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『半沢直樹』と『梨泰院クラス』、日本/韓国のヒットドラマで“土下座”を描く背景とは?

リアルサウンド

20/10/8(木) 6:00

 この夏、「土下座」を大きな特徴とする作品が日本中を大いに沸かせた。『半沢直樹』続編(TBS系)と、韓国ドラマの『梨泰院クラス』だ。

 パワハラ防止法も今年6月から施行になった現在では、ますます時代遅れの印象が強いにもかかわららず、「土下座」をさせることが大きなポイントとなる2作が、なぜ人気なのか。2作が描く「土下座」を改めて振り返ってみたい。

「土下座」が“形式美”と化していった『半沢直樹』

 『半沢直樹』の場合、まずは前作で描かれた「土下座」と今作とでは、そのニュアンスが大きく異なる。

 前作では、工場の経営不振にあった半沢直樹(堺雅人)の父(笑福亭鶴瓶)が、大和田(香川照之)にネジの技術力を説明しながら、土下座して融資を請うた。この時点では懇願の土下座だったわけだが、大和田は拒否し、追い詰められた父は自殺。そこから、半沢直樹が銀行の不正に立ち向かう決意をすることになる。

 そんな半沢がまず土下座させた相手は、上司である浅野支店長(石丸幹二)。半沢は浅野から西大阪スチールへの融資を命じられたが、西大阪スチールが粉飾決済で倒産。その責任を押し付けられる。しかし、浅野が5000万円を不正に受け取っていたことを突き止め、見事5億の回収にも成功した半沢は、浅野が約束した通り「土下座」させたのだった。

 しかし、そんな半沢も、大和田に土下座をさせられる。それは、伊勢島ホテルの経営立て直しが絶望的になった際、担当をかえると言う大和田に対し、時間をくれと言い、「誠意を見せろ」ということで要求されたためだった。当然ながら屈辱的行為だが、自分の「目的」のために土下座を選択した半沢の顔は、苦渋というより清々しさを覚えるものでもあった。

 しかし、そこまでの「土下座」の記憶を吹き飛ばすほど強い印象を残したのが、大和田の土下座である。大和田は、ホテルへの融資問題の黒幕であったうえ、妻の経営する会社への迂回融資も行っていたこと。さらに自身が、もじホテル問題の黒幕が自分だとしたら「(土下座なんて)何度でもしてやる!」と宣言してしまっていたため、土下座せざるを得ない状況に追い込まれる。9月29日放送の『華丸大吉&千鳥のテッパンいただきます!』(フジテレビ系)で明かされていた香川照之自身が「どうしてもしたくなかった」という土下座は、反発心からよだれが出るほど歯を食いしばり、ひざをつくまでにもたっぷり数分もかけて行われた。

 だが、この「土下座」が面白すぎたことに加え、時代の変化もあり、続編での「土下座」は、ずいぶん印象が変わっている。

 第4話では、伊佐山(市川猿之介)が大和田を裏切ったうえで、大和田をバカにする意味で「土下座」を7連発し、「土下座野郎」と罵倒。その後、大和田と半沢が共闘したことで、倍返しをくらうも、「誠に、あい~すい~ませんでした~」と、ギリギリ土下座を回避している。

 また、第6話での曾根崎(佃典彦)の「後ずさりの土下座」は、小物感溢れる。笑いを誘うものだった。

 さらに、第9話ラストでは、箕部幹事長(柄本明)の不正にたどり着いた半沢だったが、保管されていた証拠書類を大和田に持ち出され、箕部に返却されてしまっていたことで、逆に土下座を要求されてしまう。そこで、大和田が拒む半沢の手を床につかせ、馬乗りになって背中を押すという珍妙な「親子亀土下座」が登場。しかし、半沢は立ち上がり、土下座を断固拒否していた。

 さらに最終回では、ラスボス・箕部が土下座を要求される展開になるが、志村けんとのコントのような“高速土下座”を披露し、逃げ去っている。正直、そこに謝意があるかは甚だ疑わしい。というか、おそらくないだろう。

『梨泰院クラス』では、前進するための儀式的意味合いを持った「土下座」

 一方、第1話からずっと「理不尽な要求」で何度も主人公が土下座を要求されるのが、韓国ドラマ『梨泰院クラス』である。

 警察官を夢見る、正義感の強い高校生パク・セロイ(パク・ソジュン)は、転校初日に、クラスメイトがいじめられているのを、見て見ぬフリができず、制止する。そこからケンカになってしまうが、セロイが殴ったいじめっ子は、街の権力者で、セロイの父が勤める外食産業最大手の長家(チャンガ)の会長、チャン・テヒ(ユ・ジェミョン)の長男、グニョン(アン・ボヒョン)だった。

 学校は街の権力者である長家会長の言いなりで、そこでセロイは土下座を要求されるが、謝罪する理由はないとして、きっぱり拒否。父はそんな息子を誇らしいと言ってくれたが、自身は仕事をやめ、セロイは退学になる。

 しかも、理不尽にもそれが長家と戦いの始まりだった。心機一転、店を開くことにしたセロイの父だが、グニョンの運転していた車にひかれ、命を落とす。しかも、それを知った父・長家会長がお金で解決してしまう。

