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年末企画:今祥枝の「2019年 年間ベスト海外ドラマTOP10」 キーワードは“内省”と“再認識”

リアルサウンド

19/12/28(土) 10:00

 リアルサウンド映画部のレギュラー執筆陣が、年末まで日替わりで発表する2019年の年間ベスト企画。映画、国内ドラマ、海外ドラマ、アニメの4つのカテゴリーに加え、今年輝いた俳優・女優たちも紹介。海外ドラマの場合は2019年に日本で放送・配信された作品(シーズン2なども含む)の中から、執筆者が独自の観点で10作品をセレクト。第14回の選者は映画・海外ドラマライターの今祥枝。(編集部)

1.『チェルノブイリ』(スターチャンネルEX)
2.『マインドハンター シーズン2』(Netflix)
3.『キリング・イヴ シーズン1&2』(WOWOW)
4.『ザ・モーニングショー』(Apple TV+)
5.『POSE シーズン1』(FOX ネットワークス)
6.『アンビリーバブル たった1つの真実』(Netflix)
7.『フリーバッグ シーズン2』(Amazon Prime Video)
8.『ユーフォリア』(スターチャンネルEX)
9.『DEUCE/ポルノストリート シーズン2』(スターチャンネルEX)
10.『ザ・グッド・ファイト シーズン3』(Amazon Prime Video)

 編集部の規定に加えて、自分のルールとしては該当シーズンは全話視聴済みの作品から選んだ。ドキュメンタリーは秀作が多いし見たいと思わせる作品も多いのだが、いかんせんマイリストに追加したままの作品が多くて残念。

参考:各作品詳細はこちらから

 2019年は現在のピークTV時代が次のフェーズへと移行した年だったと思う。個人的には真に革新的な作品が誕生し得たという意味で2017年が実質上のピークで、現在は質のピークを保ったまま作品数は増え続け、拡張を続けているといった印象。きちんと見ればどれもそれなりによくできている良作が量産される時代に、MCUシリーズやNetflix映画をめぐる論争もありつつ、改めて自分はTV作品に何を求めるのか、どんな題材に興味を抱き、何を評価するのかといったことを自問自答する一年だった。意識して見るようにしていたのは韓国やインド、その他非英語圏の新作。ここはまだ攻略しきれていません。

 今回のベスト10を選ぶにあたり、20本から絞り込む過程でふと気付いたのは内省と再認識をキーワードとして語ることができる作品が多かったこと。図らずも#MeToo運動やトランプ政権の誕生以降、急速に社会のあれやこれやがアップデートされていく中で、改めて自分の価値観と向き合い、一つ一つを再認識していく作業とリンクするものがあることに思い至った。よって最終的にその視点で10本を選んだ。圧倒的に自分が面白いと思った作品を並べてみたらそうだったという話なので、あくまでも結果論ですが。

 個人的に#MeToo運動以来、ハリウッドのエスタブリッシュメントの中から聞かれた「知らなかった」発言にずっと割り切れない思いを抱いていたが、『ザ・モーニングショー』はそうしたグレーゾーンへの突っ込み全開で前のめりで見た。その追求からは当然ながら女性も免れることはない、というかそこが肝。そしてセクハラとパワハラが密接に結びつくことの問題の難しさは、どこまで突き詰めてもグレーの部分があることもまた現実なのだと思い知らされた。序盤のもたつきなど完成度としては難ありなところもある。だが、必ずしも答えの出ていない問題について、作り手の思考過程を共有し、視聴者も自問自答を繰り返しながらエピソードやシーズンを重ねていくことができるのは、TVシリーズの醍醐味の一つだと思う。同種の番組の代表格として筆者は『ザ・グッド・ファイト』の愛好家。徹底して”持てる者”の葛藤を描くクリエイターのロバート・キング、ミシェル・キング夫妻の作品には気づかされることが多い。こうしたリベラル(自由主義)的価値観に対するカウンターと再認識は『ウォッチメン』(2020年1月よりスターチャンネルで放送開始)でも炸裂している。

