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年末企画:杉本穂高の「2020年 年間ベストアニメTOP10」 作品を提供してくれた関係者に感謝を

リアルサウンド

20/12/24(木) 10:00

 リアルサウンド映画部のレギュラー執筆陣が、年末まで日替わりで発表する2020年の年間ベスト企画。映画、国内ドラマ、海外ドラマ、アニメの4つのカテゴリーに分け、アニメの場合は、2020年に日本で劇場公開・放送・配信されたアニメーションから、執筆者が独自の観点で10作品をセレクトする。第8回の選者は、神奈川県厚木市のミニシアター「アミューあつぎ映画.comシネマ」の元支配人で、現映画ライターの杉本穂高。(編集部)

1. 『ウルフウォーカー』
1. 『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』
3. 『新しい街 ヴィル・ヌーヴ』
4. 『Away』
5. 『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』
5. 『劇場版「Fate/stay night [Heaven’s Feel]」III.spring song』
7. 『ミッドナイト・ゴスペル』
8. 『映像研には手を出すな!』
9. 『音楽』
10. 『ドロヘドロ』

 まず今年は無事に作品が公開・放送・配信されただけでもありがたい年である。例えば、毎年恒例の劇場版『名探偵コナン』シリーズの公開が1年延期となったが、心待ちにしていたファンには辛い年となったかもしれない。多様な生き方が尊重される時代になり、コンテンツが生きがいという人も増えている。そういう人にとっては1年という時間は決して短くないだろう。

 まずは、目標の売上を上げられるかわからない不安な時期にもかかわらず果敢に作品を提供してくれた関係者に厚くお礼を申し上げたい。とはいえ、延期の決断もやむにやまれぬものであり、その決定を批判する気持ちもまったくない。長く待った分、素晴らしい鑑賞体験が待っているはずだ。

 以下、各作品の選考理由を簡単に記していく。

『ドロヘドロ』

 筆者が日本アニメを好きなのは、こういう作品があるからだ。この強烈にアングラな香り漂う作風がたまらない。3DCGと作画のハイブリッド技術も大変高い。こういう、異様なアイデアの作品をもっと観たい。

『音楽』

 スマッシュヒットとなった国産インディペンデントアニメーション映画。一般的な商業アニメ作品とは異なる場所に、アニメーションの市場を拡大するという点で、本作の意義は非常に大きかったのではないか。ロトスコープで描かれた演奏シーンは圧巻。衝動を形にするとはこういうことかと感心した。

『映像研には手を出すな!』

 湯浅政明監督と原作の相性が抜群に良かった。今年は劇場版『SHIROBAKO』も公開されたが、視点とアプローチの違いを比べると興味深い。最も大きな違いは、プロデューサー気質の金森がメインキャラクターの一人であることだろうか。創作の情熱を描く作品の場合、プロデューサーは障害として描かれることも少なくないが、金や人的資源を管理することも、実はクリエイティブなことなのだ。

『ミッドナイト・ゴスペル』

 姿かたちの変容、原形質的な魅力に溢れた作品だった。それはナラティブな面でも映像面でもそれが存分に活かされていたし、作品全体のテーマと直結していた。肉体を捨てる日が、私たちの現実にもいつか訪れるかもしれない。そういう変容の時代に耐えうる感性を持つことができるだろうかと考えてしまった。そして、死と生と輪廻を巡る最終話の壮大さに驚愕した。

『劇場版「Fate/stay night [Heaven’s Feel]」III.spring song』

 堂々たる大作だった。次に紹介する『鬼滅の刃』にも言えることだが、ufotableは原作理解度が深い。そして、その深い理解度を映像で示すことができる。原作に忠実に映像化するには、単純に原作をなぞって出せばいいわけではない。漫画や小説、ゲームを咀嚼し、映像に翻案する力、原作の魅力の本質を見抜き、映像ならどう表現すべきかを的確に見抜いている。本作においてはラストカットがその深い理解を端的に示していたと思う。本作と『鬼滅の刃』どちらも甲乙つけがたかったので、同点とさせてもらった。

『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』

 記録的大ヒットで2020年という年を代表する1本となった。このエピソードが映画作品として描かれて本当に良かったと思う。連載でも取り上げたが、原作のエピソードの中で最も映画にふさわしかったと思う。映画はモーションでエモーションを描くもの、列車が象徴するモーションに始まり、最期に訪れる別れのエモーションまで緩みなく演出された映像はひと時も目が離せない素晴らしいものだった。

『Away』

 即興でアニメーションが作れる時代になった。ジョン・カサヴェテスがハリウッドの不自由から逃れて、人間の真実の感情に迫ろうと即興で映画を作ったように、緻密な計算とコントロールが不可欠なアニメーションの常識から飛び出して、ラトビアのギンツ・ジルバロディス監督は一人で制作することで自由を謳歌した。即興演出好きの筆者としては長年待ち望んだ待望の一本だ。