 ある日、グニョンのせいで父が亡くなったことを知ったセロイがグニョンに殴りかかり、結果、殺人未遂の罪で服役することに。そこでもセロイは、長家会長に土下座を要求されるが、やはり拒否する。

 服役中に長家への復讐を誓い、いつか長家会長に「土下座」をさせるために地道な勉強と準備・努力を重ねるセロイ。しかし、その後も何度も何度も長家の圧倒的権力・経済力・卑怯な手段により追い詰められ、また立ち上がり……という日々が繰り返される。

 正直、なぜイイ年した男、しかも外食産業最大手の会長ともあろう人間が、ここまで一青年の「土下座」にこだわるのかは理解に苦しむほどではある。

 しかし、ある意味孤独で、誰も信じず、頼れず、常に「力」だけですべてをねじ伏せてきた権力者にとって、それに屈することのない若者・セロイは得体の知れない脅威を感じる存在だったのだろう。

 セロイもまた、真っすぐすぎて、青すぎるために、形式的・表面的な「土下座」を受け入れることができない。それは命を奪われた父のためでもあり、自身の意地と誇りのためでもあった。

 しかし、壮大な時間を費やしてきた復讐劇の最終目標であった「土下座」が、終盤にあっさりと実現する。それは、仕事の大事なパートナーであり、いつしか愛する人にもなっていた女性・イソを会長の息子に拉致されたことにより、その所在を聞き出すための「土下座」だった。

 父の死をめぐる復讐と自身の誇りのために、どんな不幸な目に遭い続けても決して受け入れることができなかった「土下座」を、大切なものを守るもののために選択したセロイ。その是非はともかく、それは彼が大人になることへの「通過儀礼」でもあった。

 さらに、そこに意味を見出さなくなった以上、セロイが最終目標としてきた長家会長の没落による「土下座」もまた、何の意味もないものに変わっている。

エンタメで「土下座」を求める背景

 改めて、「土下座」とは一体何なのか。2作が人気を得たのは、本来「弱者」である者が巨大な権力に立ち向かい、復讐を遂げる「下剋上」をわかりやすくカタチにするものが「土下座」であったからだろう。

 しかし、そもそも土下座を見て必ずしもスッキリするかというと、そうでもないという呟きもSNSでは見られる。やはりそこには「パワハラ」を思わせる不快感も漂うためだろう。
だからこそ、『梨泰院クラス』では、「土下座」を巡って結ばれてきた悪縁が、後に次に行くための、恨みを手放すための儀式的意味合いに変わる。むしろこの場合、「土下座」によって解き放たれたのは、セロイの方だったように見える。

 また、『半沢直樹』続編における「土下座」では、相手に謝意があるかどうかはともかくとして(本当はそれが肝心なのだが)、一番受け入れがたい屈辱を与えたという事実によって視聴者が溜飲を下げるための儀式になっている点は変わらない。

 しかし、前作と異なり、寸止めが繰り返されたり、珍妙なバリエーションができたりと、土下座そのものがまるでプロレス技を披露するような「形式美」と化していった点は大きな変化だろう。だからこそ、前作に比べて続編では土下座に悲壮感がなく、視聴者はそれをエンタメとして容赦なく楽しむことができたのだろう。

 そして、わざわざ儀式化、エンタメ化してまでも「土下座」を求める心情には、残念ながら世の中に対する鬱憤・不満が影響しているはずだ。

 不都合なことに対しては「記憶にない」ととぼけ、「大変遺憾」と他人事のように語り、説明はスルーし、謝罪なのかどうかわからない言葉を述べ、なんならブログで説明して終了というのが、現実の世界だ。

 それを「エンタメ」というパッケージの中での爽快感に求めざるを得ない現状を考えると、少々複雑な心境でもある。

■田幸和歌子
出版社、広告制作会社を経てフリーランスのライターに。主な著書に『KinKiKids おわりなき道』『Hey!Say!JUMP 9つのトビラが開くとき』(ともにアールズ出版)、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)などがある。

■配信情報
日曜劇場『半沢直樹』
Paraviにて全話配信中
出演:堺雅人、上戸彩、及川光博、片岡愛之助、賀来賢人、今田美桜、池田成志、山崎銀之丞、土田英生、戸次重幸、井上芳雄、南野陽子、古田新太、井川遥、尾上松也、市川猿之助、北大路欣也(特別出演)、香川照之、江口のりこ、筒井道隆、柄本明
演出:福澤克雄、田中健太、松木彩
原作:池井戸潤『ロスジェネの逆襲』『銀翼のイカロス』(ダイヤモンド社)、『半沢直樹3 ロスジェネの逆襲』『半沢直樹4 銀翼のイカロス』(講談社文庫)
脚本:丑尾健太郎ほか
プロデューサー:伊與田英徳、川嶋龍太郎、青山貴洋
製作著作:TBS
(c)TBS

『梨泰院クラス』
Netflixにて配信中
出演:パク・ソジュン、キム・ダミ、ユ・ジェミョン ほか
原作・制作:キム・ソンユン、チョ・ガンジン

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