『mono.』までレビューしたので、続編で『MAP OF THE SOUL:7』も紹介してほしいと言われました(笑)。曲を聴きながらレビューを読むと理解が進む、彼らの音楽を理解する上でこの本が役立っているという感想もいただきました。この本にメンバーの写真は1枚もありません。だから退屈かもしれませんが(笑)、逆に音楽の話を真面目に語ることができてよかったです。アメリカのいくつかの大学からはこの本の著者として講義をしてほしいという依頼も来ました。この本を書いたことで、BTSの音楽について真剣に考察するというひとつの流れができたのではないか、というのは感じますね。

ーー今後、K-POPグループが彼らと同じように世界で活躍するなら、必要なものは何だと思われますか

 非常に難しい問題ですね。何かを備えていれば必ず成功する、と断言できるものではありませんから。それに、いい曲を作るということと成功が必ずしもイコールというわけでもありません。BTSをロールモデルとして、彼らの音楽やスタイルをなぞれば成功するというものではないんです。彼らが一体どんな価値を持っているのか、その本質を掴むことが重要です。

 ひとつ確信を持って言えるのは「自分のことについて語る」ということがとても大事だということ。韓国では「人のにおい」というのですが、今、人々が求めているのは、その人のことが身近に感じられるような、まさにその人のにおいがするような音楽です。その人そのものが音楽に込められている、そういう音楽をやるためには、やはり自分の物語からはじめなければいけないと私は考えます。自分の青春時代のことや、社会について考えたことなど、題材は何でも構いませんが、その時その人が感じたこと、つまりは自分の物語を表現することが大事だと思います。

 そしてもう1つはARMYが教えてくれたことですが、ファンとの絆を築くことです。今のポピュラー音楽というものはジェネラルな人々が聴いているというよりも、その音楽を心から愛している人たちが中心です。つまりファンであり、マニアですよね。そういう人たちがCDを購入し、ライブに足を運ぶ。そういうファンとのコミュニケーションが大事なんですが、そのためにはまず自分に対して、音楽に対して、ファンに対して正直である必要があります。最近、K-POPのアイドルはこぞってV LIVEというリアルタイム動画配信をやっていますが、V LIVEが人気なのも、その人を身近に感じることができるからです。音楽も同様で、その人の物語や人生、その人の哲学が感じられるものに、人は価値を感じます。アイドルと言えども、今という時代を生きる1人の人間です。すべての人間に共通する悩みや考えとは何か、普遍的な価値のある何かを探すことが重要だと思います。

 そして、BTSのように何事も情熱を持ってやり遂げることです。彼らはデビューして今年で7年になりますが、今でもステージに上がれば常に全力で歌い、踊り、ラップします。そういう彼らのパッションは、全アーティストが学ぶべきだと思います。

■K-POP、BTSの今後の展開

ーーBTSの登場は大きな影響があったと思いますが、今後のK-POPの展開についてはどうお考えですか?

 BTSが築いてきたポジティブな影響というものが、K-POP全体に波及してきていると思います。自分たちで楽曲を作り、歌詞を書き、プロデュースするグループが増えてきましたよね。そういうグループが増えたことにはBTSがひとつの要因としてあるのではないかと思います。すでにたくさんの事務所やアーティストがBTSに学び、これからはよりBTS的なK-POPシーンに変わっていくのではないかと思います。

 BTSについて言えば、このBTSフェノミナン(現象)は今もまだリアルタイムで進行中だと私は見ています。先日の「Black Lives Matter」運動ではBTSが100万ドル(約1億800万円)を寄付しましたが、ARMYも「Match a Million」キャンペーンを開始し、24時間以内にBTSと同額の寄付を集めました。そういう動きを見ても、BTSのパワーは以前より増していると感じます。さらには、コロナのせいで卒業式ができない学生のために開催されたオンラインでの卒業イベント「Dear Class of 2020」に、オバマ元大統領と並んでBTSが動画でスピーチしたことも話題になりました。今でもBTSのことを知らないと言う人はいますが、そういう人たちにもBTSの名前は徐々に知られはじめています。

