Chara+YUKI、“無敵のふたり”が鳴らす音楽ならではの魅力　自由で刺激的な『echo』から紐解く

20/3/14(土) 12:00

　1999年に「愛の火 3つオレンジ」をリリースして以来となるChara+YUKIの20年ぶりの再始動というニュースはたちまち話題となり、2月14日にリリースされたミニアルバム『echo』に先がけて配信されたシングル曲「楽しい蹴伸び」では、ふたりの遊び心に満ちた甘いハーモニーを軽やかに踊れるアーバンポップに乗せて、その期待に大きく応えてくれた。そして『echo』はこの20年、共にポップの最前線でクリエイティブな活動を続けてきたCharaとYUKIによる奇跡的なコラボから生まれた音楽の尊さと、ふたりのミュージシャンとして響き合う関係性が聴こえてくる、実に自由で刺激的な作品に仕上がっていた。リリースからちょうど１カ月が経ち、『echo』のサブスク・ストリーミング配信もスタートした今、あらためて２人の音楽の魅力を紐解いてみたい。

　そもそもChara+YUKIというふたりの活動が始まった1999年。Charaはすでに1991年のデビューからソロアーティストとして、作詞・作曲のみならずアレンジやサウンドプロデュースにいたるまで携わりながら「やさしい気持ち」（1997年）などのヒット曲を次々と生み出し、YEN TOWN BAND名義の活動でも注目を集めていた。一方、YUKIは1993年にJUDY AND MARYのボーカリストとしてメジャーデビューし、日本を代表するロックバンドのポップアイコンとして活動してきた。しかし1999年当時はJUDY AND MARYが活動休止期間に入っており、そんな中でYUKIはバンド以外の表現の場として佐久間正英やB-52’sのケイト・ピアソンらと組んだNinaや、Chara+YUKIを結成。2001年には、CharaとYUKIがツインドラムというユニークな編成でのバンド、Mean Machineの活動もあった。YUKIは2002年から本格的なソロ活動を始めるが、それまでバンド経験しかなかった彼女は当時を振り返って「ソロになる前にMean MachineやChara+YUKIをやったんですけど、そのレコーディングやミックスの現場でCharaから学んだことも多かったです」と語っていた。YUKIはソロの先輩であるCharaの制作現場での振る舞いから様々なことを吸収したようだ。そしてChara+YUKIでは「愛の火 3つオレンジ」という唯一無二の感性で奏で合う、かけがえのない化学反応を生み出しながら、それきり20年の時を経た。

Chara+YUKI 『愛の火 3つオレンジ』（1999.11.26 Release）

　再びChara+YUKIでの活動が始まるなんて、そんな嬉しいニュースはそれぞれの熱心なファンでさえ夢にも思っていなかっただろう。でも1999年に生まれたあの1曲は序章にすぎなかったのだ。この20年の間に、CharaもYUKIもその時々で自らの心のままに様々な音楽性とアイデアで作品を生み出し活動を続けてきた。ふたりの色んなタイミングと波が上手く重なったのが今、2020年。Charaがアルバム『Baby Bump』をリリースした2018年の年末にインタビューした時、こんな風に語っていたことを思い出す。「今は一周以上まわって、音楽にいつも恋してる無敵な状態。行き詰まるなんて嫌だし、曲作りやクリエイトすることに対してそういう風になっちゃう人はやめちゃいな、と思うくらい（笑）。もちろん崖っぷちに追い込むようなやり方もあると思うんだけど、そうじゃない無敵感が、私に限らず長年やっている人は出るんだと思います」。そしてその後に「YUKIとかもそうでしょう？　まだ言えないけど、ちょっと今また一緒にやってるんだよね〜」とチャーミングに笑った（その後、それは翌年2019年2月にリリースされたYUKIのアルバム『forme』でCharaとコラボした「24hours」のことだと判明したが、まさかChara+YUKIにまで発展しているとは！）。YUKIも、メロディを聴いていたら言葉が浮かんですぐに歌詞を書き上げてしまった、なんてエピソードをインタビューでよく語っているし、そんな風に音楽を楽しみ続けるYUKIのことをCharaも同じミュージシャンとしてシンパシーを感じ、信頼しているのだろう。

