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「何を食べるか」ではなく「誰と食べるか」 『きのう何食べた? 』シロさんとケンジが囲む食卓が気づかせるもの

リアルサウンド

20/1/2(木) 12:00

 2019年4月6日から6月29日までテレビ東京系「ドラマ24」で放送されていたドラマ『きのう何食べた?』。見逃し配信では全話100万再生数越えの人気作品が『きのう何食べた?正月スペシャル2020』として1月1日に放送された。

 テーマは「誰のために時間とお金を使いたいか」。

【写真】「正月スペシャル」に登場した宮沢りえ

 3章立てのエピソードで描かれた物語は、どれも大切な人のために使う時間とお金の価値について描かれていた。登場人物たちが発する優しい言葉が、その価値について気づかせてくれる。

 第1章では、筧史朗(通称・シロさん/西島秀俊)が親の老後資金に悩む姿が描かれた。シロさんは久栄(梶芽衣子)から悟朗(田山涼成)の通院費を工面してほしいとお願いされた。20年前、シロさんが同性愛者だと受け入れられなかった久栄は、水や壺などにハマってお金を使いこんでしまった。シロさんはそれを自分のせいだと思っている。そんな彼の心を軽くしたのは、中村屋で会った佳代子(田中美佐子)の何気ない言葉だった。

「筧さんが今、こんなに立派になったのは、もしかしたらその壺のおかげかもしれないじゃない?」

 過去を否定するのではなく、今を見つめる佳代子の軽やかな言葉で、シロさんの肩の力がフッと抜けた。シロさんと佳代子の関係はスーパーの食材を分け合ったり料理をしたりする仲なのだが、この仕事仲間でも家族でもない佳代子の存在は、シロさんに見えていなかった家族の一面を教えてくれる。

 シロさんの誕生日にどんこを送った久栄。喜ぶシロさんとは対照的に、久栄は「史朗ちゃんの好み、お母さん、よくわからないから」と申し訳なさそうだった。久栄はシロさんの全てを受け入れられているわけではない。心苦しそうな久栄の姿から、シロさんを理解したいが受け入れきれていない現状が伝わってくる。そんな母に、シロさんは優しく言葉を返した。

「今すごくよくわかってくれてるじゃない」

 この一言で、過去や受け入れられないものが解消されるわけではない。けれど、この後の二人が見せたホッとした表情は、母が息子を、息子が母を、大切に思う気持ちに満ち溢れていた。

 続く第2章で描かれたのは、小日向(山本耕史)と航(磯村勇斗)の日常。二人の関係が二人にしか紡げないものだと分かる章となった。

 劇中、矢吹賢二(通称・ケンジ/内野聖陽)と遭遇した航は、仕事が忙しいシロさんに代わって夕飯を作るケンジに「なんでそんな愛情の安売りするの?」とやっかむ。しかしケンジと話す内に、大切な人のために作る料理が羨ましくなったのだろう。航はキムチチゲを作り、小日向に食べてもらおうと待っていた。

 常にツンツンしている航だが、小日向に想いを向けるときだけは、ほんの少し表情がゆるむ。小日向に「食べるに決まってるじゃないか」と言われたとき、航はその反応に驚きつつ、安心したのか体からスッと力が抜けていた。小日向が航の手料理を食べているときには、わさビーフをむさぼりながら、時折フッと満足げな表情を浮かべる。

 航の愛情表現は素直ではない。だが、このさりげない表情だけでも、小日向が大好きなのだと伝わってくる。一方、小日向の想いも強い。小日向は「航のワガママが全部自分に向けられていてほしい」と話した。愛を試す航とそれに全力で答える小日向。「(航のワガママを)100パー僕だけで応えてあげたいんです」という台詞が、この二人だからこそ成り立つ関係を物語っている。

 最後はシロさんとケンジの物語。多忙を極めるシロさんに代わり、料理や家事をするケンジ。だが、3週間ものすれ違い生活が続き、ケンジは寂しさで押しつぶされそうになっていた。しかし一緒に過ごす時間を大切に思い、寂しさを感じているのはケンジだけでない。

 シロさんがたまたま早く帰ってきた日。日々、倹約に努めてきたケンジだったが、この日だけは卵やバターを贅沢に使ったオムライスを作っていた。倹約家のシロさんを前にばつが悪そうな顔をするケンジ。けれど、この日シロさんが大切にしたかったのは、お金ではなくケンジと過ごす時間だった。シロさんは、「お風呂入れてくるから」とその場を立ち去ろうとするケンジを力強く引き止め、こう言った。

 「一緒に食おう!」

 ケンジ特製オムライスを頬張るシロさんはとても幸せそうだった。職場ではうな重やピザを食べていたシロさん。どれも美味しそうに映し出されていたのだが、シロさんにとって一番美味しく感じられるのはケンジが作ってくれた料理である。「こんなうまいオムライス食べたことないよ」という台詞と満面の笑みから、シロさんが「何を食べるか」ではなく「誰と食べるか」を大切にしていること、そして、ケンジと過ごす時間を何よりも大切に思っていることが伝わってくる。久しぶりに二人で囲む食卓に、思わず涙してしまうケンジも可愛らしかった。

 相合い傘をして歩くシロさんとケンジの背中で幕を閉じた今作。新年からほっこりした気持ちになった視聴者も多いだろうが、「誰のために時間とお金を使いたいか」を考えさせられる1時間半でもあった。シロさんとケンジが過ごす日々のように、私たちも当たり前の日常を大切に過ごしていきたいものだ。

(片山香帆)

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