 『アンビリーバブル たった1つの真実』もまた、#MeTooのその先の議論に踏み込んでいた。女性刑事同士の連帯が超かっこいいという爽快さもありつつ、権力を公使できる職業にある人間は職場を離れてもDVやモラハラなどの確率が高いこと、それは女性でも例外ではないことを明確に伝えている点が優れていた。自分より弱い者に対する暴力や支配欲といったテーマは『マインドハンター シーズン2』にも『POSE シーズン1』にも通じる。前者はシーズン2ではっきりと凶悪犯罪者たちが雄弁に語る姿に現代性を見ることができた。それは『ジョーカー』や『アメリカン・クライム・ストーリー ヴェルサーチ暗殺』などにも通じるものがあると思っている。後者は多くの人々が女性、黒人と一括りで語られることに否を唱えてきたように、LGBTQ、トランスジェンダー、セクシャルマイノリティなどといったラベリングから、今一度人間は一人一人が異なる個であることを思い出させてくれる。何よりこれほどまでに意義があって正しいメッセージを伝えていながら抜群に娯楽度が高い点に、やっぱりライアン・マーフィーは凄いなと思う。

 『キリング・イヴ シーズン1&2』『フリーバッグ シーズン2』はひと昔前ならまず通らなかった企画だろう。前者は企画がGOになっても白人女性二人だったかもしれないが、改めてアジア系が云々なんてことはもう意義として語る必要もない時代なのだと思った。作品を見ればサンドラ・オーはサンドラ・オーだからいいんだ! というキャスティングでしかないのだから(私はヴィラネルを偏愛派)。フリーバッグはシーズン1の時についに「クズだけど憎めないし共感できる普通の女性」が市民権を得た! と喝采したが、シーズン2は一歩進んだ迷えるアラサーの姿を見せてくれた。強いとか美しいとかアンチヒロインだとかいろいろあるけど、”男性キャラ並みの多様性”を目指した女性キャラの変遷を長年見続けてきて、こうした作品における女性性を肯定したキャラクターに本当の意味でどんな女性像もアリな時代になったのかなと思う。

 『DEUCE/ポルノストリート シーズン2』は本国でも弾けきらなかったのが残念だが、ポルノ産業で生き抜く女性像としてマギー・ギレンホール演じるキャンディがいかに素晴らしいかは記しておきたい。娯楽作品におけるエロもバイオレンスも正しい状況で制作されるなら楽しいものだ。もとよりHBOの作品は高い料金設定によるゾーニングを理由とした過激表現がウリなのだから。でもやるならその先にあるものを描いてくれないと。“コンプライアンスをぶっ壊す”ことそのものに送り手が満足しているような作品には閉口してしまう。『ユーフォリア』も不完全な作品だが、完成度の高い作品がわんさとあるピークTV時代の今こそそこに引かれた。『13の理由 シーズン1』に死ぬほど共感して泣いた私は、『ユーフォリア』によってZ世代が絶望するこの世界を作ったのは誰なのかを考えざるを得なかった。

 『チェルノブイリ』の凄さについて今更語ることもないだろうか。語り尽くされた題材を今映像化することで浮き彫りになる、作り手たちの内省と問題提起からの視聴者の再認識を促す意義は計り知れない。映画『Fukushima 50』は、そういう意味では何を見せてくれるだろうか? ぜひ見比べてみて欲しいなと思う。

 最後に。個人的に『ゲーム・オブ・スローンズ』『レギオン』『アメリカン・ホラー・ストーリー』はシリーズ全体として殿堂入り。最後まで残した10本は、『ホームカミング』『グッド・オーメンズ』『キャッスルロック』『ザ・クラウン シーズン3』『DARK シーズン2』『サバイバー:60日間の大統領』『After Life/アフター・ライフ』『クリミナル』『キングダム』『ロシアン・ドール』。(文=今祥枝)

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