　ミニアルバム『echo』の制作においては、Charaがサウンドプロデュースを、YUKIがリリックプロデュースを担当。Charaは日頃から頻繁にライブハウスへ足を運び、そんな中で出会った新進気鋭のミュージシャンから大御所クリエイターまで曲ごとに多くのアーティストとコラボしながら自らがイメージするサウンドを形にするのが得意だし、YUKIは様々な作家が出掛けた楽曲からイメージを膨らませて言葉を紡ぎ出すのが得意。キャリアも実力も人気もある無敵のふたりが、Chara+YUKIではより得意とすることを分担作業で行うのだから最強だ。

　今作1曲目は「愛の火 3つオレンジ」（2020version）。止まっていた時が再び動き始めるような気高きテーマソングとして、今の声とサウンドを吹き込み、2020年にふさわしいブリリアントなポップナンバーとして生まれ変わった。特に最後に加えられたラップのようなパートには思わず笑みがこぼれてしまうほどピースフルな空気が漂っている。Seihoがサウンドプロデュースを手がけた2曲目の「You!You!You!」と、大沢伸一が作曲／サウンドプロデュースを手がけた3曲目「ひとりかもねむ」の流れでは、中毒性の高いダンスチューンの連打にChara+YUKIならではの自由度の高さと大胆さを感じる。

　ポップであることと、感性のままを自由に音楽にすること。これは時に共存させることが難しいのだけれど、CharaとYUKIがタッグを組めばそれが叶うのだ。何故か、それは彼女たちが長い間、その時々の気分を生々しく音楽に反映させながらも、ポップシーンでタフに活動してきたからだし、今やそれを意識したりバランスを取ったりしなくても（Charaの言葉を借りると）“愛と勇敢さ”に溢れたポップミュージックを生み出すことができるから。そしてそれ以上に、このふたりのコラボの面白いところは、CharaはYUKIがいるからこそテクノポップやヒップホップなども取り入れた突き抜けたダンスチューンを手がけることができたし、YUKIはCharaがいるからこそいつも以上に感覚的でユーモアに満ちた言葉を伸び伸びとそのトラックに放つことができていること。YUKIは「楽しい蹴伸び」で〈新しい水着に気づいて〉というフレーズをCharaに歌ってもらいたくて書いたと語っていたが、そんな想いのやり取りが極上の聴き心地を生んでいる。そして7曲目「Night Track」から聞こえる「なんかCharaと踊りたいんだよね」という言葉もラフな感触で、聴いている私たちもゆったりとしたビートに誘われて踊りたくなってくる。「私たちなら大丈夫」ーーきっと、そんな自信があるからこそ楽しげでリラックス感があって、なおかつ新たなポップミュージックたちがこんなに生まれたのだろう。

Chara+YUKI 『楽しい蹴伸び』

　ミニアルバムの最後に収録されているのはタイトルチューンの「echo」。新曲の中では唯一のChara+YUKIによる作詞で、Charaはアコースティックギターとキーボード、YUKIがドラムを担当している。まるでどちらかの部屋で自然にセッションが始まったみたいな、温かさや手触りみたいなものを感じさせるサウンドで、Charaの声とYUKIの声が優しく響き合う。そこに歌われているのは、ふたりが音楽に向き合う時の真髄のような、虹色に光る大切なメッセージ。20年ぶりに訪れた奇跡のようなChara+YUKIの幸福で刺激的な季節を今、思う存分に楽しんで共鳴したい。

■上野三樹
音楽ライター。現在は『ROCKIN’ON JAPAN』『音楽と人』『月刊ピアノ』『anan』『音楽ナタリー』などで執筆中。子供は春から幼稚園の年中さん。愛しい娘との毎日も楽しいのですが、育児と両立しながら働く中であらためて「私ってほんとに仕事が好きなんだなー！」と実感しています。ウェブサイト「YUMECO RECORDS」主宰。ブログ「愛されジョーズ」更新中。