w-inds. 橘慶太×Hiroki対談【後編】 DJとポップスで異なる、ダンスミュージック制作の視点
21/1/16(土) 12:00
w-inds.のメンバーであり、作詞・作曲・プロデュースからレコーディングにも関わるクリエイターとして活躍中の橘慶太。KEITA名義でも積極的な音楽活動を行っている彼がコンポーザー/プロデューサー/トラックメイカーらと「楽曲制作」について語り合う対談連載「composer’s session」。第7回はSLAY名義でDJ活動も行うトラックメイカー/プロデューサーのHirokiとの対談を前後編にてお送りする。
後編となる今回は、正解がないからこそ新たな創作意欲が湧き続けるトラックメイカーならではの面白さ、二人がサウンドに圧倒されたという2020年のベストトラックなどについて語り合ってもらった。(編集部)
コライトで学んだ柔軟さが広げるトラックメイクの幅
橘:EXILEの「RED PHOENIX」を聴いた時、想像以上に仕上がりがEXILEだったからビックリした。HirokiがEXILEの曲を作るって言った時に正直、「EXILEの曲をHirokiがやったらEXILEじゃないじゃん」と思ったんだよね。
Hiroki:どうなると思ったんですか(笑)?
橘:いや、EXILEが曲のイメージを変えるのかなと。Hirokiの普段のトラックみたいな感じでいくのかと思ったら、しっかりEXILEのサウンドになっていて。このカメレオン性というか、どこにでも馴染める才能というか、そこがHirokiのすごいところだよね。
Hiroki:でもそこはSHOKICHIさんのトップラインがあるから、しっかりEXILEっぽさが出てるんでしょうね。トラック単体で聴くというより全体で聴くと、落ちメロのところとか特に「めっちゃEXILEっぽいな」と思いますし。やっぱり本人たちが曲作りに関わるとそうなるというか。
橘:確かに。その色と融合してすごくかっこいい曲になったよね。ちょっとあれは感動したなぁ。あと、LDHってメンバーが作った曲でもコンペで決めるのがいいよね。
Hiroki:めちゃくちゃよくないですか? 一昔前だとダンス&ボーカルグループは与えられた曲を歌うのが当たり前でしたけど、LDHはちゃんとこだわりをもって音楽と向き合っている。例えばSHOKICHIさんだったら、何人かのチームで自分の考えたトップラインで何週間もかけて作業をして、コンペに他の作家と一緒に出して決めてもらっていて。そういうスタイルが確立されていて素晴らしいなと。
橘:男らしいというか、とても清いと思う。Hirokiは他にもコライトする機会が多いと思うんだけど、コライトから学んだことってありますか?
Hiroki:日本人の特に僕らより上の年代の人は、自分のスタイルが固まっちゃってるじゃないですか。人によりますけど「いや、俺らはこれ1人でできるから」みたいな。そういう考え方だとあまり吸収力がない感じがするんですけど、最近の子はみんなで作ることに慣れているから柔軟ですよね。
橘:その柔軟さはやっぱりコライトには大切だよね。
Hiroki:そうなんですよ。一人で全部ってなると相当難しいし。
橘:でも、自分だけでも作っているよね。
Hiroki:難しさはありつつも、なんだかんだ自分でやりたい気持ちもある。それでいいものができたときの喜びを知っているから。
橘:自分の理想に近いほうが気持ちいいからね。人に「こうしたほうがいいよ」って言われたらどうしてる? やってみても明らかによくないって思う時ない?
Hiroki:あります。もちろん試しますよ。試して聴き比べてもらって元に戻すこともあるけど、コライトの場合はだいたいが多数決なので。
橘:じゃあ妥協することも?
Hiroki:めちゃくちゃあります。でも「こっちのほうが絶対かっこいいじゃん」って思っていても、みんなが「いや、このほうが明るくていいじゃん」ということであれば「じゃあ、いっか」と納得できるというか。
橘:それが正解な気もしてくるっていうかね。確かにそれはあるなぁ。そういえば今ってDJはやってる?
Hiroki:一昨年は1年間DJをやったんですけど、コロナが落ち着いたらまた日本でもやりたいなと思ってます。
橘:いいね!
