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玉川奈々福の 浪花節的ココロ

貴いオロカモノたち~デンスケとマボロシ

毎月連載

第11回

19/10/7(月)

 其れはまだ人々が「 愚 ( おろか ) 」と云う貴い徳を持って居て、世の中が今のように激しく 軋 ( きし ) み合わない時分であった。

 ……大学生のころ。冒頭のこの一行から始まる、絢爛な世界に心を持っていかれました。谷崎潤一郎の初期短編『刺青』。これがずっと胸にありました。

 「それはまだ人々がオロカという、貴い心を持っていたころのお話でございます。日いずるかたの果てに、小さな島国がございました。その国の都の人々は、日々の心のなぐさみに、金魚という赤い魚を、愛でていたのでございます」
 奈々福のオリジナル浪曲『金魚夢幻』の冒頭は、まさに谷崎へのオマージュのような一節で始まります。そう。世の中がおっとりと、おろかでゆるやかできしみあわず、赤い魚などをのんびりと愛でて暮らしていたころのお話。そういう世界を描きたかった。

参考:『刺青・秘密』谷崎潤一郎著(新潮文庫)

金魚づくりに魅せられた人間と、その寵愛をうける金魚の壮大なファンタジー

 都に小さな養魚場を開く、金魚師のデンスケは、数々の見事な金魚を生み出してきたが、稼いだ金をまたぞろ新しい金魚づくりにつぎ込み、借金だらけ。金貸し金兵衛にいつも、次の金魚を品評会に出さなければ、養魚場を差し押さえると脅されている。
 デンスケはかつて、燃えるように赤い和金の「クレナイ」をつくりだし、その金魚に心底ほれ込んだが、クレナイは自由を求めて生け簀を飛び出し、結局土の上に落ちて死んでしまった。
 失意のデンスケの心を救ったのは、クレナイの子の、マボロシ。空に憧れたクレナイの願いがまるで宿ったかのごとき、真っ青な色をした美しい金魚。デンスケはマボロシにほれ込んだ。ところが、ほかの金魚とは似ても似つかない色ゆえに、彼女は生け簀でひどくいじめられ、生きる意味を見失いかけていた。しかし、デンスケから「俺の宝」と言われ、生きる希望を見つける。
 この世界初の青い金魚に目を付けたのが、金貸しの金兵衛。これを品評会に出したなら、借金返済どころか、金魚長者になれると、デンスケから奪い取って、クリスティーズのオークションに出品する。
 マボロシを落札したのは、アラブの油田王。それに従って、遠く中東まで運ばれたマボロシであったが、彼女は毎日デンスケの泣き顔を夢に見た。ことによったら彼になにかあったのではなかろうか……。いてもたってもいられなくなったマボロシは、生け簀で鍛えた尾っぽをひとふり、チグリス川へと飛び込んだ!

 ありえなーーーーーい(笑)! というお話。ファンタジーです。人間と金魚。種を超えまくっての、真心の交流の物語...

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