春日太一 実は洋画が好き
“いいオヤジ”ぶりが観たくて何度も観た『星の王子ニューヨークへ行く』
毎月連載
第19回
『星の王子ニューヨークへ行く』 Original Soundtrak Albam Available on ATCO Revords, Cassettes and Compact Discs TM & Copyright (C) 1988 By Paramount Pictures Corporation. All Rights Reserved.TM, (R) & Copyright (C) 2013 by Paramount Pictures. All Rights Reserved.
この連載は、過去に観た映画についての「楽しかった記憶」をたどりながら書いている。その際に当該作品は必ず改めて観ているのだが、そうしながら「ああ、そういえばこんなこともあった」と新たに思い出すことも多々ある。
前回の原稿のために『ロックアップ』を久しぶりに観た時もそうだった。
スタローン扮する主人公の囚人と絡む看守役をジョン・エイモスが演じているのだが、「そういえば、この俳優のこと大好きだったなあ」という記憶がよみがえったのだ。
厳つい面相に大きな体躯、一見すると融通の利かない恐ろしい人間か──と思わせつつ、その実は裏側からなんともいえない人情味がにじみ出る。そんな、「下町の頑固オヤジ」的な昔気質なテイストが好きで、ジョン・エイモスが画面に出てくるとワクワクした。
『ロックアップ』を観ながらそんなことを考えているうちに、はたと思った。いや、『ロックアップ』以上にジョン・エイモスがジョン・エイモスらしく魅力的だった作品があったはずだ……と。
そしてたどり着いたのが、『星の王子ニューヨークへ行く』だった。
アフリカの王国で何不自由なく育った王子(エディ・マーフィ)が、全て人任せの生活に嫌気が差し、「せめて妻は自分で見つけたい」とニューヨークへ旅立つという物語。世間知らずの王子がニューヨークの貧しい下町で奮闘する様が、コミカルに描かれている。
この作品、とにかく何度も観た。といって、特別に大好きだったわけではない。なぜだかフジテレビの「ゴールデン洋画劇場」でよく放送されており、その度に観ていたのだ。
もちろん、何度観ても飽きないくらい、作品として面白かったことも確かだ。
エディ・マーフィの王子と、その付き人を演じるアーセニオ・ホールの漫才のようなやりとり。下町での生活の全てを刺激的なものとして目を輝かせる王子の純粋さ。下町の人々のキャラクター性(しかもほぼ全役をエディ・マーフィが演じ分けている)。そして、王子の恋模様。
これぞエンタテインメント!……といえるような楽しさが、どこを切り取っても満ち溢れていた。
そして何より、ジョン・エイモス。彼は王子がバイトすることになるハンバーガー店の店長役。店長は、王子が見初めた女性の父親でもある。
面倒見がよく、娘想いの人情家。背筋をしゃんと伸ばし、穏やかな笑顔を絶やさない。それでいて商売にはシビア……そんなジョン・エイモスの醸す叩き上げ感が、この店長のキャラクターに抜群のリアリティを与えていた。
しかも、ただ一徹なだけでなく、王子の正体が分かってからの手のひらの返しぶり、国王への謙りぶりのコミカルさも最高。
でも、娘を国王に侮辱された時は一転してきちんと食って掛かる。この時の頼りがいある毅然とした感じもたまらない。
この“いいオヤジ”ぶりが観たくて、この作品を何度も観ていたのだ。
関連情報
『星の王子ニューヨークへ行く』
Blu-ray: 1,886 円+税/DVD: 1,429 円+税
発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント
Original Soundtrak Albam Available on ATCO Revords, Cassettes and Compact Discs TM & Copyright (C) 1988 By Paramount Pictures Corporation. All Rights Reserved.TM, (R) & Copyright (C) 2013 by Paramount Pictures. All Rights Reserved.
プロフィール
春日太一(かすが・たいち)
1977年、東京都生まれ。映画史・時代劇研究家。著書に『天才 勝新太郎』『仁義なき日本沈没―東宝VS.東映の戦後サバイバル』『仲代達矢が語る 日本映画黄金時代』など多数。近著に『泥沼スクリーン これまで観てきた映画のこと』(文藝春秋)がある。