『新しい街 ヴィル・ヌーヴ』

 カナダのケベック州独立住民投票を題材にとった作品なのだが、1%差で独立が否決された現実をひるがえし、1%差で独立が可決された世界を描いている。あり得たかもしれないifの世界を描いたわけだが、それはわずか1%差の分かれ道。世の中はその程度の差で決定的に分かれていくのだとしたら、男と女の関係もほんの僅かなすれ違いで別の形があり得たかもしれない。世界は、ほんの少しのことで変容していく、それを輪郭も曖昧に変容していくアニメーションの中で描く。この映画を見終わって劇場を出た時、現実の風景の見え方が変わっていた。

『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』

 並々ならぬ決意で作ったと石立太一監督はおっしゃっていたが、その言葉に偽りなく大変格調高い傑作となった。連載にて「メロドラマ」をキーワードに本作について書いたが、メロドラマとは泣ける安っぽい作品のことではない。「メロドラマにおいては、涙は未来の力の源泉(リンダ・ウィリアムズ)」であり、「映画が美しく、わざとらしく、演出されきって、仕上げられていればいるほど、映画は自由で解放される(ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー)」のである。『ウルフウォーカー』と同点1位とした。

『ウルフウォーカー』

 カートゥーン・サルーンは本作で、世界最高峰のアニメーションスタジオであることを証明した。クラシカルな部分もありながら新しさもある。色彩と絵の動きそのものに目が奪われっぱなしの90分だった。ヨーロッパ文明とは、キリスト教によるヒューマニズム(人間中心主義)が幅を利かせているわけだが、本作の欧州にもかつて存在した、多彩で豊かな思想の一端が描かれている。本作は、すでに失われた文明に目を向けることで、私たちが失った「あり得たかもしれない別の豊かさ」の可能性に気づかせてくれる作品だ。

 そのほか、惜しくも選考外となった作品にも触れたい。

 『魔女見習いをさがして』と『泣きたい私は猫をかぶる』と2本の佐藤順一監督作品はどちらも素晴らしかった。特に『魔女見習いをさがして』は、コンテンツと共に生きる現代人を見事に活写した。

 TVアニメでは、『波よ聞いてくれ』、『アクダマドライブ』あたりが印象に残った。短編映画『劇場版 ごん -GON, THE LITTLE FOX-』も素晴らしかった。木彫りの人形によるストップモーション作品で、誰もが知る古典に新鮮な息吹を与えた。志村貴子原作、佐藤卓哉監督の『どうにかなる日々』も感動した。アニメは等身大の人間を描ける。海外アニメーションでは『FUNAN』も力作だった。

 大変だった2020年がまもなく終わるが、2021年もしばらくは先が見通しがたい状況が続くだろう。コンテンツとともに生きる現代人の一人として、来年以降もたくさんの魅力ある作品に出会えることに感謝したい。

TOP10で取り上げた作品のレビュー/コラム

実写とアニメの境を見直す杉本穂高の連載開始 第1回は『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』評
『鬼滅の刃』『君の名は。』大ヒットの要因に ufotableと新海誠から探るアニメーションの“撮影”の重要性
『Away』はなぜアニメーションとして画期的なのか VTuberにも通じる“即興性”を読み解く
劇場版『鬼滅の刃』を“列車映画”の観点から読む エモーションとモーションの連動が作品の醍醐味に
劇場版『Fate/stay night [HF]』が問いかける“罪”との向き合い方 映画独自のアレンジの妙
『ミッドナイト・ゴスペル』なぜ話題に? 新感覚アニメーションが可能にした、壮大なテーマの表現
『映像研には手を出すな!』映像制作の悲喜こもごもをどう描く? 湯浅政明・英勉監督の起用を考える

■杉本穂高
神奈川県厚木市のミニシアター「アミューあつぎ映画.comシネマ」の元支配人。ブログ:「Film Goes With Net」書いてます。他ハフィントン・ポストなどでも映画評を執筆中。

■公開情報
『ウルフウォーカー』
全国公開中
監督:トム・ムーア、ロス・スチュアート
音楽:ブリュノ・クレ、KiLa、オーロラ
声の出演:オナー・ニーフシー、エヴァ・ウィッテカー、ショーン・ビーン
配給:チャイルド・フィルム
後援:駐日アイルランド大使館
2020年/アイルランド・ルクセンブルク/英語/103分/ヴィスタ/カラー/ドルビー・デジタル/日本語字幕:稲田嵯裕里/原題:WolfWalkers
(c)WolfWalkers 2020

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