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アダム・サンドラーはなぜ再び成功を収めることができたのか? Netflixとのコラボから紐解く

リアルサウンド

20/6/3(水) 8:00

 利用者を増やし、めざましく躍進している動画配信業界。新型コロナウイルスによる自粛の影響もあり、日本も定額の配信サービスに加入する人が増えてきている。映画作品が、いつでも好きなときに鑑賞でき、そこに加入していなければ観ることのできない作品も多くなってきている。

参考:編集部の週末オススメ番外編 『アンカット・ダイヤモンド』で感じる、痛切なリアリティ

 配信業界が登り調子の風潮のなかで、その波に乗り最も成功したといわれる俳優が、アダム・サンドラーだ。一時期はアメリカでトップクラスに稼いでいながら、近年の出演作が低調で、その存在が希薄になりつつあったサンドラーだが、Netflix作品に立て続けに出演し、またしても映画業界の最前線で注目を浴びる存在へと返り咲いたのだ。

 とはいえ、日本では彼のことを「どんな俳優だったっけ?」と思う人も少なくないだろう。ここでは、そんなアダム・サンドラーを紹介しながら、なぜ彼が配信業界で再び成功を収めることができたのかを探っていきたい。

 日本でアダム・サンドラーの知名度がいまいち低いというのは、彼がコメディー俳優だということが関係しているだろう。サンドラーがアメリカの人気コメディー番組『サタデー・ナイト・ライブ』から人気を得たように、日本でもよく知られる、ロビン・ウィリアムズ、トム・ハンクス、エディ・マーフィーのような、コメディアン出身俳優は、シリアスな演技やアクション描写のあるヒット作品に出演することで人気を高めていった部分がある。それに対し、サンドラーは多くが、文化的な知識がなければ最大限に楽しみづらい、純粋なコメディー作品への出演によってキャリアを積んできた。だから、アメリカと日本で人気の差があるのは当然といえる。日本でのヒットのチャンスがあった大作『ピクセル』(2015年)の不振というのもあった。

 アメリカではサンドラーは、90年代より『ウェディング・シンガー』(1998年)などのヒット作を連発し続け、1999年には自身の製作会社“ハッピー・マディソン・プロダクション”を立ち上げることで、2000年代に『50回目のファースト・キス』(2004年)などのヒット作にも恵まれて、俳優の収入ランキング上位に何度も顔を出すようになる。俳優のギャラだけでなく、製作も自身が行うことで、自身の望む作品づくりを実現させ、より多くの利益を得るということは、俳優のみならず、業界で力を持つ映画人のたどる成功のプロセスといえるだろう。

 コメディアンとしての才能が突出しているサンドラーは、脚本や企画も作れるタイプの、クリエイティブな作家型俳優である。機知に富んだ、ときに過激な内容の笑いを自分で考え、自分で演じることで、その魅力はダイレクトに観客に伝わる。そんな創造性が、俳優としてのキャラクターを超えて愛されるようになった理由だといえよう。

 しかし、絶大な人気を誇ったアメリカでも、その後次第に衰えが見え始める。40代も半ばを過ぎると、いままでのような“面白いお兄さん”というサンドラーのイメージは崩れてきた。コメディーに特化することがサンドラーの強みであったはずが、その特性と立場によって、スター映画の二番手、三番手あたりに収まる“味のある演技派”という安定したポストに収まることができず、人気があるがゆえに若手の台頭などで激烈な戦いを繰り広げる最前線にとどまり続けた部分があった。同時に、ファンも同様に年齢を重ねたことで、仲間と一緒に映画館でコメディーを楽しもうとする観客が減少したという事情もありそうだ。

 しかし、Netflixとの出会いが、そんなサンドラーの突破口を開くことになる。ここで、2020年1月に発表された、Netflixメディアセンターによるネット記事の一文を紹介したい。

「サンドラ―が、さらなる笑いの旋風を巻き起こす」

 アダム・サンドラーは、Netflix映画『マーダー・ミステリー』で人気を博したばかりだが、Netflixは、そのサンドラーとハッピー・マディソン・プロダクションによる4本の製作映画を新たに配信するべく、契約の延長を決定した。サンドラ―はNetflixの視聴者に愛されていて、『リディキュラス・シックス』の配信が開始された2015年から現在まで、サンドラー作品の総再生時間は20億時間にもなる。

