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川谷絵音に聞く、Kizuna AI×花譜コラボ曲で感じたバーチャルアーティストの特異性「この先は有利というか、可能性しかない」

リアルサウンド

20/10/10(土) 16:00

 川谷絵音が作詞・作曲・編曲を手がけた、Kizuna AIと花譜によるコラボ曲「ラブしい」が話題を集めている。同曲は、eカルチャーを愛するファン、クリエイターのための超没入エナジードリンク『ZONe』が展開する『ZONe immersive song project』への参加楽曲。『ZONe』のコンセプトであるImmersive=没入をテーマにした同プロジェクトでは、様々なアーティストの新しい楽曲・MVをサポート。今回はKizuna AI×花譜コラボのほか、Gorilla Attackやyamaとインターネット/デジタルミュージックと親和性の高い新鋭アーティストが参加している。

 川谷曰く「最近やってなかった“川谷絵音っぽさ”を思い切りやりました」という「ラブしい」は、疾走感のあるリズム、華やかなアレンジ、印象的なリフレインを効果的に使ったメロディが一つになったアッパーチューン。川谷の独創的なポップセンスを改めて体感できる優れた楽曲だ。

 このほか、ソロプロジェクト「美的計画」、坂本真綾、BENIへの楽曲提供など、さらに活動の幅を広げている川谷。「ラブしい」の制作を中心に、プロデュースワーク、楽曲提供に対するスタンスについて語ってもらった。(森朋之)

川谷絵音から見た、バーチャルアーティストの存在感

ーーまずは“Kizuna AI×花譜”に提供した「ラブしい」のことから聞かせてください。川谷さんにとって、バーチャルアーティストはどんな存在だったんですか?

川谷絵音(以下、川谷):実は全然知らなかったんです。歌い手さんとかはもちろんチェックしていたんですけど、VTuberにはそれほど関心が向いてなくて。Kizuna AIさんの名前は知っていましたけど、歌を歌ってらっしゃるのは、今回の楽曲提供のオファーをもらったときに初めて知ったんです。お二人のこれまでの楽曲を聴かせてもらって感じたのは、「ヨルシカやYOASOBIなどと近いものがある」ということですね。花譜さんの曲を作っているカンザキイオリさんもそうですけど、曲の作りも今っぽいし、作り手とボーカリストの関係という意味では同じ括りだと思ってます。歌い手は顔を出していない人も多いですけど、彼女たちがバーチャルな存在で、アバターがいる。違いはそこだけなのかなと。

ーーなるほど。「ラブしい」の制作に関しては、どんなオーダーがあったんですか?

川谷:「テンポは速めで」という話はありましたね。あとは打ち合わせのなかで、二人が歌うことの必然性を汲み取りながら作りました。自分(川谷絵音)っぽさを求められているところもあったので、冒頭のリフレイン感を含めて、わりとわかりやすく“らしさ”を出したところはあるかな。最近自分のバンド界隈では、ゆったりしたテンポのオシャレな感じの曲が中心なので、「ラブしい」みたいな雰囲気の曲を作ったのは久しぶりでしたね。

ーーもちろんKizuna AIさん、花譜さんの声質も考慮しながら?

川谷:はい。二人の声質、全然違うんですよ。花譜さんはいい意味で不安定なボーカルで。僕自身も揺れる声が好きだし、魅力的な歌声だなと思いました。Kizuna AIさんは真っ直ぐな声なので、歌い分けもテキパキできましたね。左と右に振り分けて、ユニゾンのパートは真ん中に置くとか、パン振りもやりやすったし、2人で歌う意味のある曲に出来たと思います。

ーー〈夜間飛行〉など、ロマンティックなSFっぽさがある歌詞も印象的でした。

川谷:曲を作っているときから、宇宙空間の暗さみたいなものが頭の中に浮かんでいて。楽曲もスペーシーですからね。〈共鳴中心世界線〉は制作中に浮かんできたフレーズで。さっき「顔を出しているかいないだけで、歌い手としては同じ括り」と言いましたけど、アバターがあればそこに意識が行くし、良くも悪くも矛先が向いてしまう。VTuberが歌うんだけど、聴いている側も共感できるようなテーマの歌詞にしたかったし、かなり大きなテーマを持って作ってましたね。

Kizuna AI × 花譜 – ラブしい (Prod. 川谷絵音)【Official Music Video】

ーーそのテーマは、川谷さん自身の問題意識にもつながっているんでしょうか?

川谷:そうですね。様々な矛先が様々なところに向いてしまっているなかで、結論として「気にすんなよ」で終わってしまいがちなんだけど、「いや、そうは言っても気にしちゃうじゃん」って。「ラブしい」の歌詞では、二人が補い合ってる感じにしたかったんです。Kizuna AIさんと花譜さんは今の状況を共有できる二人だし、彼女たちが頑張っている姿を描くことで、その奥に隠された問題も伝わるんじゃないかなと。

ーーすごくシリアスなメッセージが込められているんですね。一方でアレンジは派手な作りになっていて。

川谷:うん、派手にしましたね。Kizuna AIさん、花譜さんの過去の曲は派手めなものが多かったし、二人が合わさるとなれば、派手にせざるを得ないというか(笑)。MVのビジュアルを思い描いたときに、管楽器が頭の中で流れていたので、その音を入れて。自分のイメージもかなり入ってますね。

ーーボーカル録りのディレクションに関しては?

