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大島渚賞に輝いた小田香監督、新作『セノーテ』では神秘の泉の世界へ

ぴあ

20/9/17(木) 18:00

小田香監督

『サタンタンゴ』などで知られるハンガリーの巨匠、タル・べーラ監督が後進育成のため設立した映画学校「film.factory」で学び、卒業制作として作られた初長編映画『鉱 ARAGANE』が世界各国で高い評価を受けた小田香監督。その長編デビュー作では鉱山の地下奥深くへと分け入った小田監督だが、新作『セノーテ』では一転、水中へとカメラを向けている。

『セノーテ』とは、メキシコ、ユカタン半島に点在する洞窟内の泉のこと。ここはかつてマヤ文明の時代、唯一の水源であり、雨乞いのために生贄が捧げられたと言い伝えられる。マヤの人々には、現世と黄泉の世界を結ぶ場所と信じられていたという。ここは、映画学校の同級生から教えられたそうだ。

「サラエボでの学校生活が終わりを迎えつつあるころ、メキシコ人の学友から誘われたんです。こういう泉があるから『来てみては?』と。

それで1年間ぐらい、関連の書物を読んだりしてできる範囲で調べて、1年後、実際に現地へ行ってリサーチをしてみることにしました。現地ではさまざまなセノーテを回って、現地の人たちにいろいろな話をききました。テストでカメラも回していたのですが、セノーテで暮らすマヤにルーツをもつ人々の顔がすごく印象に残りました。また、日本に戻ってきて少し映像をまとめたんですけど、それをみたときにもう少し掘り下げたい気持ちが出てきました。

そこで、もっとプロジェクトとして続けたい、何年か続けて現地を撮影したら映画になるかもなと思って、本格的に取り組もうと心に決めた気がします」

そこから小田監督はあまり泳ぎが得意ではないにもかかわらず、泉の撮影を想定してダイビングのライセンスを取ったりと下準備を整え、2年ほどの間に3度の現地撮影を敢行。

完成した作品は、神秘の泉の底へとカメラが入っていく。その一方で、現地で生きる人々のポートレイト的な顔の映像や、マヤ演劇のセリフやマヤ語、現地の環境音を採収。そうした映像や音声が混然一体となってこちらへ届いたとき、滅亡したマヤ文明の苦難の歴史やマヤの人々の文化、セノーテという泉に広がる世界がわかに浮かびあがってくる。

小田監督自身は現地でどんなことを感じていたのだろうか?

「セノーテによってかなり違います。神聖さを感じるところは、やはり水の中へ潜らずに水面を浮いているだけでもひとりでいると、なにか起きるんじゃないかと、畏れを感じる瞬間がある。

一方で、もう入場料をとって、更衣室やシャワールームを用意して遊べる観光地化されたセノーテもある。そういうところはもう泉というよりは、プールみたいでしたね」

また、小田監督の目からみて、現地の人にとってどういう場所に映ったのだろう。

「ひじょうに生活に近い場所ですね。井戸として使っているところもあるし、暑い地域ですから、現地の人たちの水浴び場のようにもなっている。ですから、現地の人にとってはひとつの公共の場。実際、管理は現地の彼らがしている。洞窟ですから、場所によってはけっこう下らないと泉まで着かないのですが、その間のはしごとかは彼らが管理している。

ただ、その一方で少数ですけど何割かの人にとってはいまもまだ神聖な場所で。近寄ってはいけないと考えている人もけっこういらっしゃる。

生活に密着した場でもあるけれども、自分たちにとってルーツや文化を感じさせる場所でもあるように私の目には映りました」

このようにまだ見ぬ世界を飛び回って、そこでの発見や体験を作品にしているように映る小田監督。ただ、『セノーテ』の公開に先駆けて開催された『小田香特集』で上映された初監督作品の『ノイズが言うには』や、『あの優しさへ』では、自分自身という人間を深く見つめ、探究してもいる。

「『ノイズが言うには』に関していうと、自分という人間に対して向き合わなければいけない時期であった。それで自分の心の葛藤にアプローチしたんですけど、このときは映像や映画、記録することの可能性や危うさをまだ自分でもよくわかっていなかった。そのことを後悔はしていないんですけど、もうちょっとうまいやり方があっただろうと今も思う。確かに家族を特に母親を傷つけたことは間違いなくて、しこりが残ることになってしまった。

そのあと、(タル・)ベーラのもとで学ぶことになるんですけど、このころは自分が興味をのもったものを撮影しようという方向に意識が変わったんですね。それでまず『鉱 ARAGANE』が生まれた。

