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『グランメゾン東京』“フレンチの鬼門”に挑戦 三ツ星の流儀と木村拓哉が抱く料理の哲学

リアルサウンド

19/12/23(月) 6:10

 12月22日に放送された『グランメゾン東京』(TBS系)第10話で、尾花(木村拓哉)たちは三ツ星獲得に向けてコース料理のリニューアルに取り組む。

参考:『グランメゾン東京』 で天才を追いかける「努力の人」に 玉森裕太の“静かな演技派”としての実力

 メニュー開発の大きな力になったのはゴーストシェフとして加入した祥平(玉森裕太)。ゴーストシェフとは、ナッツ混入事件の真相が明らかになったことで料理の世界を追われた祥平をグランメゾン東京に迎え入れるための秘策だった。倫子(鈴木京香)や相沢(及川光博)はエスコフィユ閉店のきっかけを作った祥平を許すことができず、怒りの矛先を真実を黙っていた尾花にも向ける。またリンダ(冨永愛)も執ように祥平の足どりを追っていた。

 一方、スーシェフの祥平がいなくなったgakuで丹後(尾上菊之助)は従業員の信望を失い、新メニュー創作にも手を焼いていた。その様子を見たオーナーの江藤(手塚とおる)は非情な通告を突きつける。祥平の存在が店の内外に波紋を呼ぶ中で、尾花はメインディッシュの食材をキジバトに絞り込み、祥平とともに試行錯誤を繰り返していた。

 最終回目前の第10話では三ツ星の流儀が明らかになった。ミシュランによる星獲得の基準は「素材の質」、「料理技術の高さ」、「独創性」など5項目。それまでに星の付いていない店の場合、調査員の審査を3回経なければならない。なかでも三ツ星を得る最後の審査は、スターセレクションのメンバー全員の合意が必要。つまり、グランメゾン東京の場合、最低でも3回は調査員を迎えなければならず、スターセレクションのメンバーと顔見知りのリンダを敵に回すことは可能な限り避けたいところ。しかし、尾花たちは「キジバトのドゥミ・アンクルート」のリンダへのサーブを、レシピを考案した祥平にまかせる。

 尾花たちの行動は、料理に対する独自の哲学に裏打ちされている。『グランメゾン東京』には、放送当初から、主人公のもとに個性豊かな仲間が集結するアニメやロールプレイングゲームを連想する趣旨の感想が寄せられていた。たしかに、天才料理人・尾花を中心にドリームチームを思わせる顔ぶれは、倫子が「すごい仲間に恵まれている」と言い、京野(沢村一樹)が「最高のチーム」と自負するだけあって、見ているだけでワクワクするような一芸の持ち主がそろっている。ただ、それだけだと通りいっぺんのヒーロードラマで終わってしまうところ、物語に深さを与えているのは、各話で丁寧に描かれたそれぞれが抱えるバックグラウンドだった。

 尾花はナッツ混入事件で「日本の恥」と呼ばれ、京野はエスコフィユ解散によって借金を負っていた。倫子には星を獲得できなかった挫折が原点にあり、相沢は愛娘と離ればなれに暮らす日々だ。萌絵(吉谷彩子)や芹田(寛一郎)も、自身の未熟さから間違いを犯しそうになった過去がある。不格好と言えばそうかもしれないが、生きていく上で避けがたく負ってしまう傷やダメージを隠すのではなく、あくまで受け止めながら三ツ星を目指す姿には、栄光と挫折の両方を経験した者が持つオーラがにじみ出ていた。

 尾花たちがつくる料理にはそのことが端的に表れている。素材の長所を引き出すというグランメゾン東京のポリシーには、尾花たちの人としてのあり方が自然なスパイスとして調合されている。その根底にあるのは料理に対する妥協しない姿勢であり、「人は味によってつながることができる」という確信にも似た思いではないだろうか。だからこそ、尾花たちは“世界一のフーディー”であるリンダにあえて祥平をぶつけたのだ。

 この点で、gakuのオーナーである江藤と尾花たちの間には大きな隔たりがある。江藤にとって料理の味は三ツ星を獲る手段でしかなく、料理人もそのための道具にすぎない。第10話では両者の差が如実に出ていた。とはいえ、ミシュランの審査を前にリンダから辛らつな評価を受け、グランメゾン東京が厳しい状況であることに変わりはなく、このままでは三ツ星はおろか掲載されずに終わる可能性もある。三ツ星を手にできなければ、グランメゾン東京はエスコフィユと同じ運命をたどるおそれもある中、尾花たちはフレンチの“鬼門”マグロ料理を完成することができるのだろうか。

■石河コウヘイ
エンタメライター、「じっちゃんの名にかけて」。東京辺境で音楽やドラマについての文章を書いています。

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