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クリープハイプ×ヒップホップのコラボは必然だった? 「愛す(チプルソ Remix)」と原曲の変化から考察

リアルサウンド

20/1/10(金) 21:00

 個人的な話で恐縮だが、昨年、尾崎世界観がTBSラジオ『ACTION』のパーソナリティに選出された際、その流れでインタビューをさせていただいたのだが、その余談として「今みたいにブームになる前に『戦極MC BATTLE』を何回か観に行ったことがある」と聞いて、非常に興味深かった記憶がある。

 もちろん、クリープハイプがアルバム『世界観』に収録された、ラッパーのチプルソをフィーチャリングに招いた「TRUE LOVE」は聴いていたし、尾崎と同世代のBase Ball Bear小出祐介が「バンドをやってなければラッパーになりたかった」と様々なインタビューで話しているように、彼らの世代においてはラップという表現やヒップホップというアートフォームは決して珍しくない。

 しかし、歌詞の上で散見されるライミングや、ボーカル表現の発話など、随所には「ラップ以降」の感触を覚える部分はあるものの、明確にラップ曲として構成された楽曲はクリープハイプには恐らくなく、チプルソとのコラボレーションも、そしてMCバトルの観戦という事実にも(しかも、確か「浦和 CLUB BASE」のような、埼玉の現場だったと話していたような気がするのだが、正確なところは失念)驚かされた。

クリープハイプ – 「愛す」 (MUSIC VIDEO)

 さて本題に入ると、この項ではクリープハイプ「愛す (チプルソ Remix)」について執筆するわけだが、オリジナルバージョンの「愛す」も、上記のように、ライミングで展開される部分も多い。例えば〈ベイビー ダーリン 会いたい/メイビー ダーリン 曖昧〉〈ベイビーダーリン 会いたい/メイビーダーリン あ、今いい〉という、フックでのライムで語調を揃える部分であったり、〈ブス〉と〈バス〉という連携、そして〈君〉と〈黄身〉や〈そば(側)〉と〈蕎麦〉という、同音異義語による意味の乗り換えと転換など、ラップ表現とも近接するワードプレイ的な意匠が散見される。その流れにおいても、リミックスにラッパーであるチプルソを迎えることになんら違和感はなく、必然性を感じさせる。

 そして上記の通り、「愛す」のリミキサーとして招聘されたチプルソ。ライブにおけるMPCやアコースティックギター、ヒューマンビートボックスを駆使し構築したトラックにラップを乗せる“NO DJ 1MC”スタイルでのパフォーマンスや、2010年付近には彼の地元である大阪にて、韻踏合組合が主催する『ENTER』や『戦極MC BATTLE』といったMCバトルでも名を馳せたラッパーである。近年はバトルへの出場は無いが、アルバム『一人宇宙 -起源FREESTYLE-』などの“一人宇宙シリーズ”のリリースや、WARAJIクルー所属のDJ/トラックメイカー:KazBubbleと共にユニット・バブルソを結成し、『Goodbye CABIN』などのアルバムをリリースし、マイペースながらコンスタントなリリースを続けている。また、客演としても韻シスト『STUDIO 韻シスト THE ALBUM』に収録された「HOT COFFEE feat. 鎮座DOPENESS, チプルソ, サッコン & BASI」や、 DJ KRUSH『軌跡』収録の「バック to ザ フューチャー feat. チプルソ」など、印象的な客演作も制作。その中には、先に述べたクリープハイプ「TRUE LOVE」も存在する。

 そして今回の「愛す (チプルソ Remix)」は、尾崎世界観のボーカルを活かしながらも、原曲のドラマティックなアレンジメントよりも、アコースティックギターと打ち込みのドラムを基調にした、シンプルなトラックに再構築されており、より尾崎の歌声とチプルソのラップを立てる構成となっている。

 そのトラックに擦り合わせるように、チプルソのラップは尾崎の提示したリリックを再解釈し、例えば、 〈黄身〉と〈君〉の掛詞のパートを、〈黄身が揺られてるその間/そろそろそういう頃合いか/こないだの喧嘩もそのまんま/溶かしちゃお黄身の事なんか〉、そして〈心ここに無くて 月は溶けて 空はイエロー〉と、尾崎の歌詞を補遺するような展開になっているのも興味深い。

 しかし、そういった拡大解釈はその部分ぐらいで、ほとんどの部分はラップという情報量の多いアートフォームがリミックスで参加する際に起こりがちな、情報を過剰に上乗せしたり、さらに物語を込めてしまうものではない(物語性を注入したり、情報量を増やすこと自体は否定していないので念のため)。

 それよりも、原曲にある〈肩にかけたカバンのねじれた部分がもどかしい〉以降の、尾崎の具象的な情景描写は「愛す(チプルソ Remix)」ではカットされ、それよりも〈トゥルー次の停車場で/トゥルー最高最高〉のように、より抽象度の高い表現をはめ込んでいることが非常に面白く、より糊代の広い“歌詞的”な表現をラッパー側が提示するという構造になっていることに注目したい。同じようにチプルソのラップも、メロディアスなフロウや声質などを通して“チプルソ性”を表現しつつ、同時にオートチューンをかけることで声自体の人格性は弱まり、抽象度が高く、尾崎の提示した世界を高い次元から、客観的に見ながら解釈しているような構成だと感じさせられた。

 その意味でも、再解釈と距離感という、リミックスにおいて重要な要素をしっかりと込めながら、原曲を更にエモーショナルに構築したチプルソの手腕の確かさと、それを引き出した原曲との幸せな関係性を感じさせる好リミックスだ。

■リリース情報
クリープハイプ – 「愛す (チプルソ Remix)」配信サイト一覧はこちら

クリープハイプ『愛す』
2020年1月22日(水)リリース
初回限定盤 ¥2,300(税抜)
通常盤 ¥1,000(税抜)

<初回プレス分封入先行(初回盤・通常盤共通)>
10周年全国ツアー「僕の喜びの8割以上は僕の悲しみの8割以上は僕の苦しみの8割以上はやっぱりクリープハイプで出来てた」スペシャル チケット最終先行予約抽選シリアルナンバー(応募受付期間:1月21日〜1月26日23時59分)

<CD収録曲>
1. 愛す
2. キケンナアソビ

<初回限定盤DVD「2019年11月16日」収録曲>

けだものだもの
グレーマンのせいにする
ボーイズENDガールズ
クリープ
5%
イノチミジカシコイセヨオトメ
私を束ねて
身も蓋もない水槽
二十九、三十

■ツアー情報
クリープハイプ【10周年全国ツアー「僕の喜びの8割以上は僕の悲しみの8割以上は僕の苦しみの8割以上はやっぱりクリープハイプで出来てた」】
10周年記念ツアー特設ページ

<ツアー日程>
2020年2月7日(金) 札幌 Zepp Sapporo
2020年2月15日(土) 仙台 チームスマイル仙台PIT
2020年2月16日(日) 仙台 チームスマイル仙台PIT
2020年2月27日(木) 広島 CLUB QUATTRO
2020年2月28日(金) 広島 CLUB QUATTRO
2020年3月1日(日) 福岡 Zepp Fukuoka
2020年3月6日(金) 名古屋 Zepp Nagoya
2020年3月7日(土) 名古屋 Zepp Nagoya
2020年3月15日(日) 幕張メッセ国際展示場9-11ホール
2020年3月22日(日) 大阪城ホール

■関連リンク
クリープハイプ公式サイト
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