Hiroki:やっぱりお客さんの前でプレイするのは楽しい。自分の曲でみんなが盛り上がったらすごく優越感に浸れるというのもあるので(笑)。またやりたいですね。
橘:DJも1年で覚えたんでしょ? 本当に何でもすぐ覚えるよね。最初ポップスも全然作れなかったのに。
Hiroki:そうですね。全然ダメでした(笑)。
橘:全然作れなかったけど、知識を少し入れただけですぐ作れるようになった。すごいんですよ、本当に。この男はすぐ作れるようになるから。「泥棒」って呼んでください(笑)。
Hiroki:(笑)。僕のことを知っている人からすると、ゴリゴリの曲ばっかりやっている印象があると思うんですよ。実際Afrojackの<WALL UP>というレーベルから出している曲もゴリゴリな感じのものしかなかったので。でも結構エモい感じも好きなんですよね。それこそボーカルチョップがあるとか、そういう感じが好きで。これから提供曲でやるなら、そういうテイストの曲もいっぱいやりたいなって思っていますね。
橘:僕の知り合いのエンジニアも「Hirokiくんすごいよね」って言ってたり、すごく周囲の評価が高いんですよ。あまりにもみんな褒めるから、そろそろちょっとやだな、友達やめたいな……っていうのは冗談で、本当にあなたの才能は素晴らしいです。
どこまでも正解がないのがトラックメイカーの宿命
Hiroki:KT(橘)ってゴリゴリなダンスミュージックってあんまり作らないですよね。「Get Down」はそっち寄りのサウンドではあるけど、上手くやってるなって思った。
橘:そう、あれぐらいが限界(笑)。俺がやるゴリゴリは、あれぐらいが一番の理想かな。どうしてもポップスにしたい部分はあるから。自分が歌うっていうのもそうだし、歌を入れて成立させたいというのはあるかな。でもさ、例えば俺がダブステップ作ってDJやってたら嫌じゃない?
Hiroki:(笑)。1回くらいDJやってるところは見てみたいな。
橘:それはよく言われる。
Hiroki:3、4年前とか、もっとDJ全盛期の時だったらいけたんじゃないかなと思いますけどね。
橘:俺も昔本当に一瞬悩んだんだよね。トラックを作り始めたきっかけが、ブルーノ・マーズのライブを見にいった時に「どんなに頑張ってもこの人を歌で抜くことは無理だ」と思ったことで。だとしたら自分の歌が世界に通用するわけないと思ったんです。考えたあげく歌は生まれつきの喉の才能でもあるから、トラックだったら世界と同じサウンドを俺も出せる。トラックメイクだったら世界と同じレベルに行けるんじゃないかなというのが一番最初の動機なんだよね。
Hiroki:それは何年前ですか?
橘:7年前くらいかな。その時にDJもガッと盛り上がってきていて。「俺もDJになって、トラックが良ければ世界でライブできるかな」って本気で思った時期があった(笑)。冗談抜きで、マジで歌を辞めてがっつり頑張ってみようかなと思ったこともあったんだけど、さすがにそれは応援してくれている人たちにも失礼だし、日本でそういう考えをわかってくれる人って当時は誰もいなくて。海外だと何十億とかものすごいビジネスになったけど、日本でもそうなるとは言えなかったしね。そういうのもあって夢は途絶えたよね。
Hiroki:でもDJはDJでダンスミュージックを作るのってめちゃくちゃ難しくないですか? 気を付けるところがたくさんあるし。
橘:そうかな? 俺はポップスのほうが難しいっていうか、ダンスミュージックのほうが簡単だと思っちゃうんだよね。
Hiroki:マジっすか。まずノれなきゃだめじゃないですか。それを作りだすのにすごく緻密な……。
橘:わかるよ。細かいビートとかグルーヴとか。
Hiroki:キックのキーがあったり、サブの出方とか、「上音がかっこいいけどノれない」みたいなこともあるし。
橘:究極言うとビートがかっこよければダンスってノれると思わない? でも、ポップスはメロディも歌詞もよくなきゃいけない。俺はそのほうが大変で、思いっきりかっこいいトラックの方が作りやすいかな。
Hiroki:自分で歌もやってるから、そこを計算するとそうなるのか。
橘:そうそう。いい歌、理想の形にするまでにすごく時間がかかるし。歌詞とトップラインのハマりとか、韻の踏み方とか。
Hiroki:それこそ「Beautiful Now」は前に聴かせてもらったものより、やっぱり完成したものを聴くとめっちゃよくなったなって思いました。
橘:それ、もうちょっと大きな声で言ってもらっていいですか(笑)。
Hiroki:でも文章になるからね(笑)。
橘:(笑)。いや、でもあの曲はめちゃくちゃ悩んで。歌詞の語尾とか発声とかもめちゃくちゃ考えたから。だからポップスは大変。トラックは1日あればたいていできる。メロディとか歌詞とか歌録りとか、全部しっかりやろうとしたら1週間ぐらいかかる。
Hiroki:じゃあ、トップラインや歌詞の時が一番悩むんですね。
橘:Hirokiは制作のどこで悩む?
Hiroki:それこそ1日でできちゃう時は、大体間違いなくいいものになるんだよね。それが3~4日かかったり、ちょっと途中でやめてまたやろう……ってなると、どんどん負のループになる。あれってなんなんでしょうね。もうそうなったら止めてイチから作ればいいんだけど。気になり始めたら、もういろいろなところが気になっちゃいますから。「別にこれでいいじゃん」と思う人がいっぱいいたとしても、自分の中にあるリファレンス、想像しているいいサウンドまで達していなかったら嫌なんですよ。
橘:作り始める時にどういう曲を作るかのリファレンスはなんとなくあるの?