川谷:歌録りには立ち会っていなくて、「こういうふうに歌ってください」とも言ってなくて。出来上がったものを聴いたときに、仮歌とはだいぶ違っていたんですよ、いい意味で。そういう違いは普段のレコーディングでもあるんですけど、いままでは歌う人の表情や喋り方を知ったうえで、「こういうふうに歌ったんだな」という感じだったんですよ。でも、VTuberの場合は絵しか見てないし、不思議な感じでしたね。

最近は生身がバーチャルにどんどん近付いている

ーー川谷さんにとっても新鮮な体験だった、と。「ラブしい」の制作を踏まえて、バーチャルアーティストの可能性についてどんな風に捉えていますか?

川谷:うーん、なんでしょうね……。米津玄師も出演した「フォートナイト」のバーチャルイベントもそうですけど、現実にいる人がアバターになったり、最近は生身がバーチャルにどんどん近付いていて。VTuberはその先駆者だし、時代に合ってるのかなと思いますね。この先どんどんバーチャルが広がっていくなかで、VTuberは有利というか、可能性しかないという感じです。もちろん誰もが出来ることではないし、狭き門だと思いますけど、YouTubeは老若男女はすでに一般化しているし、Kizuna AIさん、花譜さんの存在ももっと広がっていくと思いますね。

ーーバーチャルな表現が浸透することになって、音楽自体にも影響があると思いますか?

川谷:音楽に関しては、ストリーミングによってすでに変わっちゃってますからね。僕らの世代は、お気に入りが1曲あればアルバムを買ってたんですよ。そうすると好きな曲以外も必然的に聴くことになるし、アーティストやバンドの側も、アルバムのなかでいろんな表現をする意味があったんです。いまは基本的に“単曲”が中心だから、有名な曲があると、そのイメージしか持てなくなってしまう。アルバムのなかでいろんな曲を提示する意味がないというか、そもそもアルバムを出す意味もなくなってるんですよね。そういう部分でもVTuberは有利ですよね。そもそも単曲メインだし、MVとふだんの活動のイメージが同じ世界観でつながっているのも、いまの状況に合ってるなと。やっぱりいまの時代にハマってるんでしょうね、VTuberは。

ーー川谷さんは「ラブしい」以外にも、「美的計画」(川谷絵音の作る曲を色んなボーカリストに歌ってもらうプロジェクト)を立ち上げたり、BENIさん、坂本真綾さんに楽曲提供するなど、作家、プロデューサーとしての活動も広がっていて。これは意図的なものですか?

川谷:いや、自分から「やります」って募集したわけではないので、たまたま重なっただけですけどね(笑)。「美的計画」は、「自分では歌えない曲を人に歌ってほしい」というところから始まっていて。アーティストさんへの楽曲提供だと、いろいろな条件が絡んでくることもあるし、完全に好きなように作るのは難しいこともあって。制限があるほうがいいこともあるんですけど。「ラブしい」も“VTuber同士のデュエットで、テンポが速くて”という条件のなかで出来た曲だし、制限があるからこそやれることもあるので。ただ一方で、まったくストレスフリーに楽曲提供をやれる場所も欲しかったんですよね。「美的計画」は自分のバンドで見送った曲だったり、新しいアイデアを試すこともできるんですよ。けっこう好きなようにやってます。

ーー「美的計画」の第一弾は、川谷さんがTwitterで開催した弾き語り企画で選ばれた“にしな”が歌った「KISSのたびギュッとグッと」。SNSやTikTokなどで見つけたシンガーをフックアップできる機能もあるのでは?

川谷:そうですね。もっと気軽にやりたいというか。海外のアーティストって、いきなりDMで連絡してきて、「一緒にやろうぜ」って言ってくるんですけど(笑)、日本人はそうじゃなくて、連絡するときも「(作品を)聴いてください」という感じなんですよ。自分としては出来るだけ壁をなくして、自由にやられる雰囲気を作りたいんですよね。

ーー実際、SNSなどで才能のあるアーティストを見つけられることも多い?

川谷:それはすごくあります。花譜さんも一人でネットにアップしてた歌がきっかけだったそうなんですが、すごい才能がいっぱいいるので。Twitterの弾き語り企画のときに選んだ5人のなかにYOASOBIの幾多りら(ikura)さんもいたんですけど、そういう人たちと知り合いたいし、機会損失をしたくないんですよね。

ーーちなみに美的計画は女性シンガー限定なんですか?

川谷:そういうわけではないですけど、もともと男性の声のストライクゾーンが狭いんですよ、僕は。楽曲の音域も広めなので、男性シンガーだと歌うのが難しい場合もあって。

楽曲提供/プロデュースワークは“J-POPっぽくしない”

ーーBENIさんに提供した「だけど放て」はどんな経緯で制作したんですか?