ただ、日本に戻ってきて、これからも映画制作を続けていきたいと思ったとき、『ノイズが言うには』できちんと整理できなかったことの後始末をつけたいと思った。それでできたのが『あの優しさへ』で。いまは正直なことをいうと、『ノイズが言うには』のころに抱いていた、自分がセクシャル・マイノリティであるといった個人的な葛藤はない。『あの優しさへ』で整理することができた。なので、いまは自分の心の内ではなく、外に目が向いています。ただ、日々、わたし自身、生活しているので、10年に1回かどうかわからないですけど、なにか葛藤は出てくるかもしれない。ですから、そういう自分の内面に迫るような作品を今後も作る可能性はないとは言えないでしょうね。

ただ、自分の中では、自分の内面を探究することも、知らない世界へ行って、その未知の領域を知ることも、作品作りにおいてはあまり違いないといいますか。両極にはあるんですけど、断絶しているものではない。わたし自身が見たものを体感したことを作品にするという点においてはつながっていると考えています」

前作の『鉱 ARAGANE』も、今回の『セノーテ』も自らカメラを廻している。撮影に関してはこんなことを常に考えているという。

「私は風景を撮っていても、人の気配を撮っていると思っています。なので、今回だったら、自然の風景でも昔は人が住んでいたとか、そう感じたところを撮っている。逆を言えば、自然の中に、人間の気配のようなものを感じないときは撮りません。

あと、なにかを説明するために(カメラを)廻すことはないです。たとえば、こういうショットが必要だから撮っておくということはない。あくまで自分の心が動いたときだけしかカメラは廻さないです」

撮影も自らこなすが、編集も自分で手掛ける。この選択もまたこういう考えからきている。

「人に任せられたら楽なんだろうなとは思います(笑)。任せてみて、どうなるかをみてみたい気持ちもないわけではないです。

ただ、現時点では自分でやらないとダメですね。というのも、なぜ、このショットを撮ったのか考える作業は、やはり自分でしないといけない。私自身、撮影しているときそこまできちんとわかっていない、このショットを撮った動機や理由が、編集の中で浮かび上がってくることがある。ショットの持っているリズムやイメージで見えてくるものがある。その探し物は自分でしないといけない。だから、いまのところ自分でやるのがベストだと思っています」

作品はロッテルダム国際映画祭や山形国際ドキュメンタリー映画祭に正式出品され、高い評価を得た。また今年3月には、世界に羽ばたく新たな才能を育てるために新設された第一回大島渚賞を受賞。審査員長の坂本龍一らに絶賛された。

「大島渚賞は思ってもいない受賞といいますか。大島渚監督という世界的な映画監督の賞をいただくことになるとは夢にも思っていませんでした。いま、この賞の重みをひしひしと感じています。

ただ、そう感じる一方で、あまりプレッシャーを自分に与えないようにとは思っていて。大島さんの名に恥じぬようとか、ここ数年でなにかしらの結果を出さないととかはあまり考えないようにしたいなと。

それより10年、20年と映画作りを継続していくことで、『小田でよかった』と思ってもらえたらなと思っています。それぐらい長い目で見てもらえたらなと思っています。

あまり目先のことを考えず、自分のスタイルを変えることなくマイペースで活動していけたらと思っています」

その大島渚賞では、タル・ベーラからメッセージが寄せられ、「あなたと出会う幸運に恵まれたこと、それは私の人生のひとつの贈り物でした」「映画を作ることとは何か、それをあなたはよくわかっていました」「我が道を行きなさい」と最大級の賛辞を送っている。彼から学んだ1番のことはなんだろうか?

「film.factoryでは、現在の第一線で活躍するフィルムメイカーが講師として来てくれて、そのバックグラウンドを私たちと共有してくれました。でも、ひとりひとり、その作品へのアプローチも違えば手法も違う。映画作りにはルールもなければ正解もない。

結局、自分で実際にやってみて、自分で失敗して学んで、その中で、自分の映画言語であり映画文法を見つけていくしかない。それは誰かに教えられることではない。自分で探し出すしかない。

ベーラは『シェルター』になるといって、なんにでも相談にマンツーマンでのってくれました。ただ、自分の映画作りということに関しては、教えることではない、『自分で考えてみつけるしかない』と。film.factoryでの日々は、そのことに気づかせてくれる時間と場所を提供してくれたんだなと今振り返ると思います。

結果、自分にとっての映画作りを『鉱 ARAGANE』でまだおぼろげながら見つけることができた。今回の『セノーテ』は、それをきちんと確認できた気がします」

『セノーテ』
9月19日(土) 新宿K’s cinemaにてロードショー、全国順次公開

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