Hiroki:あります。そのサウンドの鳴りを聴いて、なんでこれがかっこいいのか、このボーカルチョップがいいのか、キックがいいのかとかを考えながらイメージしていきます。KTはこれまで自分が作ってきた曲で完璧に納得いったことってありますか?
橘:完璧はないかもな。でも例えば、今「Dirty Talk」っていう前に作ったニュージャックスウィングの曲を聴くと、めっちゃいいと思ったりはする。あの時よりも今の方がよく聴こえるんだよね。作ってる時は何回も聴いてるし、作品として出す頃にはもう次の曲のこと考えてるから。
Hiroki:だいたい人に聴かせる頃にはもう飽きてるからね。何なら自分がすごく成長した気になって、前の曲を聴いて前のほうがいいなって思うこともある。
橘:ある。知識を入れるということが成長とは限らないんだよね。これは本当に難しい問題だと思っているんだけど、教科書どおりが100点ではない。前の荒かった時のほうが逆に良かったなという時ももちろんあるし。
Hiroki:聴いた感じ、そっちの方がパンチがあったり。
橘:エッジが立ってるなと感じたりもするよね。それが最近難しいなと思う。知識はやればやるだけついてきちゃうから。
Hiroki:引き出しは本当に増えますよね。
橘:そう。でもそれが良いとは限らないっていう。どこまでも正解がないのがトラックメイカーの宿命なのかもね。
二人が満場一致で選んだ2020年のベストトラックは?
橘:最後に編集部から「2020年このトラックにやられた! と思った作品があれば教えてほしい」という質問が来ているけど、なにかありますか?
Hiroki:僕はトラヴィス・スコットの「The Plan (From the Motion Picture “TENET”)」がヤバかったです。これはどこで聴いてもヤバい。唯一スマホで聴くとそんなにわからないかな。
橘:あれはヤバかった! 車とかの大きいスピーカーで聴くと、空間が低音に囲まれる。
Hiroki:(頭の周りを指して)この辺にボーカルがいますよね。
橘:いるいる! これは感動した。イントロが鳴った瞬間にゾクッとする。
Hiroki:感動しましたよね。同じ人間のやっている技術でここまで差が出るんだっていう。この記事を読んだ人には体験してほしいですね。車かデカいスピーカーで。本当これってどういう技術なんだろう。
橘:音数がめちゃくちゃ少ないよね。低音だけがぶわーっと回ってボーカルが際立つというか。低音と、ハイハット、キック、スネアとボーカルだけだから、1個の音がすごく綺麗に聴こえてくるし、ボリュームが出てる。
Hiroki:何も邪魔してないんですよね。歌がすごくいいとかではないけど、鳴り音を含めてビビったという印象です。
橘:僕たちは2020年、間違いなくこれを一番聴いてましたね。
Hiroki:この曲のファイルは見てみたいなぁ。
橘:それは見たい! 俺、もし見れるんだったらお金積んじゃうかも(笑)。あとは、2021年どんなサウンドが出てくるか。
Hiroki:僕、正直、わかんないです(笑)。
橘:まぁ今はジャンルごとの流行じゃなくなってるよね。世界的にいうとちょっと前まではフューチャーベースとかトラップが流行ったけど。
Hiroki:あとハウスも流行りましたよね。クラブ業界でもめちゃくちゃシンプルなハウスが一時期流行ってました。
橘:でも流行ったサウンドってしばらくはスタンダードになっていくから、どんどんその幅が増えていく感覚だよね。例えばThe Weekndの「Blinding Lights」をきっかけに80‘sっぽいシンセウェーブが流行って、そのテイストをTWICEとかいろんな人たちがやり始めてどんどん増えていった。だから次は何が出てくるのかなっていうのは楽しみだけどね。あ、でも意外と歌ものも流行ってるかも。アリアナ・グランデのアルバム『Positions』もボーカルメインだったし、ジャスティン・ビーバーがベニー・ブランコとやった「Lonely」もそうだし。次はなんだろうな。かっこよかったら何でもいいんだけど(笑)。
Hiroki:僕は日本でもK-POPのような楽曲がもっと作れるようになるといいなと。ゴリゴリのクラブのトラックに、ポップなトップラインが入っているような。やっぱりそういうのがめちゃくちゃいいんですよね。日本でやろうとしても攻めすぎということでなかなかリリースまでたどり着けないこともあったりするので。
橘:あと、俺らまだ一緒に曲作ったことないよね。だから1回チャレンジしてみたいね。
Hiroki:ぜひ!
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