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山下達郎が映画番組に初出演、人生の1本「人情紙風船」4Kデジタル修復版を語る

ナタリー

山下達郎(撮影:菊地英二)

山中貞雄の監督作「人情紙風船(4Kデジタル修復版)」が、7月4日に日本映画専門チャンネルでテレビ初放送。このたび本作を「人生の1本」と公言するシンガーソングライターの山下達郎が、本編終了後の解説に登場することが発表された。映画ナタリーでは本日5月25日に東京都内で行われた番組収録の模様をお届けする。

1937年に公開された「人情紙風船」は、江戸時代の貧乏長屋に暮らす庶民たちの姿を描いた時代劇。 同じ長屋に住む髪結と浪人という2人の男を軸に、軽妙な喜劇とほの暗い悲劇がからみ合う1作だ。わずか28歳で戦病死し、夭折の天才と語り継がれる山中の遺作として知られている。

「日曜邦画劇場」の20周年、1000回記念として放送される本作。山下いわく映画番組に出演するのは今回が初めて。番組には収録の模様を収めた静止画と声で登場し、劇場支配人を務めるアナウンサーの軽部真一とトークを繰り広げる。普段テレビ番組に出演しない山下は、20周年への祝いの言葉を述べつつ、出演の理由を「1000回で『人情紙風船』を取り上げるということなので、これはもう来なきゃいけないなと思いました」と明かす。収録には、公開時の宣伝や映画評が載っている私物のキネマ旬報を持参するほどの偏愛ぶりを見せた。

山下と「人情紙風船」の出会いは、1980年代までさかのぼる。きっかけは、雑誌に連載されていた映画評論家・蓮實重彦によるエッセイだったそう。「日本映画は好きだったんですが、戦前のものを観る機会はほとんどなかった。たまたまレンタルビデオ屋に行ったら置いてあったんです。何気なしに借りて観ました」と振り返り、そのときの印象を「30代で観た映画で最高のインパクト。カルチャーショックだった」と語る。それまで観てきた戦後日本映画の「どこか教訓めいた終わり」に引っかかりを感じていたという山下は「『人情紙風船』にはそういうものが一切ない。『これこそが僕が観たかった映画だ』と。それから数年間、戦前の日本映画に没入していきました。毎晩観てましたね」と回想。その後「人情紙風船」に関しては、自宅での鑑賞はもちろん、名画座などで上映されるたびに足を運んでいるという。

「人情紙風船」の物語は、長屋での首吊り自殺から始まり、浪人と妻の心中で終わる。陰惨な始まりと終わりだが、鑑賞後に残るのは悲劇的な印象だけではない。山下は「人間の肯定とペシミズムのバランスがうまい。善悪や喜怒哀楽だけではない人間の複雑さ。それらの間のニュアンスを見る目が、非常に的確かつ明確だと思います」と語る。また「泣く映画ではないです。もっと深いところで人が生きること死ぬこと、明るさや暗さ、優しさや厳しさ、そういうことを問いかけてくる。自分自身が見つめられる映画」と続けた。

山中の現存する監督作は「人情紙風船」のほか「丹下左膳餘話 百萬両の壷」「河内山宗俊」のみ。戦前の日本映画は現存しているものが少なく、仮に鑑賞できたとしてもフィルムが劣化しているケースが多いのが現状だ。そんな中で山中の3本は、2020年に4Kデジタル修復が行われ、美しい映像としてよみがえった。山下は「本当に素晴らしいです。ほとんどニュープリントに近い状態。(画面の)遠くのものも鮮明に見える。公開当時にご覧になった方々はこんな感じで観ていたのかと。封切り当時の世界が体験できるのはすごい」と話す。また「1人でも多くの方にご覧になっていただいて、戦前の日本の映画文化、発展途上における映画文化がいかに情熱的だったかが伝われば」と推薦した。

そのほか収録では本編と脚本のストーリーの相違点や、山下が端役まで出演者の顔と名前を一致させようとした苦労話、親戚が目撃したという「人情紙風船」封切り時の映画館、映画鑑賞による音楽へのインスピレーションなどに関する話題も。トークの全容はオンエアで確認してほしい。

「人情紙風船(4Kデジタル修復版)」は2Kダウンコンバートにて放送。

人情紙風船(4Kデジタル修復版)

日本映画専門チャンネル 2021年7月4日(日)21:00~
<本編終了後の解説>
山下達郎 / 軽部真一(劇場支配人)

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