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『ドクター・スリープ』はサイキック・アクションの良作!  カタルシス溢れる決着を観よ

リアルサウンド

20/4/18(土) 12:00

 結論から書くと、『ドクター・スリープ』(2019年)はサイキック・アクションの良作だ。そして『シャイニング』の40年越し(!)の続編として理想的な形でもある。監督・脚本を務めたマイク・フラナガンは、その卓越した手腕で過去作のファンに最大限の愛を払いながら、初めて観る人でも楽しめるように作品を仕上げた。

【写真】ヴィランが襲いかかる 『ドクター・スリープ』本編映像

 前作『シャイニング』(1980年)にて悪霊が宿ったホテルと、イカレたジャック・ニコルソンことジャック・トランスの魔手から、辛くも逃げ切った少年ダニー・トランス。しかし、あのホテルの悪霊たちはダニーへのストーキング行為を続けていた。怯えて生きるダニー少年だったが、ある日、彼の前に死んだはずの“超能力”=“シャイニング”の使い手ハロラン(クリフ・カーティス)の霊が現れる。そしてハロランはダニーに、シャイニング能力者として悪霊との戦い方を教えるのだった。かくして悪霊を封印する術を身に付けたダニー少年だったが、いろいろあった末に酒に溺れる不良中年になってしまう。ダニー(ユアン・マクレガー)は何とか自分を変えたいと思い、アルコール中毒の克服に挑む。一方その頃、シャイニングの力を吸う不死の軍団“トゥルー・ノット”が、強いシャイニング能力を持つ少女アブラ(カイリー・カラン)を殺そうと計画する。自分がトゥルー・ノットの標的になったと気づいたアブラは、シャイニング能力で心が通じ合ったダニーに助けを求めるのだった。

 そもそも前作『シャイニング』は、非常に複雑な背景を持つ映画である。冬のホテルで仕事をしていたジャック・ニコルソンが、いよいよ気が狂って妻と子供を殺そうとする。斧でドアをブチ破り、裂け目からガンギマリの顔で「お客さんだよ!(おコンバンハ!)」それが『シャイニング』である……と、こう書いてしまってあまり問題ないが、問題ないのが大問題なのだ。なぜなら“現代ホラー小説界の帝王”ことスティーヴン・キングが書いた原作は、映画と大きく異なるのだから。

 「気の狂ったお父さんが襲って来る」という結果は同じだが、そこに至るまでの過程が映画と原作では大きく違う。原作はホテルに宿る悪霊がお父さんを狂わせるのだが、映画版は、悪霊よりも仕事や日常生活のプレッシャーでブッ壊れたように見えるし、なんならホテルに着く前から狂っているようにも見える。もちろん有名な大流血エレベーターや全裸おばあちゃん、青いドレスの双子の幽霊など、ファンタジックな要素はあるが、いかんせんニコルソンのクレイジー演技の印象が強すぎるうえ、結末も原作と異なるので、ほとんど別物といってよい仕上がりになったのだ。

 当然キングはこの改変を非難したが、ここでもう一つ問題が起きる。原作者のキングがボコボコにいった映画版が、熱狂的に受け入れられたのだ。それこそジャック・ニコルソンが斧で扉をブチ破るシーンが現在まで語り継がれているのが証拠だろう。何せ手がけたのはスタンリー・キューブリックである。こちらはこちらで映画史に残る偉人だ。2人の巨匠が作り上げた『シャイニング』はポップカルチャーの礎の1つとなった。ただし悲劇的だったのは、キングとキューブリックでは趣味が決定的に違ったこと、そして仲たがいをしたことだ。

 このように複雑な背景を持つ『シャイニング』なので、続編にはいろいろな要素が求められる。しかし、そこは才人マイク・フラナガン。キング/キューブリック、両サイドのファンが納得するツボを突きつつ、見事な仕事をやってのけた。本作の印象をざっくり表現するなら「キングの意向をしっかりと汲んで、映画『シャイニング』の続編を作った」という感じだろうか。大筋は原作小説『ドクター・スリープ』にならって、超能力バトルものに振り切り、ほとんどヒーロー映画のオリジンのようだ。「『シャイニング』って、ホテルで狂った人や悪霊に襲われるホラーでしょう?」と思っていると「『X-MEN』みたいなのが始まった!?」と面食らうかもしれない。レベッカ・ファーガソン演じる悪の能力者“ローズ・ザ・ハット”がギュ~ンと空高く飛び上がり、シャイニング能力者同士で意識内への潜入合戦を繰り広げるのだから。こうしたハッタリ満載の超能力バトルが炸裂させつつ、しかし一方で、本作はキューブリックの『シャイニング』を無かったことにはしない。クライマックスの舞台は、誰もが知っている例のホテルで、もちろん悪霊たちもアッセンブル! そしてキングが書いた原作版『ドクター・スリープ』とも違うし、キューブリックが存命でも作らなかったであろう、カタルシス溢れる決着を観る。

 本作は続編なので、もちろん『シャイニング』を観ておくに越したことはないが、超能力者同士のバトルや、キング印の濃いキャラクター、そして映画史上に残る狂った父親を持ってしまったダニーの葛藤など、単体の映画としても楽しめる要素が盛り沢山だ。そして本作が楽しめたなら、是非とも前作『シャイニング』か、キングの原作にも触れてほしい。きっと「キューブリック、やりたい放題やな」「キングはブレないわぁ」「これをまとめたマイク・フラナガンって凄いな」といった、驚きや感動があるはずだ。本作がキューブリックか、キングか、フラナガンか、ともかく優れた作家たちの世界への入口として、非常にバランスのよい1本であることは間違いないだろう。

(加藤よしき)

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