 この文章や、2020年以降も4本もの新作を契約したという事実から、サンドラーのNetflixでの成功ぶりがうかがえる。定額制のNetflixでは、再生回数や再生時間によってヒットが判断されるが、そのなかでサンドラーは堂々と勝利を勝ち取ったのだ。しかし、なぜサンドラーの人気がここで盛り返したのだろうか。

 その大きな理由に、定額制サービスによる配信という形態が、コメディー作品と相性が良かったという点が挙げられるだろう。家でリラックスしているとき、「ちょっと軽い映画でも観てリフレッシュしたい」と思うことはないだろうか。そんな気分で軽く選択できるものとして、アダム・サンドラー作品があった。

 『マーダー・ミステリー』は、日本の2時間ドラマに酷似した、コメディ風の旅情サスペンスで、はっきり言うと“たわいもない”内容の映画だ。しかし、家でリラックスするのには、このくらいの気軽さが好まれたのだろう。映画館にわざわざ行ってまで観たいかというと疑問があるが、日本の視聴者だけでなく世界的にも、この手の作品を、家にいるとみんなが“なんとなく観てしまう”のだ。

 くわえて、かつて『フレンズ』などの大ヒットドラマで絶大な人気を誇ったジェニファー・アニストンと共演したというのも大きかった。これは、サンドラーのコメディーを観てきた40代以上の視聴者の嗜好を狙った、意図的なキャスティングであろう。かくしてサンドラーは、遊ぶために家から出なくなったファンを再び自分のものにすることに成功したのである。

 だが、それだけではなかった。この機に乗じて、サンドラーは挑戦的な作品における演技派俳優としての方向に、本格的に乗り出してもいる。その一つが、『マリッジ・ストーリー』(2019年)のノア・バームバック監督のファミリー映画『マイヤーウィッツ家の人々(改訂版)』(2017年)である。

 この作品では、ダスティン・ホフマンが演じる偏屈なアーティストの老人に翻弄される息子や娘たち、周囲の人々の心情を、ニューヨークを舞台に描き出している。サンドラーとベン・スティラーが兄弟役なので、両者のコメディー風演技は大きな見どころとなってはいるが、その根底には登場人物たちの鬱屈したコンプレックスや過去のトラウマが存在しており、単純に笑えるようなものにはなっていない。ノア・バームバック作品は、家族を題材に心をえぐるようなテーマを設定し、観客の気持ちを深いところで揺さぶってくる。

 そしてもう一つ、俳優としての新しい挑戦が際立ったのが『アンカット・ダイヤモンド』(2019年)だった。監督のサフディ兄弟は、気鋭の犯罪映画で注目を浴びるクリエイターだ。ここでサンドラーは、これまでのようなナイスガイや気のいいダメ男ではなく、金を儲けるためにあらゆる手段を講じる意地汚い人物を演じている。複数の人物から金品を借り、それを使って自転車操業を繰り返しながら、口だけで一攫千金を狙う姿は、いままでのサンドラーのキャラクターを良い意味で破壊し、表現の幅を大きく広げることにつながった。

 この作品は、アーティスティックな映画作品を手がけることで台風の目となっているA24との共同配給作品だったことにも注目したい。さらに同時期に撮られたと見られる、大道芸人を題材に、タイムズスクエアでゲリラ撮影されたサフディ兄弟の短編“GOLDMAN v SILVERMAN”でも、サンドラーはアーティスティックな演出のなかでいきいきと鬼気迫る演技を見せている。

 分かりやすいコメディー作品を継続しながらも、このように、“笑えないコメディー”や、気鋭の犯罪映画などの斬新なジャンルにも挑戦することで、もともとクリエイティブだったサンドラーの能力は、俳優として、これまで以上に研ぎ澄まされているように感じられる。このことで、サンドラーは往年の俳優として、そして新しい俳優として認知されることになった。それを可能にしたのがNetflixやA24などの新興勢力だったのだ。そこでは、これまでの配給会社ではなかなか実現できなかった斬新な企画が受け入れられやすい。創造性のある映画人にとって、その才能を発揮できる場が増えつつあるのである。その恩恵を受け、羽ばたいたのが、アダム・サンドラーだったのである。

 先日、NBAのスカウトが主人公のNetflix映画『Hustle(原題)』で、サンドラーが新たに主演および製作を担当することが発表された。監督は、サンダンス映画祭で『We the Animals(原題)』が『ムーンライト』(2016年)と比較され注目された、やはり新鋭。そこで再びアダム・サンドラーの能力が最大限に発揮される瞬間を、楽しみに待ちたい。(小野寺系)

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