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『ハリー・ポッターと賢者の石』が夢想させる“ここではないどこか” 当時の熱狂を振り返る

リアルサウンド

20/10/23(金) 8:00

 『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』が公開間もなくとんでもない観客動員数、興行収入を叩き出しているが、今から約20年前、同じように小中学生を中心に皆がその上映を心待ちにした作品があった。そう、10月23日の『金曜ロードSHOW!』(日本テレビ系)で放送される『ハリー・ポッターと賢者の石』だ。

 アラサーの筆者は小学生の頃に原作本が流行り、中学生の頃に映画館に足を運んだのを覚えている。辞書のように分厚く、ところどころ太字、かつフォントサイズが大きくなるあの独特な書式までいまだにはっきりと思い出せる。少しでも早くその結末が知りたくて、本当に徹夜して読み耽った思い出の作品だ。普段全く読書から縁遠い、ゲームや漫画派だったクラスメイトたちもこぞって貪り読んでいた記憶があるので、同世代にはこの作品が初めてのちゃんとした読書体験という人も少なくないのではないだろうか。

 この『ハリー・ポッター』シリーズ小説7作は、世界200か国79言語に翻訳され、全発行部数は4億5000万冊を超える全世界的ベストセラーとなった。そして映画は8本と長編シリーズ化され(ちなみに本作のスピンオフ作品である『ファンタスティック・ビースト』シリーズは全5作の公開が予定されており、第2弾までが公開済みだ)、今回の『賢者の石』は記念すべき1作目となる。

 当時、本の中で広がるホグワーツ魔法魔術学校やダンブルドア校長先生がどう映像化されるのか、アミューズメントパークに行くかのような心持ちで、はやる気持ちを抑えながらスクリーンに向かった。入学準備のためにグッズを買い揃える市場には特に感激し、見事に再現された世界観に度肝を抜かされた。

 そもそも本作の設定には、子どもの頃に誰しもが一度は望んだことがあるだろう願望が見事に反映されている。家庭にも居場所がなくいじめられっ子のハリーが、実は魔法界では“とっておきの存在”で、誰もが自分のことを歓迎してくれる。“ここではないどこかへ行きたい”、“自分は特別な存在だと信じたい”、“今いる世界以外に自分が輝ける場所がきっとあるはず”そんな思いを叶えてくれるストーリーは、多感な時期にある少年少女の心を掴んだはずだ。

 実際、本作の著者J・K・ローリングは執筆当時、生活保護を受けていたシングルマザーで、極貧生活の中一杯のコーヒーで粘って物語を書き進めたという誕生秘話がある。どんなに実際の生活が苦しく、希望が見えなくとも、想像力というものはたくましく創作はいつだって自由で何にも囚われず羽ばたいていけるのだ。

 当時の著者の境遇を思うと、本作内で出てくる魔法の数々はきっと自身の置かれている状況を束の間忘れさせてくれただろうし、ハリーが仲間たちと力を合わせて敵と対峙し、何より自身に打ち勝っていく姿に原作者自身がきっと鼓舞され励まされていたのではないだろうか。だからこそ、本シリーズは単なる魔法使いの御伽噺に終わらず、たくさんの示唆と教訓を含み、多くの人を勇気づけこの世界観に引き込むのだろう。

 1作目では、ハリーが会う人会う人に両親を亡くした理由として「名前を呼んではいけないあの人(=ヴォルデモート卿)」の存在を聞かされ、その詳細な姿が全く明かされていない中にあってもその絶対悪や気味悪さが際立ち、よりベールに包まれた畏怖の対象としての存在感が植え付けられる。怪しい人物が現れるも、実際には意外な人物がヴォルデモート卿の内通者で、ハリーとの対峙シーンではいよいよ因縁の対決の幕開けとなる。この闘いが一筋縄にはいかず、すぐに決着のつくものではないことを印象付ける。

 また、本作は1シリーズごとに1年間の学校生活が描かれている。1作目を観終わる頃には我々もホグワーツでの年間恒例行事を一通り体験し終え、さも自身もそこに通う学生の1人かのような気持ちを味わえるのも楽しいところだ。1作目でハリーの生い立ち、ホグワーツでの学校生活や習慣、ヴォルデモート卿との関係性、そして友人関係、特徴的な先生陣などを全項目抑えられたところで、これからまだまだ続くハリーとの次なる冒険に向けてもう胸を弾ませている自分がいることに気付いてしまうのだ。

■楳田 佳香
元出版社勤務。現在都内OL時々ライター業。三度の飯より映画・ドラマが好きで劇場鑑賞映画本数は年間約100本。Twitter

■放送情報
『ハリー・ポッターと賢者の石』
日本テレビ系にて、10月23日(金)21:00〜23:24放送
※放送枠30分拡大
原作:J・K・ローリング
監督・製作総指揮:クリス・コロンバス
出演:ダニエル・ラドクリフ、ルパート・グリント、エマ・ワトソン、リチャード・ハリス、マギー・スミス、アラン・リックマン、トム・フェルトン
TM & (c)2001 Warner Bros. Ent. , Harry Potter Publishing Rights (c) J.K.R.

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