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腐女子が開催する“恋人がいそうなクリスマス選手権”とは? 『まるごと 腐女子のつづ井さん』の爆笑必至エピソード

リアルサウンド

20/6/4(木) 8:00

 偶然、手に取った本が面白かったとき、なんだか凄く得した気分になる。最近だと、つづ井の『まるごと 腐女子のつづ井さん』だ。かつて出版されたエッセイ・コミック三冊を、文庫一冊にまとめたものである。

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 私は漫画ならばジャンルを問わず読むので、この本の存在は知っていた。しかしタイトルに“腐女子”とあったので、それほど興味は惹かれなかった。さすがにBLは守備範囲から外れているのである。

 ところが先日のことだ。文藝春秋から刊行された新刊で、読みたいものがあり、知り合いの編集者に頼んで送ってもらった。そのときなぜか目当ての本の他に、本書が入れられていたのである。せっかく送ってもらたのだから、読まなきゃ悪いと思い、なんの気なしに本を開いたら、これがメチャクチャ面白い。肝心の頼んだ本をほっといて、読みふけってしまったのだ。

 本書の主人公は、BL大好きな大学生(途中からOL)のつづ井さんだ。腐女子ライフを全力で突っ走っているオタクであり、いつも楽しそうである。そんな彼女と仲のいい友人たち――オカザキさん、Mちゃん、ゾフ田、橘――も腐女子のオタクだ。とはいえタイプは微妙に違う。みんなちがって、みんないい、である。

 一番よく遊んでいるオカザキさんは、好きな作品や推しに対する想いを、古文にしたためている。ただし、その場面はほとんど出てこない。つづ井さんと一緒に、よくバカなことをやっている。

 一例を挙げよう。テレビでキャラが腹筋している場面を見たつづ井さんは、自分も腹筋をしてみて閃いた。キャラの顔を描いた厚紙を、ハリガネのハンガーに張り付ける。そのハンガーに両足を入れて膝のところに取り付け、腹筋をすると、上体を起こしたときにキャラの顔が近づく。これぞ「キャラに腹筋を手伝ってもらえる装置」である。この発想を天才と褒めたオカザキさんは、一度も腹筋ができないのに、自分も実行。なぜかギュンギュンできてしまう。さらにふたりの行動はエスカレートするのだが、これくらいにしておこう。

 文章で説明しているうちに、いったい自分はなにを書いているんだという気分に陥ってしまった。まあ、こんな感じで、こちらの想像など足元にも及ばない腐女子ライフをおくっているのである。

 それは、つづ井さんひとりでも変わらない。三連休を家に籠って、ひたすら漫画を読み、アニメを見て、絵を描いて満足する。これなどはオタクならば、よくある話だ。しかし、キャラの公式設定の載っているファンブックを読んだときの行動は、ぶっ飛んでいる。

 キャラの身長が分かると、マスキクングテープにキャラの名前と身長を書き込み、メジャーで測って、部屋の壁に貼るのだ。これでキャラの妄想を滾らせ、楽しくなったつづ井さんは、分かっている限りのキャラのマスキングテープを、午前四時までかけて貼りまくる。この情熱には恐れ入る。そして満足して剥がそうとすると、壁紙まで一緒に剥がれてしまい、焦る(もちろん賃貸である)つづ井さんに、苦笑してしまうのだ。

 そんなつづ井さんと愉快な仲間たちが、一堂に会する(ゾフ田は同人イベントで不参加。このように友人よりイベントを優先するのも、実にオタクらしい)のが、二章を費やして描かれた「地獄のクリスマス」だ。

 オカザキさんの発案で開催されることになった「恋人がいそうなクリスマス選手権」。彼氏にもらったプレゼントを自慢し合うという企画である。いうまでもなく彼は架空の存在。みんな架空の彼氏と自分のストーリーや設定を練りに練ってくる。もう、この企画自体が爆笑だが、各人のプレゼンに腹がよじれる。いや、本を読んでいて、こんなに笑ったのは久しぶりだ。

 おっと、この調子でエピソードを並べているときりがない。つづ井さんと愉快な仲間たちは、ズブズブの腐女子でありオタクだが、いつでも楽しそうである。それは自分の好きなことに全力投球だからだ。よくオタクには、自分の好きな作品を褒めるのに、他の作品をけなすという手法を取る人がいるが、彼女たちはそんなことをしない。ただひたすら、自分の好きを深めるだけである。また、他人の趣味嗜好にも口出ししない。生きていれば嫌なこともある。いろいろなしがらみも存在する。だけどそれに捉われている暇はない。好きなことをやっているだけで、毎日が飛ぶように過ぎていく。だから、つづ井さんの人生は楽しいのだ。

 なんであれ“好き”なものを持っている人は強い。現実に不満を抱く人は、つづ井さんの日常から、いろいろな気づきを得られるはずだ。どうせならば、つづ井さんと愉快な仲間のように、毎日を楽しく過ごしたいものである。

(文=細谷正充)

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