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春日太一 実は洋画が好き

少年時代、柔らかく暖かい感じのジョディ―・フォスターに魅了された『君がいた夏』

毎月連載

第35回

『君がいた夏』 © 1988 Warner Bros Entertainment Inc. All Rights Reserved.

先月公開された映画『モーリタニアン 黒塗りの記録』のジョディ・フォスターが最高に魅力的だった。

これは、9.11同時多発テロ事件に関与した容疑者として逮捕され、グアンダナモ刑務所にて米軍から拷問ともいえる激しい尋問を受け続けるモーリタニア人が主人公の作品。ジョディ・フォスターが演じたのは、彼を救うべくアメリカ政府と軍を相手に毅然と立ち向かう人権派弁護士の役だ。

『モーリタニアン 黒塗りの記録』では弁護士役を演じたジョディ―・フォスター 
(C)2020 EROS INTERNATIONAL, PLC. ALL RIGHTS RESERVED.

これがとにかくカッコイイ。アンチエイジングなど気にすることなく、顔の皺や首のたるみを隠さない姿は、長年にわたり権力を相手に戦い抜いてきた積み重ねが刻まれたように映り、むしろその頼り甲斐を強めているように思えた。

特に素晴らしいのは容疑者に初めて接見するためにグアンタナモに降り立つ場面。軍人たちに取り囲まれても全く臆することなく、銀髪をなびかせながらサングラス姿で颯爽と真ん中を歩く堂々とした様は“ヒーロー”そのもの。思わず見惚れていた。

それで思い出したのが、“海辺で髪をなびかせるジョディ・フォスター”という画に、少年時代にも魅了されたことがあった──ということだ。

この出会いも本連載で何度かあったケースと同じく、近所のレンタルビデオ店に張り出された宣伝ポスターだった。たぶん中学に入りたての頃だったと思う。砂浜に青い海という爽やかな海岸の景色と、金髪をなびかせながらクールだけども優しげで儚げな眼差しのジョディ・フォスターのアップとが合わさったビジュアルだったと記憶している。見ていて海風を感じるような画の中にいるジョディ・フォスターは実に魅力的で、内容を確かめることなくすぐさまビデオを借りた。

『君がいた夏』© 1988 Warner Bros Entertainment Inc. All Rights Reserved.

それが『君がいた夏』だった。ジョディ・フォスターが『告発の行方』でアカデミー賞主演女優賞を受賞する直前に出演した作品で、今から振り返ると「え、ジョディ・フォスターがこんな映画でこんな役を演じたの──?」と思いたくなるような、“どうってことのない青春映画”だ。ただ、同時にそれが“たまらなく愛しい映画”にもなっていた。

プロ野球のマイナーリーガーとしてパッとしない日々を送る主人公のビリー(マーク・ハーモン)が、自殺した従姉のケイティからの遺言でその遺灰を託されるところから物語は始まる。久しぶりに帰郷したビリーはケイティと過ごした日々を思い出し、現在と回想を往復しながら話は展開していく。

『君がいた夏』© 1988 Warner Bros Entertainment Inc. All Rights Reserved.

そのケイティを演じるのがジョディ・フォスターだ。ビリーの六歳上のケイティは少年時代には子守のような役割。奔放な性格のためオープンカーを走らせて一緒にタバコを吸ったりと、ちょっとした悪さに導いたりもする。

後の作品ではタフでクールなイメージが強いジョディ・フォスターだが、この“優しいけど危ういお姉さん”という柔らかい役柄も実はピッタリ。こちらもビリーに近い年代だったのもあって彼女と一緒にいる時の気持ちがよく分かり、我がことのようにドキドキとしてしまったのを覚えている。

『君がいた夏』© 1988 Warner Bros Entertainment Inc. All Rights Reserved.

やがて青年となったビリーは野球の道で嘱望される。順風満帆のビリーだったが、父を交通事故で失ってしまった。そして、葬儀に現れたケイティと再会。ケイティは傷ついたビリーの心を優しく癒そうとする。

水面が煌めく砂浜、夕暮れに照らされる水平線。ふたりを包む海辺の景色はどこまでも暖かく、それがジョディ・フォスターの美しい金髪と包容力あふれる笑顔と溶け合い、たまらなく優しい空気を創り出していた。

オールディーズを交えた爽やかで甘いBGMとセピア気味の淡く美しい映像。今観ると──というより当時でも恥ずかしくなるくらいに全てがベタだ。が、これがかえって作品の描く“ひと夏の思い出”をノスタルジックに彩り、そのかけがえのない儚さに胸が切なくなる。

タフでたくましいジョディ・フォスターも魅力的だが、本作のような柔らかく暖かい感じのするジョディ・フォスターも魅力的だ。そして、通底するのは凛として一本の筋が通っていること。そこに、昔も今も惹かれ続けてきた。

関連情報

『君がいた夏』DVD

1,572円(税込)
発売元:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
販売元:NBC ユニバーサル・エンターテイメント
© 1988 Warner Bros Entertainment Inc. All Rights Reserved.

プロフィール

春日太一(かすが・たいち)

1977年、東京都生まれ。映画史・時代劇研究家。著書に『天才 勝新太郎』『仁義なき日本沈没―東宝VS.東映の戦後サバイバル』『仲代達矢が語る 日本映画黄金時代』など多数。近著に『泥沼スクリーン これまで観てきた映画のこと』(文藝春秋)がある。

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