Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

セックスレスの夫婦に“公認不倫”はアリ? 『1122』が問う、“イマドキの夫婦”のリアル

リアルサウンド

20/9/7(月) 9:00

 夫婦をはじめとするパートナー間の悩みとして、当たり前のように“セックスレス”が語られるようになって久しい。そもそもセックスレスとは――日本性科学会は1994年に「特別な事情がないにもかかわらず、カップルの合意した性交あるいはセクシュアル・コンタクトが1カ月以上ないこと」と定義した。ジェクスと日本家族計画協会家族が実施した “性”の大規模実態調査「ジャパン・セックスサーベイ2020」によると、セックスレスの状態にある20歳から49歳の男女は51.9%。同じく日本家族計画協会が実施した「男女の生活と意識に関する調査」によると、男女のセックスレスの割合は2015年で44.6%、2016年で47.2%となっているため、年々増加していることが分かる。

 もちろん、セックスレス=パートナーシップが破綻しているとも言い切れない。性交渉がなくても仲の良い夫婦は存在するし、家族として、もしくは友人のように互いを信頼し合っているカップルもいるだろう。でも、どちらか一方が不満を持っていたら?

 セックスレスだけど、もっとセックスをしたいと思っている男性は81.0%(「ニッポンのセックス」相模ゴム工業/2013年)。女性は47.5%と男女で差はあるが、一方で巷には女性のセックスレスに関する悩みやコンテンツが溢れている。

 夫婦にセックスは必要なのか。そんな課題に対し、とことん冷静に向き合った漫画『1122』が7月20日に発売された7巻をもって完結した。本作は渡辺ペコが2017年から、『月刊モーニングtwo』(講談社)で連載していた夫婦の物語だ。

 主人公の相原一子と夫・二也(おとや)は、結婚7年目にして互いを「いちこちゃん」「おとやん」と呼び合うほどの仲良し夫婦。子どもはいないが、何でも話せる親友のような関係性で、結婚記念日や誕生日は必ず揃ってお祝する。二也は亭主関白とは無縁の性格で、ほぼ毎日定時で帰るし、一子と折り合いが悪い義母にも優しく家事にも積極的。ある意味“イマドキの夫婦”なのだが、相原夫婦には一つだけ変わった習慣がある。

 それは、二也が毎週木曜日に生け花を習いにいくということ。そして、そこで既婚女性・美月と逢瀬を重ね、第3木曜日はお泊りデートをする。一子はそれを了承している上に、二也がお泊りデートの翌日はあからさまに浮かれていても怒らない。いわゆる「婚外恋愛許可制=公認不倫」を夫婦間に設け、2人は互いの性を共有せずにいる。なぜ二也のような理想的な夫が公認とはいえ、夫婦関係を破綻させる原因足り得る不倫をしているのか。

 テレビでは連日著名人の不倫ゴシップが取り沙汰され、厳しい世間の目が向けられている今、結婚しているのに既婚者の美月に恋している二也に嫌悪感を覚える人もいるだろう。けれど、それは一子の何気ない一言がきっかけだった。

 仕事が忙しくなった一子は、どうしてもその気になれず、二也からの夜の誘いを断った。それだけならまだしも、「男性はいろいろあるもんね、風俗とか。それにおとやんってモテなくないっしょ」とあたかも“性欲くらい自分で何とか処理してよ”と言わんばかりの言葉で拒絶。たかがセックス、されどセックス。

 その行為を、ただ自分の欲を満たすためのものではなくコミュニケーションの一環として考えている二也の心を折るには十分の言葉だった。けれど、日本国憲法第24条で<婚姻は、(中略)相互の協力により、維持されなければならない>と規定されているように、関係維持の観点から見れば、双方にメリットがある公認不倫も一つの手だろう。特に複雑な家庭で育った一子にとっては、二也と穏やかに過ごすことが大優先なのだ。

 けれど、人間はそんな簡単に割り切れるものではなく、本作は家庭よりも美月との時間を優先するようになり、婚外恋愛に現を抜かす二也に一子がモヤモヤし始めるところから物語が展開していく。一子は二也からセックスを拒まれ、いつの間にか立場が逆転。悩んだ末に、一子は今話題の“女性用風俗”を利用する。そうして、性の問題を家庭の外へと放り投げた2人は末永く暮らしましたとさ、めでたしめでたし……。とはならないのがこの漫画だ。

お互いのお誕生日のこと楽しみに考えたり からだのこと大事に思って心配したり
食べたり飲んだりおしゃべりも楽しめるのに
いちこちゃんたちはセックスだけとってもむずかしいんだね
――(『1122』/渡辺ペコ)

 夫婦、パートナーとの形は年々多様化している。一子たちのように対等な関係を築いている先鋭的なカップルもいれば、“主人”は外で働き、“嫁”は家庭に入るといった昔ながらの婚姻関係を結ぶ夫婦もいる。それ以前に結婚する・しないも本人たちの自由で、現代ではあえて結婚せず、パートナーとして共に暮らす人たちも増えた。多様化の一方で、SNSを使って他者の生活にアクセスできるが故に、正しい・正しくないという観点で他人、そして自分たちの関係性をジャッジしてしまいがちだ。でもきっと正解なんてどこにも存在せず、どれだけ双方が幸せに暮らせる方法を見つけるか――だと思う。

 一子と二也もブレブレではあるが、最後まで互いが納得できる道を探し続けた。その先にどんな決断を下したのかは、実際に『1122』を読んで確かめてほしい。

■苫とり子
フリーライター/1995年、岡山県出身。中学・高校と芸能事務所で演劇・歌のレッスンを受けていた。現在はエンタメ全般のコラムやイベントのレポートやインタビュー記事を執筆している。Twitter

■書籍情報
『1122』(モーニングKC)7巻完結
著者:渡辺ペコ
出版社:講談社
https://morning.kodansha.co.jp/c/1122.html

新着エッセイ

新着クリエイター人生

水先案内

アプリで読む