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視界が広がる感覚を『セールスマンの死』長塚圭史×山内圭哉インタビュー

ぴあ

21/1/4(月) 7:00

山内圭哉(左) 長塚圭史(右) 撮影:源賀津己

今週末1月8日(金)より、KAAT神奈川県芸術劇場にて『セールスマンの死』が上演される。アメリカ現代演劇の金字塔とも呼ばれるアーサー・ミラー作のこの作品。2018年、風間杜夫を主役に迎えて上演され大きな話題を呼んだ。2年ぶりの再演にあたり、演出の長塚圭史と、主人公ウィリー・ローマンの長男・ビフ役の山内圭哉のふたりに話を聞いた。

初演でビフとハッピーのキャスティングがハマったことが大きな自信に

長塚と、初演に引き続きビフを演じる山内は何度も作品をともにしている仲。彼らが中心メンバーを務める演劇ユニット「新ロイヤル大衆舎」は2020年6月、コロナ禍の中でいち早く観客を入れて『緊急事態軽演劇八夜』を上演し話題を呼んだ。しかし、これだけ深い信頼関係を築いている間柄でも、最初に長塚から『セールスマンの死』の話を聞いたとき、山内は戸惑ったという。

「関西小劇場のちいさな劇団出身の僕が、こんな海外の名作と向き合う日が来るとは思ってもいませんでした。圭史から『ビフをやってほしい』と言われたときには『え、大丈夫?』って。でも『絶対大丈夫だから』と言われて、圭史ができるというならできるんや、と飛び込みました。初演のときは翻訳されたセリフをしゃべること自体が大変で、ずいぶん苦労しました」(山内)

「主人公の息子であるビフとハッピー、このふたりの役は非常に難易度が高く、経験値が高くないとできないことは明らかだったので、ビフに山内くんを、ハッピーに菅原永二を強く推しました。確かに山内くんは翻訳劇に慣れているわけではない。けれども僕の作品では何度も劇の核となる部分を担ってもらってきたので信頼をおいていました。風間さん、(片平)なぎささんはもちろん、初演でこの兄弟のキャスティングがぴたっとハマったことは自分の大きな自信になりました」(長塚)

「今回は初演の下地がある分、すこしだけ楽。稽古で前回苦労したセリフと改めて向き合い、より深く作品に接することができるのは、贅沢な時間だなと思いますね」(山内)

主人公ウィリー・ローマンが死に至るまでの最期の2日間を描き、ピューリッツァー賞を獲得した今作。さまざまな名優が演じてきたこの主役を演じる風間杜夫は、「『この役をやるために今まで時を重ねてきたのではないか』という体験をした」とコメントを寄せている。

「この作品、時々タイトルを間違えられるんですよ、『サラリーマンの死』って。2年前はそれがすごく嫌だった。でもこれは、どんな平凡な男にも起こりうる物語。風間杜夫さんという俳優のもつ昭和のお父さん的なイメージや大衆性……その親しみやすさが『セールスマンの死』を身近に感じさせてくれているんじゃないかと思うようになってから、嫌ではなくなりました。風間さんが主役を演じていることで、観る人もこの作品を遠いアメリカの古い話ではなく、自分ごととして捉えられているんじゃないかと思います」(長塚)

「僕にとって風間さんは、稽古場で圧倒的なものを見せつけられた先輩俳優の一人です。2004年に『燃えよ剣』という作品でご一緒しているんです。そこで、風間さんは『セリフをセリフ通りに言うことはすごく大事なんだよ』ということを、体現しておられた。その姿勢は本当に衝撃で、僕にとっては風間さんはモンスターであり、師匠クラスの存在であり……。だから初演のときも緊張していましたけど、今はもっと親しく演じられるようになって、それが作品に対してすごくプラスに働いていると思いますね」(山内)

暗い物語のなかでも“光”も感じてもらえたら

2年前からこの作品に対峙しているふたりに、改めて名作の呼び声高い今作の魅力を聞いてみた。

「いろんな社会の問題が巧妙に入り組んだ形で盛り込まれていますよね。主人公のウィリー・ローマンは資本主義社会を死ぬまで信じて、アメリカン・ドリームを掴み損ねるわけです。他に選択肢はいくらでもあるのに、ひとつの仕組みのなかだけで成功を夢見てしまった結果崩壊する。それは彼だけでなく家族もですね。そうやって老いていく男の様を、あまりにも鋭く描いていて、誰の胸にも刺さる。人間と人間が形成する社会を描いているので普遍性を保ち続けている。今だったらコロナによって『こうであらねばならない社会』の残酷さが浮き彫りになるでしょうし。すごい戯曲だな、と思います」(長塚)

「70年前のアメリカの作品が、いざやってみると僕らの今そこにある物語のように感じられる。コロナで自分らの暮らしや生き方を振り返ってみたときに、この話を思い出して『ああ!』と思うことがいっぱいあるんですよ。今にビビッドに響く、本質的なものがいっぱい散りばめられている」(山内)

「コロナで疲弊しているいまの僕らの精神状態に届く、胸に迫るんですよね。戯曲としては暗い、転落の物語ですが、最後にビフが何かに覚醒する、その光も描かれている。劇場を出たあと、視界が広がった感覚になるんじゃないかな」(長塚)

長塚は、2019年4月から芸術参与としてKAAT神奈川芸術劇場に携わってきた。2021年4月からは、白井晃の後を継いで芸術監督に就任する。最後に白井へのメッセージを語ってもらった。

「やっぱりね、白井さんは無茶(笑)。無茶なことをどんどんやってきた人だなって思いますよ。 圧倒的なプログラムを作って、それを実現させてきた。そのエネルギーには頭が下がります。白井さんが土台を猛烈に作り上げてきてくれたことで新たなステップが踏み出せる。白井さんが築きあげてきたものにまた次なる角度をつけて向かっていくつもりです」

取材・文:釣木文恵 撮影:源賀津己



『セールスマンの死』
作:アーサー・ミラー
翻訳:徐賀世子
演出:長塚圭史
出演:
風間杜夫/片平なぎさ/山内圭哉/菅原永二
加藤啓/土屋佑壱/智順/山本圭祐/佐野瑞稀/浜崎香帆 
大谷亮介/村田雄浩

2021年1月8日(金)~2021年1月12日(火)
会場:KAAT神奈川芸術劇場<ホール>

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