川谷:BENIさんはもともと知り合いだったんですよ。安良城紅名義の頃から聴いていたし、ドラマの主題歌としても耳なじみがあって。ちょっとロマンティックな感じですけど、自分が昔、聴いていた人に曲を作るっていうストーリーがいいなと思ったんですよね。

ーーBENIさんとしては、新しいテイストの曲を川谷さんに作ってほしかったのでは?

川谷:そうですね。2曲作ったんですけど、もう1曲のほうは、これまでのBENIさんのイメージに近い曲で。採用された「だけど放て」は違う方向性の曲なので、新しいテイストを望まれていたんだと思います。この曲、ギターをichikaくんに弾いてもらったんですよ。ichikaくんのギター以上に目立てるボーカリストはほとんどいないと思うので、ふだんの楽曲提供のときは呼ばないんですけど、この曲には合うかなと。実験的なところもあるけど、この楽曲だからこそやれたことだと思います。アウトプット先が多ければ多いほど、そのぶん、いろんなことが試せるんですよね。

ーー坂本真綾さんに提供した「ユーランゴブレット」「細やかに蓋をして」の時はどんなやり取りがあったんですか?

川谷:打ち合わせのときは、ジェニーハイのある曲を挙げてもらったんですけど、僕はアマノジャクだから、ぜんぜん違う曲を送ってたんです(笑)。それが「細やかに蓋をして」だったんですけど、「いい曲なんですけど……」みたいな感じだったから、もう1曲、アップテンポの「ユーランゴブレット」を投げて。結局、どっちも採用してもらったんですけどね。オファーを受けてから数日、最短だと1日で曲を送るんですよ。ボツになってもすぐに違う曲を送るし、ボツになった曲は他のバンドで試すこともあって。BENIさんに送って採用されたなかった曲も、DADARAYでやってるので。indigo la Endだけですね、時間がかかるのは。

ーーでは、楽曲提供、プロデュースにおいて、いつも意識してることといえば?

川谷:J-POPっぽくしない、というのはあるかも。楽器が大事なんですよ。歌を目立たせるために楽器を控えめにするのではなくて、インストとしても成り立つように作るのはこだわってますね。

ーーボーカリストの個性を出すことはあまり考えてない?

川谷:僕が作る曲の譜割りって、めちゃくちゃ難しいんですよ。メロディの起伏もあるし、音域も広いから、歌いこなすだけで、その人にとっての新しい世界が広がるんじゃないかなって思います。

ーーなるほど。川谷さんは圧倒的に多作だし、ライブが出来ない現状において、さらに多くのシンガーやアーティストから曲を求められることも増えそうですね。

川谷:あんまり意識してないですけどね、そこは。適応能力はあるほうだと思うし、どんな状況になっても、「何でもいいかな」って。ライブが出来なくなって、「ライブをやることで活動のリズムを作ってたんだな」と気付いたけど、それが何かにつながったわけでもなくて。ライブがなければ、曲を作るしかないですからね。バンドをいっぱいやってるから、必然的に作らなくちゃいけないし(笑)。

 

ーーどうなるか分からない以上、それが正論かもしれないですね。では、川谷さんにとって楽曲提供やプロデュースのおもしろさとは?

川谷:その人を知れることかな。いままで接してない人でも、楽曲提供すると自然に詳しくなるし、興味が湧くじゃないですか。その人が新曲を出せば、「どんな曲だろう?」って気になって聴いたり。あとは自分の作った曲を聴いて、僕がやってるバンドの曲に興味を持ってくれるかもしれないし……一番はそれかな。

ーー相手を知れば、曲の方向性も見えてくるんですか?

川谷:そうですね。声を聴けば、自然と曲が頭のなかで再生されるので。もちろんその人がカッコいいかどうか、自分が好きかどうかも大事だし。ただ、僕はプロデューサーではないし、プロデューサーと呼ばれたくもなくて。やっぱりバンドがメインですからね、僕は。

■リリース情報
Kizuna AI×花譜コラボシングル『愛と花』
タイトル:愛と花 -AI edition- / -KAF edition-
発売日:2020年9月23日(水)
アーティスト:Kizuna AI × 花譜
商品番号:KTR-017 / KTR-018
レーベル:KAMITSUBAKI RECORD
価格:¥1,500(税込)
予約URL(BOOTH):愛と花 -AI edition-、愛と花 -KAF edition-

購入はこちら
愛と花 -AI edition-
愛と花 -KAF edition-

<収録曲>
M1「ラブしい」作詞・作曲・編曲:川谷絵音
M2「かりそめ」作詞:ぽん/作曲・編曲:小島英也
M3「ラブしい(Instrumental)」
M4「かりそめ(Instrumental)」
M5「VMZ RADIO」

■関連リンク
ZONe「IMMERSIVE SONG PROJECT」
キズナアイ(公式サイト)
キズナアイ(YouTube)
キズナアイ(Twitter)
花譜(公式サイト)
花譜(YouTube)
花譜(Twitter)

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