 ビートルズも最初はアイドル的なバンドでしたが、キャリアを積むに従って、真のロックバンドへと変化していきました。BTSも、今はまだアイドル的な見方をされることが多いですが、これからミュージシャンとしてますます成長していくと思います。今でもすでにSUGAやRMは自分名義のミックステープを発表して、ソロ・アーティストとしての活動をしていますよね。今後はそういった面での活躍も期待したいです。

 個人的に望むのは、ずっと長くBTSを続けてくれたら、ということですね。K-POPの欠点の1つはグループの寿命が短いことで、過度のストレスや悪質コメントによる精神的摩耗など、心配は尽きませんが、私はBTSがたくさんのことを経験し、ファンと一緒に歳を重ねながら、自分たちの考えを音楽にして届けてくれたら、と思っています。

ーー現在はコロナのせいでライブという形での公演は難しいのが現状ですが、キム氏は今後のエンターテイメント業界がどのように変化していくと思われますか?

 これも難しい質問ですね(笑)。BTSに関して言えば、少し前にライブストリーミングイベント「BANG BANG CON」を開催しましたし、他のグループも新しいテクノロジーを駆使してオンラインでライブ配信するということをやっています。オンライン配信に関しては以前から準備を進めていたと思いますが、コロナによって配信側も、観客側も否応なしに接することになり、トライしてみた結果、どちらにとっても利があった。生で体感するライブはもちろん楽しいですが、オンライン配信でコンサートを観るという体験は、もはや特別なことではなくなり、そういう機会は今後ますます増えるでしょうね。

 そしてこれはあくまで個人的な意見ですが、今後は多大な資金を投じてオフラインのメディアで広告を展開するというやり方ではなく、もう少しミニマムでインディペンデントな方式が増えていくのではないかと思います。コロナ以前からも曲ができたらSound Cloudに即座にアップしたり、動画を作ったらYouTubeに個人で配信したりといったことはありました。注目すべきは広告の大きさではなくコンテンツの内容である、ということに多くの人が気づきはじめています。それがコロナによってさらに明らかになったのではないか、というのは最近よく考えています。

 オンラインでのリアルタイムかつインディペンデントなやり取りが増えれば、より世界の人にK-POPが伝播するスピードは速まると思いますし、それはK-POPの本質ともマッチすると思います。K-POPは人種・民族・宗教に関係なく聴ける音楽ですが、それが一番広がりやすいのはオンラインですよね。地理的、物理的、経済的な制約がなく、非常に民主主義的なシステムです(笑)。公平なプラットフォームと言えるので、K-POPが持つ同時代性や普遍性とはよく合うんじゃないかと思います。

ーー最後に、ARMYのみなさんにひとことお願いします。

 私はARMYではないし、第三者の立場から見ているのでわかるのですが、K-POPの歴史の中で、こんな現象はいまだかつてなかったことです。今、BTSとARMYが新たな歴史を作っていることを理解していただきたいし、これからもっと大きなことを成し遂げられるのではと期待してもいます。BTSの音楽が伝えてくれる良き心を持って、ARMYもこの時代をリードしているんだという誇りを持っていただけたらと思います。

 音楽評論家としていろんな記事を書いてきましたが、BTSの記事を書いた時だけはARMYからのフィードバックがたくさん来るんです。いいことも、悪いことも、時には怒られることもあります(笑)。よくも悪くも、反応がダイナミック。ARMYのBTSの音楽に対する真摯さ、理解したいという気持ちは素晴らしいなと思いますし、BTSを作るのは会社ではなく私たちARMYだという自負すらも感じます。そういうARMYの姿勢には学ぶべき点がたくさんあると思っています。

(取材・文=尹秀姫)

新着エッセイ

新着クリエイター人生

水先案内

アプリで読む